小話 『黄昏時の鬼』~闇の陰陽師編~
黄昏時の鬼。それは裕昌と菜海がプレイしている和風バトルアクションゲームである。
リリースから約二カ月が経った。
裕昌も菜海もすでに現時点の最終章までクリア済み。他のユーザーでもクリア者が続々と出始めた頃だった。
「遂に……!」
「新章追加アップデート……!」
二人して嬉々として盛り上がっている中、いつも通り「なんのこっちゃ」と蚊帳の外の黒音と不知火。
それに加えて、主が嬉しそうだからかぱちぱちと拍手をする黒龍と、頭上にはてなが浮かんでいる晴明、なんかわからないけど面白そう、と興味を示す雫がいた。
今日は定休日。たまたま通りすがった晴明と雫を捕まえて、先日の労いもかねて昼ご飯を御馳走していたのだった。
「何それ?」
晴明が二人に問う。
「あ、ごめんごめん。ゲームの話」
「ひろくんと私がやっているゲームがあって、それに新しいストーリーが追加されるんです」
「晴明はゲームとか触ったことある?」
裕昌に問われた晴明はうーんと思案した。
「囲碁とか双六とか将棋とかなら触ったことがあるけど、ゲーム機自体に触ったことがないなあ」
「いや、平安時代に住んでる?」
「パソコンは中学校高校以来触ってないし、何なら携帯も最近までパカパカ開くやつだったし」
間。
「マジで!?!?!?!?」
裕昌と菜海が驚愕している。ゲーム機はなんとなく想像がついていたが、まさかパソコンすら高校どまりだったとは。更にスマートフォンも初心者とは。
晴明は驚く二人に苦笑して続ける。
「仕事も基本電話かメールしか使わないから触らないんだよ。それ以外の時間は霊符を描いたり、書物読んだりしてネットとかけ離れてるからかもな。……ああ、あと祖母に呼び出されたりしてるし」
何故か最後の方はやけに怨みが籠っていたような気がするが、気にしないでおこう。
「ノートパソコンくらいはいるかなとは思ってるけど、壊しそうだから手が出ないんだよな」
ふむ、と裕昌は考える。パソコンなら自分の得意分野だ。更に今は菜海も傍にいる。教える機会にはもってこいだが。
しかし二人はぶんぶんと頭を横に振り、思いとどまった。
「……いや、やめておこう。なんかこっちの世界に引きずり込む罪悪感が凄いんだけど。菜海ちゃんはどう思う?」
「私もまったく同じことを考えていたの。御門さん、すっごく真面目そうな人だから、申し訳ないなって……」
そんな三人の間に入ってきたのは雫だった。
「別にゲームくらいいいと思うけどな。それくらいのことで技量が落ちたら、それこそ陰陽師失格だね」
「雫もこう言ってるし、俺も新しいことを学ぶチャンスだと思うから、是非二人にご教示願いたいんだけど、どうかな?」
意外にも乗り気な晴明にこれは友人として期待に応えねば、と思う裕昌だった。
「俺達で良ければ。あと……」
裕昌は菜海と晴明を交互に見た。
「なんか、友達二人がよそよそしいと俺もそわそわするから、仲良くなってくれればなって」
菜海と晴明は顔を見合わせた。そしてお互いに、ふ、と吹き出す。裕昌は先ほどから二人の距離感にむず痒さを覚えていたのだ。
そわそわする裕昌が可笑しくて、晴明は思わず笑う。
「裕昌ってなんか可愛いな」
「か、かわ?」
「いや、なんでもない」
晴明が必死に笑いをこらえる。菜海もずっと微笑んでいる。
「じゃあ、ひろ君みたいに御門さんじゃなくて、はる君、て呼んでもいいですか?」
「うん。俺も菜海って呼ぶことにするよ。敬語もやめようか。裕昌がずっと落ち着かない様子だし」
晴明が面白そうに裕昌に視線を送る。まるでその顔は雫のようだった。どうやら陰陽師は式神に似てくるらしい。それとも逆か。
すると、おもむろに雫が立ち上がり、黒音と不知火の首根っこを掴んだ。
「それじゃあ、三人はうんと楽しんでくれたまえ。僕たちは邪魔をしないように別室で仲を深めておくよ」
