第30話
しばらくして、倉が到着した。
「いやあ、遅くなってえろうすんまへん」
倉は平身低頭。
「いえ、こちらこそ突然お呼びしてすみません。撮影機材、持ちますよ」
言いつつ、坂巻も機材を担いで運ぶ。
「ここでよろしいですか」
「ああ、ありがとな坂巻くん」
「いえ、撮ってもらうのは私なので、これぐらいしないと」
毎回お世話になります、と彼は一礼した。
「で、坂巻くんの試合か」
倉はざっと見回して彼に耳打ちする。
「相手はあの、教師の近くにいる、背の高いセミロングの女の子かい?」
月川副部長のことである。
「おそらくそうだと思います。まだあちらからの宣言を聞いていませんが、どう考えても最大戦力はあの人でしょうね」
「お、気が合うねんな。ワイもそうみたで」
倉は苦笑する。
「あの子が部長か?」
「副部長らしいです」
坂巻が答えると、彼は彼らしくもなく驚く。
「副部長? エースはどう考えてもあの子なのに、部長じゃないねんな」
「私もそこは気にかかりました。とはいえ他の面子も、実力隠匿しているわけではなさそうですし、きっと、少なくとも日野下部長には戦い以外の要素があるんだと思います」
「言うとおりやな。そうとしか思えへん。とはいえ日野下部長に聞くようなことでもないな」
「聞いたところで手の内は明かさないでしょうし」
「その通りやな。あとで個人的にインタビューのつもりで聞いてみるわ。ありがとうな」
倉は苦笑した。
作戦会議が終わった。
「それで、一騎討ち部からはどなたが」
「あたしです」
予想通り、月川副部長が挙手した。
「月川副部長ですか、今回はよろしくお願いします」
「お互いカメラの前ですし、正々堂々と、恥ずかしくない戦いをしましょう」
「ぜひ」
坂巻は一礼した。
「じゃあ月川も坂巻も、そこに立って深呼吸」
安芸山が促す。
一呼吸。
思考が幾分クリアになる。
「合図は、そうだな、倉さんに任せてもよろしいですか」
「了解。では……三、二、一、始め!」
空気が一気に張り詰めた。
月川は出方をうかがっているようだ。
我らが坂巻も慎重に、出方をうかがう。
傍目からみれば、ただのにらみ合い。
しかしその裏では、互いの観察と読み合いが、幾筋も不可視のやり取りを続けている。
空気は常にひりつき、互いの緊張感が観衆にも伝染する。
誰もが固唾を呑む。
勝負の一瞬は、今か今かとその時を待ちわびる。
――静寂を破り、先に仕掛けたのは月川。
【baristus】
魔力の槍が形を成し、坂巻を食い破らんと襲い掛かる。
坂巻はあくまでも落ち着いて、その一撃を回避する。
その隙を突いて、月川は彼に接近、そのまま拳を繰り出した。
「甘い!」
坂巻もこれを回避しながら踏み込み、クロスカウンターとして自身の拳を放つ。
月川はそれをすら避け、間合いを取ろうとする。
が、坂巻は構わず飛び込むように前進、服をつかんで組むと、投げ技を試みる。
「くっ!」
その試みは成功し、月川は完全に不意を衝かれた形で地面に叩きつけられる。
まだ勝負師の指輪が壊れないのを確認した彼は、至近距離で詠唱。
【zelt】
白兵魔術が彼女の腹部に叩き込まれた。
「げふっ!」
勝負師の指輪が砕け散った。
◆◆◆
本作をここまで読んでくださり、まことにありがとうございます。
物語は半ばを過ぎ、徐々にキャラクターが登場し、話が展開してきたところです。
もし、これはいいな、と思うことがありましたら、ぜひ星評価等をいただければ幸いです。
作者のさらなる励みになります。よろしくお願いします。
◆◆◆
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