第43話
現地に着くと、あいさつもそこそこに、ダンジョンの主、物部の案内で、入口へと至った。
「こちらから行ってもらいます」
物部はどこかうさんくさい笑みを浮かべる。
「ひゃー月川ちゃん、ダンジョンの入口だって、ワクワクしちゃうね!」
「そうだね。これがダンジョンかあ」
光谷と月川はかなり打ち解けているようだが、あまりの浮かれぶりに、坂巻はだいぶ不安になった。
「あの、曲がりなりにも私たちがいまから挑むのはダンジョンですから、光谷さんも月川さんも、もうちょっと気を引き締めてもらえると助かります」
「ふぁーい、怒られちった」
「怒られちゃった。ふふ」
相変わらず気の抜けたような、クラスの一軍女子と頼れるはずの先輩に、坂巻は思わず頭を抱えた。
だが。
「いやいや、ダンジョンに心浮かれるのも分かります。だって私が作った当人ですからね。飽きの来ないような、ピカイチの攻略しがいがあるダンジョンを作ったつもりです。安全にも最大限配慮していますからね」
「ほら、物部さんもそう言ってるし、これではしゃがないのは人生損してるよ!」
「なに、あたしたちなら大丈夫だよ。きっと突破できる」
物部に乗せられて浮かれまくる女子二人。
六条門のお嬢様は大丈夫か、と坂巻が見やると。
「ダンジョン……坂巻様、今さらですがかなり新しい試みで、つまり先人たちの蓄積があまりない、手探りの挑戦になりそうですわよ」
意外にもかなり冷静だった。
「綾島の言うとおりだよ。突破口を自ら探して、自ら切り拓かなければならない、厳しい勝負だ。坂巻、持ち込む魔道具の点検を手伝ってくれないかい。……大きな声では言えないけど、物部さんとやらの弁舌も気をつけるべきだ。あの人自身が『入口の仕掛け』といってもいいかもしれない」
ついでに犬飼も冷静そのものだった。もっとも、彼はいつものことではあるが。
「犬飼は冷静で良かった。ついでに綾島も、だいぶ冷静なようだな。……というか綾島は大丈夫か、いくぶん寝不足に見えるぞ」
「うっ、おっしゃる通りですわ。半分は不安で、もう半分は坂巻様と一緒の外出にワクワクして、あまり眠れませんでしたの」
「ハハハこれだから脳筋お嬢様はブヘッ」
犬飼がビンタされた。
「この状況でコンディションを万全に整えられる犬がおかしいんですわ、坂巻様ですら少し心労が見えますのに!」
「僕はこのメンバーの中では、まあ……一般的な視点では、弱いほうだから、自分の身を守って、ついでに罠探索とか分析とかでみんなの役に立てれば、それでいいのさ。むしろ脳筋お嬢様のほうが、戦いは光谷さんたちに見劣りするし、探知系でもあまり役にブヘアァ!」
派手にビンタされた。
「わたくしは、むぐぐぐ、わたくしは!」
「ハハハ、にぎやかやなあ」
黙って見守っていた倉が一言。
坂巻は綾島に告げる。
「綾島、きみは近くにいてくれるだけでもありがたい。エース二人は、結局は道場試合とか部活動とかだから、野試合とか実戦経験に多少の難があるし、犬飼は頭脳派で向き不向きがあるからな。綾島は実戦経験でサポートできるはず。居場所はあるから安心してくれ」
「坂巻様……!」
「坂巻もついに色香にあてられたかな。まあそんな大した色香じゃなゴファ!」
今度は腹を殴られた。
「坂巻様、お優しいですわね。フフフ」
「なんかなあ、どんどん不安が深まる……」
坂巻は道具の点検を終えると、モヤモヤしながら入口を見すえた。
ダンジョンは地上含め、地下に向かって三階建てで、日帰り可能な造りになっている。
事前にそう聞かされていた坂巻は、メンバーの先頭に立って慎重に進む。
坂巻に限らず、メンバーの口数は少ない。ダンジョンの中にいることを強く認識しているからだろう。撮影に専念している倉も、今回は静かだ。
浮かれて足元をすくわれる、というのは杞憂だった。
とはいえ、このダンジョン、全体的に暗く、壁が土造りで各所に魔道具によるたいまつ風の灯りがあったりと、雰囲気がかなり出ている。
出すぎている。
あまりの本格感に、犬飼と綾島はともかく、お助けエース二人がガチガチに緊張しているのがよく分かる。
荒療治になるが、自律生物と一戦でも交えれば、緊張はほぐれるだろうか。
手荒な方法だが、まずまずそのようなやり方しか考えつかない。あの能天気な、特に光谷が緊張するほどであるから、言葉をかけたぐらいではどうにもならないだろう。
と、気づいた。
「そこに罠があるな」
「そうだね。弩の矢が飛んでくるってところかな」
坂巻と犬飼が言葉を交わす。
少しして。
「確かにそうですわね。そこに違和感を覚えますわ。危険が伴っております」
綾島が気づき。
「あ、確かにそこ怪しいね!」
「しかも得るものではなく、失うものだけがありそうな罠に見えるね」
光谷と月川が察知した。
「さて罠解除か」
「しかしどうするんですの、分解するとか?」
「まさか。俺たちにそんな技術はない。俺たちは勝負師であって冒険者ではないんだ」
「ではいったい」
綾島が聞くと。
「念のため後ろに気をつけててくれ。たぶん横から来るとは思うけども」
彼はおもむろに白兵魔術を行使した。
【zelt】
魔力の球が、床のスイッチを撃ち、罠を作動させる。
瞬間、見込み通り弩の矢が眼前を駆けていった。
矢は壁に当たって、土に突き刺さる。
「勝負師のできる罠解除ってのは、こういうものだろう」
「へぇ、坂巻くん、ワイルドでかっこいい!」
「私を打ち負かした勝負師はこうでなくては。かっこいい」
「あの……これ解除というより暴発とかそういう……」
綾島は首をかしげていた。
言いたいことはもっともだが、実際、彼らは罠分解の方法など知らないし、勝負師用のダンジョンなら、きっとこれでもなんとかなるようになっているのだろう。
パーティは再び前進した。
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