「は!?」
「ちょっと待て。なぜ俺も巻き込まれなきゃいかんのだ」
黒音と不知火がそれぞれ頓狂な声を上げる。だがそれを完全スルーし、黒龍もつれて雫は消えていった。
「と、いうことだし」
「始めるか!」
「おーっ」
こうして、パソコンを学ぶという名目の元、三人は例のゲームをプレイすることになったのだった。
* * *
「何とかしてアレを止めないと!」
「だったら私の破魔矢で……!」
『馬鹿め!同じ手は通用せんわ!』
「くそっ……!どうしたら……」
「ここは僕に任せてもらおうか」
「お前は!闇の陰陽師!」
* * *
「晴明、お前のみ込み速すぎだろ……」
「そうか?」
といいつつも、華麗なキーボードさばきで敵をなぎ倒していく姿は圧巻だ。
先ほどまでゲーム及びパソコンほぼ初心者とは思えない。
裕昌のノートパソコンを借り、晴明が選んだキャラクターは新しく実装された闇の陰陽師。「闇の」と付いているが、敵キャラでもなく、ただの闇属性持ち陰陽師である。それを現役陰陽師が操作するという中々見れない光景が目の前で行われている。
「はる君凄いのね!私なんて慣れるのに一ヶ月くらいはかかったのに」
「流石努力型の天才だな」
菜海と裕昌がそれぞれ頷く。晴明はこうもべた褒めされると、恥ずかしそうに照れた。あまり褒められるのは慣れていないのだ。
「どう?ゲームをやってみた感想は」
「……こうやって友達と遊べるのが新鮮かな。ゲームって一人でするイメージがあったし」
晴明の答えに裕昌と菜海はどこか嬉しそうに笑みを浮かべた。そうだろう、そうだろうと言わんばかりに裕昌が頭を縦に振る。
「そうだ、そろそろ二人の本気を見たいな」
晴明が二人を見て提案する。ならば最近のゲームの醍醐味を学んでもらおうではないか。
「わかった。じゃあ、俺と菜海ちゃんは自分の部屋で、晴明はそのままでいいよ。あ、イヤホンは付けておいた方が良いかも。ちょっと待ってて」
そう言うと、二人は二階に上がっていく。取り残された晴明は暇になり、よく画面を観察してみる。ホーム画面と呼ばれるそれには様々な入り口が付いている。商店やストーリーモードへの入り口。その他にも自分のレベルや所持キャラクター一覧などもあった。しばらくすると、人のマークに赤い記が付いた。
「!これは、押していいのか……?」
恐る恐るクリックしてみる。すると、フレンド欄という枠が開いた。ぽん、という音と共にメッセージが表示された。t@cと書かれた人物から送られてきたものだった。
「スピーカーのマークとマイクのマークを押してみて」
指示通り晴明は自分のアイコン横にあるマークを押してみた。すると、聞きなれた声が耳に入る。
「お、ちゃんとできたみたいでよかった。裕昌だよー。多分晴明も話せばこっちに声が届くと思う」
「え?あー、あー、裕昌―」
晴明は試しに適当に喋ってみる。
「うん、聞こえる聞こえる。じゃあ菜海ちゃんも入れるから待ってて」
裕昌がそう言った数秒後、ポロン、と音が鳴り菜海の声も聞こえてきた。
「これでみんな揃ったわね」
「すごい。通話もできるのか、これ」
「そう。これがゲームの醍醐味、マルチプレイだ」
通話越しに裕昌が得意そうな顔をしているのがありありと浮かぶ。晴明はその顔を想像して思わず笑った。
「一戦だけやろうか」
裕昌がそう提案する。その後三人はチームとなって一回だけ対戦をしたのだが、裕昌と菜海の熟練の動き方に晴明が絶句した。
だが、どうやら文明の利器にはまってしまったようで、数日後晴明が嬉しそうにノートパソコンを五十鈴屋に持ってきたのだった。
ちゃっかり「黄昏時の鬼」もインストール済みだったため、裕昌と菜海がやはり悪影響だったかもしれない、と頭を抱えたのは秘密である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます