第50話 姉さんの元へ

「「「え、えぇええええええええええええ!?」」」




 フラン達3人の叫び声が重なる。




「ま、マクラさんとリクスさんが夫婦!? ってことは、マクラさんはその、リクスさんの、お、およ、お嫁さん!?」


「ほ、本当なんですの!? リクスさん!!」




 目を血走らせたフランとサリィが、ずいっと身を乗り出してくる。


 


「そんなわけないだろ! これはコイツのジョークだ! おいマクラ、何変なこと言ってくれてんだよ!」




 俺は必死に弁明しつつ、マクラに食って掛かる。




「えぇ~、別に間違ってないと思うけど。だって、一つ屋根の下で暮らして、毎日一緒のお布団で寝てるじゃん」



 だが、マクラは悪びれもなく、容赦なく業火に油を注いでくる。



「そ、そそ、そうなんでしゅか!?」




 フランはテンパりすぎて噛みながら、




「そ、そんな! リクスさんハレンチですわ!!」




 サリィは、目をぐるぐると回しながら、2人揃って騒ぎ立てる。


 サルムは、そんな2人を眺めつつ、一歩引いたところで苦笑いしていた。


 


「いや違う! ……とも言い切れないけど、マクラは俺の枕の中に入って寝てるから、断じて添い寝してるわけじゃないぞ!」


「つ、つつ、つまり、美少女の上に頭をのせて寝ているってことでしゅか!?」


「よ、余計いかがわしいですわ!」




 俺の必死の弁明も届かず、フランとサリィのテンションはバカになっていく。




「だぁ~もう! この忙しいときになんでこう面倒ごとが起きるんだ! おいマクラ! こうなったのはお前のせいなんだから、ちゃんと訂正してくれ!」


「えー。ごめん、私今、絶賛姉上お探し中で手が離せないの。ご主人様でなんとかして」


「都合のいい理由つけて逃げるなぁあああああああ!!」




 最早収集がつかなくなりそうな混沌カオスの中、俺の絶叫が空へと吸い込まれていくのであった。




――。




 5分後。


 暴れ回る少女2人をなんとか宥め終えたところに、マクラからの待ちわびた言葉が届いた。




「来た! エルザ姉さんの魔力反応をキャッチしたよ!」


「ほんとか!? どこだ!」


「この辺りの下200メートル。どうやら地下にいるみたい」


「地下?」




 どうりで姉さんの魔力反応を探るのに時間がかかったわけだ。 


 地下にいるんじゃ、反応を感じ取りにくいのも頷ける。それにしても――




「この学校、地下施設なんてあったのか」


「ううん、ないはずだよ」




 俺の独り言にそう答えたのは、サルムだった。




「ない? じゃあ、なんで地下に姉さんが……」


「……そうか! 私、わかりました! きっと、リクスくんより先に敵の黒幕の潜伏先を見つけ出したんです!!」




 急に、フランがぽんと手を叩いて言った。


 敵? 黒幕?


 一体何を言ってるんだろうか? さては、推理小説の読み過ぎだな、この子。




「お姉様が見つかったのなら急ぎましょう、リクスくん!」




 袖を引っ張って走り出そうとするフラン。




「まずは、お姉様と同じように地下に行って……あ」




 そのまま、前に一歩踏み出した足を止めた。


 何か重大なことに気付いたように、冷や汗を垂らしつつ振り返る。


 


「ど、どうやって地下に行きましょう? 入り口とか……どこにあるのかな」


「確かに、行き先がわかっても、入り口がわからなければどうすることもできませんわね」




 青ざめるフランに同調し、細顎に指を当てて思案するサリィ。




「何言ってんの? 掘り進めてけばいいじゃん」


「「「……は?」」」




 マクラを除いた3人が、俺の提案に対し唖然と口を開けた。


 なに? 俺、なんか変なこと言ったか?




「い、いやいや。掘るって……マクラちゃんの話では、地下200メートルにいるんでしょ? そんな距離掘り進んでたら、日が暮れちゃうって!」




 サルムが、慌てたようにそうまくし立てる。


 


「いや、そう大変なことでもないだろ……“ソイル・チェンジ”」




 俺は、土壌の形を自由自在に変える土属性魔法、“ソイル・チェンジ”を起動した。


 刹那、ゴゴゴゴ……と地響きを挙げ、目の前の地面が次々と抉られ、下へと続く階段が形成されていく。


 ものの数分で、先が見えないほど深いところまで続いている、地下への階段ができあがった。




「ほい。それじゃあ行こうか」




 俺は先頭に立って、そそくさと階段を降りだした。マクラがスキップしながら、俺に続く。




「う、嘘でしょ……中級魔法の“ソイル・チェンジ”は、せいぜい10メートル四方の土の形を変えるのが限度なのに」


「桁違いの魔力ですわ……」


「う、うん。私、腰が抜けちゃいました……」




 呆気にとられたようにぽかんと口を開けて俺の背中を眺めていたサルム、サリィ、フランの3人は、口々にそんなことを言っていた。




 かくして、俺達は姉さんを探して地下へと足を踏み入れたのである。


 その先で、とんでもない激闘が待ち受けているとも知らずに――


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