宝箱

小鳥遊

宝箱

私の家には、一族のしきたりが一つだけある。

二十歳になったらレイフォードの叔母の所へ行くこと。行って何があるかは両親からも聞かされてはいない。とにかく行きなさいと言われただけだ。


私も先日二十歳になったので、叔母の家を訪ねた。

マグノリア・レイフォード叔母はにこやかに私を迎えてくれた。

「いらっしゃい、レイチェル。さぁ、入って」

そう言われて連れて行かれた屋敷の地下室の扉を、叔母はとてもピカピカの大きな鍵で開けた。

広い室内にはたくさんの宝箱が何百と並んで置いてあった。


「さぁ、この箱の中から好きな箱を一つ選ぶのよ」

叔母はそう言って大げさな身振り手振りをして微笑んだ。


宝石箱は、大小さまざまな大きさで、ダイヤモンドやエメラルド、ルビーの付いたもの、金や銀で出来たもの、黒い小さな箱、素朴な木製の箱、みすぼらしい作りの物まであった。


「どれにしよう」私が迷っていると叔母はこう言った。


「よく選ぶのよ。そうそうエミリー叔母さんが選んだものはとてもいい箱で、あの人はその後にお金持ちと結婚して幸せな人生を歩んだわ。何も心配事がなく歳をとってもいつも笑顔でね。でもジョージ伯父さんは駄目ね、あの人が選んだ箱は悪い箱で、その先の人生は不幸続き、結局最後は病気になって孤独のまま早死したわ。箱は豪華だからといって良い未来と決まっているわけではないのよ。でも豪華な物が、そのまま良い未来になったこともある。あなたはどんな未来を選ぶのかしらね。ゆっくり考えて、時間はたっぷりあるから。」

そう言って嬉しそうに

「さて、私はお茶の支度をしてくるわね」

と部屋から出て行った。


おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

宝箱 小鳥遊 @ritsu25

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