第52話 一年生ズVS姉さんズ
「なぁっ!?」
突然のことに驚きつつも、俺は“
三体の姉さんは、前方に張った障壁に阻まれ、一度距離を取った。
――が、しきり直したのも束の間。
上級魔法の“フレア・カノン”を連発し、
衝撃波が障壁の外で吹き荒れ、通路の壁や天井を破壊していく。
姉さんがどうして、こうも苛烈に攻撃してくるのか。
思いつく理由は一つしかない。
「ど、どうしてリクスくんのお姉様が、攻撃を――?」
後ろに立つフランが、狼狽えたように呟く。
「俺が退学案件を引き起こしたから、怒ってるんだ!」
「えぇ~、そんな理由ですか? 敵の策略とか、そういうのじゃなくて?」
「間違いない! 姉さんは昔から、理不尽が服を着て歩いているような人だった! 昔俺が姉さんのお気に入りの服を改造してテーブルクロスにしたときなんか、怒り狂った姉さんによって実家は半壊。俺は危うく殺されかけたんだ」
「う~ん、それは全面的にリクスくんが悪いような……喧嘩のスケールだけ異次元ですけど」
俺の言葉に、フランが苦笑する。
とりあえず、問題なのは姉さんが怒ったときの容赦のなさだ。
姉さんは俺を入学させることに固執していた。ならば、退学案件に首を突っ込んだことに腹を立てても不思議じゃない。
「とにかく、今はこの分身体を退けるのが先決だ。俺が前に出て蹴散らす!」
「む、無茶ですわ! 相手は勇者3人分ですのよ!」
「な~に。分身体は本体より弱いから、なんとかなるさ!」
「そんな適当な!?」
悲鳴を上げるサリィに笑いかけ、俺は剣を抜く。
そして、“
拡張された魔力障壁は姉さん達に激突し、後方へ吹き飛ばす。
着地して体勢を立て直すまでの僅かな間隙に“
一体目が右手を構え、“ファイア・ボール”を俺めがけて連発する。
それを避けずに剣で両断し、一足飛びに間合いを詰める。
「はぁあああああ!!」
迅速で振り抜いた剣と、一体目の持つ剣が交錯し、火花が上がる。
俺は魔力を込めた足を振り上げ、膝蹴りを食らわせた。
一体目の身体がくの字に折れ曲がり、一瞬剣に込められる力が緩む。
その機を逃さず、俺は剣に魔力を込め、剣ごと一体目の胴体を薙いだ。
上半身と下半身が真っ二つに分かれ、そいつはその場に崩れ落ちる。
が、その瞬間にも俺の前後に素早く展開した二体目、三体目が、剣をその手に霞むような速度で飛びかかってきた。
「ちぃっ!」
咄嗟に横へ飛んで躱す俺。
一瞬前俺がいた場所に飛びかかった二体は、互いに空中で身体を捻り、着地と同時に俺へ飛びかかってきた。
「やっば!」
間一髪、斬撃を剣で受け止める。
が、もう1人の個体が、飛びかかってきた個体の背中を蹴って空中へジャンプし、俺の頭上から剣を突き立てようと迫り来る。
あ、やべ。ちょっとピンチかも。
冷や汗が額に浮かんだ、そのときだった。
「火魔よ、三方より彼者を打ち据えよ――“トライアングル・ファイア!」
後方から飛んで来た三つの火球が、上から迫り来る個体へ肉薄し、激突する。
轟! と音を立てて燃えあがる個体。
それに追撃をするように、俺の後ろから陰が飛び出した。
陰の正体は、レイピアを携えたサリィ。
魔法で強化した脚力で飛び上がり、火達磨になった個体へ渾身の突きを放つ。
その一撃でそいつは、後方へ吹き飛ばされた。
「悪い、助かった!」
俺は、目の前に居る個体を蹴り飛ばして、一度距離を取る。
「前に助けていただきましたもの。今度はワタクシ達が、助ける番ですわ」
そう言って、サリィはウインクしてきた。
後ろを見れば、フランが拳を握りしめ、ガッツポーズをしている。どうやら、今の魔法は彼女の放ったものだったらしい。
「こっから、一気に畳みかけるぞ!」
「了解ですわ!」
俺達は互いに頷き合い、2人へ向かって駆けだした。
――。
斬撃の応酬が繰り返される。
俺とサリィは、それぞれ一体ずつ相手取っていた。
サリィは、持てる魔力を惜しみなく身体強化につぎ込み、なんとか攻撃に耐えている。
おそらく、一分と魔力が持たない捨て身の策だ。
それでも、彼女と勇者モドキの相手では地力に差がありすぎる。
フランの放つ魔法の援護があるが、それでももろに攻撃を喰らい、血が宙を舞う。
そのたびにサルムが遠隔で回復魔法を放ち、傷を修復していた。
実質3対1で、なんとか戦いが成立している状況。
けれど、一体を引き付けてくれているのは大きい。
お陰で――
「目の前のヤツだけに集中できる!!」
俺は、音速を超える速度で放たれた突きを躱す。
腕が伸びきった僅かな隙を逃さず、剣を斜め上に切り上げた。
相手の腕が肘から切り離され、剣を持ったまま宙を舞う。
目の前の個体は、無表情のまま飛び下がり、“ウィンド・ブラスト”を放った。
莫大な魔力で上級レベルにまで昇華された暴風の戦鎚が、俺を襲う。
俺は上に跳躍し、その暴風をやり過ごす。空中で身を捻って天井に着地し、天井を蹴る威力と重力による落下を上乗せして、相手の真上から飛びかかると、渾身の斬撃を放った。
剣の軌跡が弧を描き、相手の首を切り飛ばす。
「あと一体!」
見やれば、サリィと最後の固体が鍔迫り合いに興じていた。
が、それも一瞬。
相手の膂力に押し負け、サリィの体勢が崩れる。それを見逃すはずもなく、最後の固体がサリィの脇腹に剣を突き刺した。
「ぐっ!」
くぐもった声を上げるサリィ。
「サリィ!!」
俺は剣を構え、彼女たちの方へ駆け寄る。
それに気付いた最後の個体が、俺を相手取るために一度サリィから距離を取ろうとした。
が――動かなかった。いや、動けなかったのだ。
「げほっ……逃がしませんわ!」
見やれば、サリィは脇腹を貫かれたまま、相手の身体にがっしりと組み付いている。
俺が確実にトドメを刺せるよう、文字通り身体を張って留めているのだ。
今まで無表情だった固体の顔に、初めて焦りのようなものが生まれる。
サリィの束縛から逃れようと抵抗する。が、しかし。
「「土魔よ、大地の呪縛にて束縛せよ――“ガイア・バインド”!」」
サルムとフランが援護の魔法を放ち、相手の身体を床に強く縫い付ける。
3人の必死に抵抗によって、相手は身動きを封じられていた。
「ありがとう、すごいよお前ら」
俺は小声でそう呟き、風属性魔法“エア・ブレード”を纏わせた剣で、最後の固体の心臓を貫く。
そして、そのまま剣を縦に振り抜き――最後の相手を真っ二つに切り裂いたのだった。
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