第56話 魔剣の真価
漆黒の剣閃と白亜の剣閃が踊る。
幾度となく刃が交錯する度、衝撃の波が吹き荒び、灰色に溶け合って空間を支配する。
『猪口才ナ!』
それを赤黒い靄を纏った魔剣で受け止める。
さっきまで持っていた剣ならば、今の一撃で折れていただろう。だが、魔剣はびくともしない。
――そればかりか。
『ンナ!?』
見れば、力任せにぶつけた聖剣の方にヒビが入っていた。
『バカナ……ナゼ』
「別に驚くほどのことでもないでしょ。だってそれは、あくまで
昔から相場が決まっていることだ。
『ナラバ、肉体ノ性能デ差ヲ付ケルマデ!!』
『貴様デモ、コノ速度ニハ対応デキマイ! 今ノ貴様デハ、コノスピードマデ加速スルコトハ叶ワナイノダカラ!』
確かに、“
攻撃力が高くなろうとも、相手の奇襲に対応できる速度が、俺になければ意味はない。
けど――
「誰が、お前の速度に合わせると言ったんだ?」
『ナニ?』
「お前が俺のペースにあわせてくれよ」
『ハ……何ヲ言ッテ?』
俺は魔剣を振りかぶり、無造作に振るった。
「“
刹那、赤い靄が背後から差し迫る相手に絡みつく。
その瞬間、相手の接近する速度がガクンと落ちた。
『ナ、一体何ガ……身体ガ思ウヨウニ動カナイ!』
「当たり前でしょ? 俺の持つ魔剣は
俺の持つ魔剣の神髄は、相手への
今俺が相手にかけたのは、鈍重の呪い。
相手の動きを遅くし、鈍らせるものだ。
「いくらお前が速くても、俺のテリトリーに引きずり込めば関係ないでしょ?」
『クッ……!!』
見るからに動きが鈍くなった
そのまま懐に飛び込んで、脇腹をざっくりと切り裂いた。
『グゥッ!』
くぐもった声を上げる
だが、ただでは終わらないとばかりに左腕の豪腕を振り上げ、巨大な掌で頭をわしづかみにしようとしてきた。
その攻撃を躱し、左腕を根元から切り飛ばす。
切り口から黒い血が噴き出し、巨大な腕が地面を転がっていった。
呻き声を上げながらも、
その攻撃を魔剣で受け止め、左側に受け流し、返す刀で相手の胴を薙ぐ。
再度敵の身体から上がる黒い血華。
相手の動きが対応できるレベルまで遅くなったことで、既に趨勢は決していた。
それでも、
既に不利になっていることに気付いているはずなのに、退くという選択ができないのか。
哀れな実験生物だと、なんとなくそう思った。
『ガ……ァアアアアアアア!!』
声にならない声を上げ、膝を突く
が、咆哮とともにギシギシと軋む身体を動かし、聖剣を大きく振り上げる。
その刀身に、真っ白な光が集っていき――文字通り最後の力を振り絞った一撃を放つ。
俺もまた魔剣に漆黒の光を集わせ、聖剣の一撃を真っ向から受け止めた。
今日一番強い光が衝突し、衝撃波が波及して、周囲の床を抉る。
互いに一歩も退かない剣圧は、際限なく高まっていき――そして。
バキィイインッ!
鋭い音を立てて、聖剣の
既に、
『バカ、ナ……ッ!』
驚愕の表情で固まる
武器を失った相手の前へ、一歩右足を踏み出し、手にした魔剣を左腰に沿わせる。
漆黒の刀身に力が集い、バチバチと赤い稲妻が弾ける。
腰を落とし、居合い斬りの格好を保ったまま、大きく息を吸い込んだ。
「――“
限界まで溜め込んだ力を、居合い斬りと同時に解放した。
横薙ぎに払った剣の軌跡が、一条の閃光と化す。赤い稲妻と共に、漆黒の斬撃が駆け抜けた。
『グガァアアアアアアアアアア!!』
上がる断末魔の絶叫。
その声すら飲み込む漆黒の斬撃は、
後にはただ、斬撃が通り抜けた跡と、絶命した
フラン達も副学校長も、その光景に理解が追いつかないのか、唖然とその場に立ち尽くしていた。
こうして、突如として出現した強敵との戦いの趨勢は決したのであった。
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