第54話 災厄の降臨
組織? 壊滅?
一体何の話だ。学校のことを言っているのなら、流石にテロなんてするつもりはないぞ、俺は。
「た、退学? 本当にそれが目的で、ここへ来たので?」
「はい。敷地外でバルダに攻撃を加えた件で。もしかしたらもう、姉さんが俺の退学を取り消すようにお願いしてしまったかもしれません。……が」
そこまで言うと、俺は思いっきり両手と頭を床につけ、姉さんを怒らせてしまったときのために絶えず腕を磨いてきた
「お願いします! どうかこの俺を、退学にしてやってください!」
「え? 退学にする方? 退学処置を取り消す方じゃなくて?」
「はい! 是非学校のルールに則った、公平なる退学処置をお願いします!!」
床に額を擦りつけ、懇願する俺。
遠くで見守っていたフラン達は、何事かと首を傾げ、目の前のニムルスに至ってはドン引きしているようだった。
「お、おほん。……少々驚きましたが、わかりました。では、そのように取りはからいましょう」
「本当ですか! ありがとうございます!」
俺は目を輝かせ、飛び起きるとがしっとニムルスの両手を握った。
これで交渉成立だ。
学校のルールを取り仕切る副校長先生から言質を取った。
姉さんから半殺しに遭うこと請け合いだろうが……その程度でくじけるほど、俺の覚悟はあまくない。
ぐーたら生活のためなら、どんな苦難にも立ち向かっていく。
「では、要件は終わりましたので、俺は帰りますね」
俺は踵を返し、意気揚々と、待っているフラン達の方へと戻って行く。
これにて一件落着。
そう思っていた俺の背中に、ニムルス副学校長が語りかけてきた。
「あなたをこの学校から排除することの助力はさせていただきましょう。ただし、物理的にですがね」
ねっとりとした口調で、ニムルスが言う。
思わず振り向くと、彼は俯いたまま、口角を歪めていた。
そのときだった。
突如、空間全体が大きく揺れ出したのだ。
「な、なんですの!?」
「地震か!?」
サリィ達は、突然のことに狼狽え、あたりを見まわす。
「ご主人様! 上です、天井から凄い威圧感が……!」
「ああ、気付いてる。これはヤバいな」
顔を青ざめさせて忠告してくるマクラに頷いて返す。
今まで感じたことのない恐怖が、圧力が、天井から漏れ出ている。その力に耐えきれなかったとでも言うように、天井に亀裂が走り、粉々に砕け散った。
砕けた天井から、何かがゆっくりと降りてくる。
そいつは、辛うじて人の形を保っているバケモノだった。左腕は大きく盛り上がっており、鉄の鱗のようなものが、身体の一部を覆っている。
元が生物なのか、それとも一から作ったものなのか。それも判断がつかないほど、冒涜的なデザインだった。
「なんでこんなヤツが、学校の地下に!?」
サプライズイベントの召喚獣とは明らかに別物。
そう判断したのは、そいつが放つ威圧感のせいだけではない。俺達の目は、そいつが右手に持つ光り輝く剣に釘付けになっていた。
「あれは……聖剣、《
「不思議に思いますかな?」
不意に、後ろに立つ副学校長が問いかけてきた。
「そう思うのも、当たり前です。聖剣は世界に選ばれし7人しか持たないものであり、一つとして同じものはないんですから。この
なぜか、副校長先生は自分の玩具を自慢するかのように、高らかに宣言する。
どうして、そんなことを副学校長が知っているのか? それを問いただす暇は、くれなかった。
『グガァアアアアアアアアァ!!』
それは世界の全てを呪うような声色で、全員の正気を奪い去るかのごとく、真っ白な円筒形の空間に響き渡った。
瞬間、聖剣を携えて突進してくる。
その速度は、
俺は咄嗟に“
身体強化が……いや、魔法が起動できないのだ。
見やれば、いつの間にか壁や床に禍々しい魔力の光が通っている。
「これは、アンチ・マジック・フィールドか!!」
まさかこんなものが仕掛けてあったとは。
俺は歯噛みしつつ、魔法無しでできる限界の速度で飛び下がる。足の筋肉が負荷に耐えきれず悲鳴を上げるが、気にしている暇はない。
魔力を通して限界まで硬くした剣で、聖剣を受け止める。
が、聖剣とただの剣では根本的に差が存在するもの。
ダイヤモンドの硬度をしのぐほどに強化されているはずの剣が、ただの一撃であっさりと叩き折られた。
「ぐっ!」
『ソンナ、ガラクタデ、ハ……俺ニハ、勝テナイ』
「げっ、しゃべるのかよ!」
てかこいつ、どっから声出してんだよ! 顔の形が歪すぎて口見当たらないぞ! 腹話術検定があったら間違い無く合格するぞこいつ!
カタコトで会話をする
けれど、それ以上の速度で追いすがってきた。
魔法の使えない身体はいつも以上に重く、遅い。
編入試験で戦ったブロズとはわけが違うから、刃折れの剣で戦えるはずもない。
神速で振るわれる聖剣を、紙一重で避ける、避ける、避けていく。
が、完璧に避けられるわけではない。一撃ごとに浅く傷が入り、そのたびに血華が舞う。身体に、確実にダメージが蓄積されていく。
『ドウシタ? 避ケルダケカ?』
「り、リクスくん!」
耐えきれなくなったのか、フランが悲鳴を上げる。
「リクスさん! ワタクシ達も加勢しますわ!」
サリィがレイピアを引き抜き、加勢しようと飛び出そうとする。
「来ちゃだめだ、そこにいてくれ! でないとこいつに狙われるぞ!」
腕を裂く斬撃の痛みに耐えながら、俺は叫んだ。
魔法が使えない以上、彼女たちで太刀打ちできる相手ではない。むしろ、邪魔になるだけ。こいつの狙いが俺だけに向いている状態が、一番勝率が高いのだ。
「で、でも!」
俺に今守られている状態であることがわからないほど、サリィはバカではない。
悔しそうに表情を歪めながらも、それでも俺を助けようと、食い下がる。
だが――俺が守ろうとしているものが、少なからず知性を持った敵に筒抜けでないはずもなかった。
『ソウカ。オマエノ弱点ハ、ソイツ等カ』
瞬間、
「なっ! まさか!」
全身を駆け上る怖気と共に振り返ると、そいつは背後に控えるサリィ達へ牙を剥いていた。
突然狙いを変えられたことで、反応が遅れた彼等は、ただその場で呆然と立ち尽くしているしかなく――
「くっ!!」
俺は、足の筋繊維が切れるのも厭わず、肉体の限界を超えた速度で
無理矢理体勢を立て直し、折れた剣で聖剣を真っ向から受け止める。
が、人智を越えた力を持つ聖剣は、ボロボロの剣を容易く両断し――俺の身体を斜めに深く切り裂いていた。
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