第57話 首魁の正体は……
《三人称視点》
壮絶な戦いの幕引きで、その場に満ちていた戦いの空気が一瞬にして冷めていく。
(ば、ばかな!?)
先程までの喧噪が嘘のように静まりかえった空間の端に立ち尽くしていたニムルスは、下唇を噛みしめ、握った拳をわなわなと振るわせた。
部屋の中心には、手にした禍々しい魔剣を解除し、「あー疲れた。この魔剣強いんだけど、使うとめっちゃ身体ダルくなるからな……睡魔にも襲われるし。だから使いたくなかったんだよ」などと言いながら、欠伸を噛み殺しているリクスがいる。
(
しかし、あれは勇者の弟なのだ。
よくよく考えてみれば、使えたとしてなんの不思議もない。けれど、聖剣や魔剣のような人智を越えた力に選ばれれば、有頂天になって見せびらかすのが普通。
だが、リクスは今までその素振りも見せなかった。
何より、リクスに詳しいはずの《
あんなバケモノに勝てるわけがない。
研究所は制圧され、《神命の理》の関与が発覚。ニムルスも王国騎士団あたりに捕まってしまうだろう。
証拠隠滅の時間稼ぎは、失敗に終わったのだ。
「ま、まずい……逃げなければ! 一刻も早く、この施設の……いや、学校の外へ逃げねば!」
ニムルスは、反射的に逃げ出した。
だが、それを見ていたリクスが「学校の、外へ逃げる……?」と呟いた瞬間、ニムルスを追って駆けだした。
その動きは、魔剣を使った反動で見るからに鈍いが、ニムルスはニムルスで、天使召喚の影響で本調子ではない。
あっという間にリクスに追いつかれ、ガシッと襟首を捕まれた。
「ひ、ひぃ~っ!」
ニムルスは顔を引きつらせ、ガクガクと身体を震わせる。
そんなニムルスに、リクスはとろんと落ちてきた瞼を擦りながら、告げた。
「何のつもりか知りませんが、俺の退学処置をきっちり完了させてくれるまで、逃がしませんからね!」
「~~~~ッ!!??」
声のトーンを落とし、ハイライトの消えた目でニムルスを睨みつけるリクスに対し、ツッコミを入れる余裕もない。
その抑揚のない声と、深淵を覗くような赤い瞳は、「凪の勇者」と恐れられる姉のエルザにそっくりで――
ニムルスは声にならない声を上げ、恐怖と絶望のあまり失神した。
もっとも、ニムルスが何をしていたのか気付いていないリクスは、単に眠気から声のトーンを落としていただけなのであるが。
「あれ、気絶しちゃった」
リクスは不思議そうに首を傾げたあと、地面に倒れ込んだニムルスを見下ろして「まあ、いいか」と呟く。
そのリクスの身体も、一瞬ガクンと揺れた。
「俺も、少し寝よ……身体重いし」
リクスもまた、襲ってくる眠気に抗うことなく、ゆっくりとその場に倒れ込む。
視界の端に、自身の名前を叫びながら駆け寄ってくるフラン達を捕らえ、そのまま意識を手放したのだった。
△▼△▼△▼
時間は数分前に戻り――
「はっ……はっ……!」
地下研究所の長い通路を、1人の若い男性が駆け抜ける。
その青年は、美しい銀髪を揺らしながら、細い目を開けてしきりに出口へと向かっていた。
ここは、位置的にはリクスとニムルスが対峙した場所の反対側に当たる。
(誤算でした。まさか、彼女の弟さんが魔剣の使い手だったとは)
その青年は、背中に背負った少女を一瞥しつつ、歯噛みする。
背中に背負っているのは、磔から解いた勇者エルザだ。そう、彼は《神命の理》最高幹部の一翼、《
(本来であれば、
《
焦りのままに、近くにあった扉を蹴り開ける。
その中の部屋では、構成員数名が慌ただしく書類を処分していた。
「あ、こ《
来訪に気付いた構成員の1人が、そう告げる。
が、《
「“ファイア・ボール”――六連射」
刹那、膨大な魔力で強化された六つの火球が室内を蹂躙する。
室内は忽ち、真っ赤な炎で埋め尽くされた。
「な、何を……うぁああああああああ!」
突然味方に牙を剥いた上官に、驚きと侮蔑の表情を浮かべながら、構成員達は瞬く間に火達磨となって
その様子を冷たい瞳で見下ろしながら、《
「許しなさい。こうなった以上、貴方たちごと証拠を隠滅する他ないのです。私達の研究を、外部に知られるわけにはいきませんので」
「あら、そう~。随分と手荒なことするじゃな~い?」
そのとき、背後から間延びした声が投げかけられる。
だが、それは背中に背負った少女から放たれたものではない。声の出所の、距離が違う。
「まさか……」
振り向いた《
彼の視線の先には、右手に眩いばかりの聖剣を携えたエルザがいた。
「なぜ……あなたがここに?」
《
エルザが二人。その現実に一瞬戸惑うも、忘れかけていた彼の中の記憶が、そのカラクリを紐解いた。
「分身……ですか」
「ええ。固有魔法“
エルザは、一歩前に足を踏み出す。
同時に、背中に背負われていた分身体の方が、サラサラと消滅していく。
いつの間にすり替わったんだと、《
「このいけ好かない研究。あなたが糸を引いていたんですね~。昔からあなたのことは大嫌いでしたけどぉ。《
エルザの言葉に、《
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