転生遊者の土地開発計画 ~貴族の四男に生まれたので、自由気ままに遊園地づくりを目指します~
秋ぶどう
第1話 転生とステータス
「あれ、ここは……」
ふと意識が覚醒して呟く。
簡素な病院のベッドで寝ていたはずだけど、今いるのは知らないベッドの上だ。
次いで天井に目をやると、小さなシャンデリアのようなものが付いていた。
明らかに自室でもないし、なぜこんな場所にいるのか分からない。
「どこだろう……って、あれ…? 体が、痛く……ない……?」
うーん、おかしいぞ?
僕は違和感に首を捻る。
寝る前はあんなに痛かった全身が、まるで痛くない。
原因不明の難病。
生まれた時から十数年、僕の体を蝕み続けた病魔の痛み。
高校に入る頃にはますます痛みが強くなり、大学生になったある時、ついに立つこともままならなくなった。
長期間の休学状態、学業どころか命そのものも風前の灯――それが僕、
「これって、もしかして……」
ベッドから上体を起こすと、妙に視線が低い。
グーパーと開いた手のひらは、子供のように小さかった。
そして次の瞬間、膨大な記憶の奔流が僕の脳裏に流れ込んでくる。
「思い出した……“リベル・エル・レクシオン”」
そう、それが今の僕の名前。
全てを思い出したことで、2つの人格が一体化するような感覚があった。
いわゆる転生であるが、何かの拍子に前世の記憶――神楽遊としての記憶が蘇った形のようだ。
「なんか不思議な感覚だけど……うん、慣れたね」
僕は一人で頷きながら、それにしても……と疑問に思う。
神楽遊は生まれつきの難病に侵されていたけれど、何の運命の悪戯なのか、それは今世のリベルも同じだった。
この世界は前世でいうところの“ファンタジー世界”。
つまりは魔法が存在するわけだが、僕は魔法が上手く使えない。
魔力が変質してしまう謎の難病にかかっているのだ。
変質した魔力は人体にとっての毒となり、常時耐えがたい激痛が襲いかかる。
「……はずだったんだけど」
僕はベッドから立ち上がり、軽くストレッチをしてみる。
本当なら全身がバキバキと悲鳴を上げるはずだけど、何事もなく動かすことができた。
目が覚めた時から違和感を覚えていた通り、いつの間にか健康体(?)になったみたいだ。
状況的に間違いなく、記憶の覚醒が関係している。
前世の小説とアニメから得た知識的に、転生の恩恵だろうね。
神楽遊の人格が統合されたことで、僕の体に何かが起きたのは間違いない。
「おおっ、なんかテンション上がってきた!」
体が痛くない、ただそれだけで天にも昇るような心地だけど、転生といえば大体の場合、何らかの“転生特典”がつきものだ。
いや、痛みが取れただけでも十分なんだけどさ、やっぱり少しは期待しちゃうじゃん?
神楽遊時代の僕は、ベッドで寝たきりだった都合上、ファンタジー系のウェブ小説等を読む機会もそれなりに多かった。
そして、転生した主人公達を見て、憧れの感情を抱いたものだ。
「ふふ、もしかしたら僕も……」
思わず口角が上がってしまう。
この世界には、魔法とは別に“神の祝福”というものがある。
前世のファンタジー小説風に言えば、
剣の扱いが上手くなる【剣士】の才能だったり、魔法への適性が上がる【魔導士】の才能だったり。
生まれつき祝福を受けた人もいれば、後天的に祝福を獲得する人もいる。
僕には何の祝福もなかったけれど、もしかしたら――
「【勇者】とかだったりして……それはないか」
テンプレすぎるご都合展開に
さすがに【勇者】は出来すぎだとしても、たとえば【賢者】とか【剣聖】とか。
「いやいや、そんな器じゃないよね。少し舞い上がりすぎた」
いきなり世界のために戦えと言われても、僕は困惑するだろう。
なんたって、前世も今世もほとんど寝たきりだったのだ。
コホンと咳払いをした僕は、ベッドに座りなおす。
「うんうん、やっぱりありえないよね。でも一応……」
せっかくの転生だし、記念にテンプレ行動だけはしておこう。
そう思い、「ステータスオープン」と口にすると――
ヴォン。
「――え?」
浮かび上がった透明のウィンドウに、つい間抜けな声が出る。
「嘘ぉ……」
ステータスオープン等と口にしたが、それはあくまで前世のノリ。
そんなコマンドはこの世界にないはずなんだけど……成功してしまった。
―――――――――――――――
リベル・エル・レクシオン
職業:遊者
―――――――――――――――
ウィンドウに書かれていたのは、極めてシンプルな情報。
ステータスとは言っても、体力や魔力等の表示はない。
ただ、重要なのはそこではなかった。
「…………【遊者】?」
僕は呆然と呟く。
勇者ではなく、遊者。
まさかの『ゆうしゃ』違いという、予想外の転生特典だった。
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お読みいただきありがとうございます。
本日中に4話まで投稿する予定です。
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