第80話  何だこれ?

 バイクのイベントへ行くと、美波ちゃんとその仲間が来ている。ミコトさんが出てくると一斉に拍手して『ミコトさ〜ん』と声がかかる。僕と玲司さんは少し笑った。


「まるで親衛隊だね」玲司さんは肩を振るわせる。


 僕もつられて肩を震わせた。


 僕はコツコツといい人を見つけて取材を続けた。イベントが終わり帰ってくる。


「ふう………」琴音さんは少し疲れたようだ。


「玲司さんが、美波ちゃんたちを親衛隊みたいだって笑ってましたよ」


「そうね、嬉しい気もするけど………やっぱり恥ずかしいわ」


「そうですか?」


「なんか、あの子達を見ていたら、星七にベタベタ甘えるのが後ろめたくなっちゃったわよ」


「僕はカッコいい琴音さんが帰ってきて嬉しいですけどね」


「そうなの?でも疲れたらやっぱり星七に甘えたいわ………」


「いつでも甘えていいですよ」


「星七ちん、キス!」超手を広げた。



 お盆は過ぎたが、やっと時間が取れたので神戸へ行く事になった。ツーリングで行きたかったがスケジュールを考えると、それほどのんびりしていられない。結局新幹線で神戸へ向かった。


 神戸駅に到着すると松田さんが来てくれた。


「お帰りなさい」優しく迎えてくれる。


 港が見えるマンションへ到着する。最上階へ上がると庭やプールまである。『何だこのマンションは?』どうやら最上階は琴音さん家族だけのようだ。もしかしたら雑誌で見たペントハウスとか言うやつなのか?


 僕はゲストルームに通された、荷物を置いて窓から港を眺める。


「すげえ〜、何だこれ?」開いた口が塞がらないって、こんな時に使う言葉だと思った。


 琴音さんが入って来る、リビングへおいでと言われて案内された。広い廊下で周りを見回す、一体何部屋あるんだ?やがてリビングへたどり着いた。「広っ!」イベントできそうだと思った。


「星七ちゃん、よく来てくれたねえ」突然、琴音ママに抱きしめられる。


「………ども………………」出た〜!静御前だ〜!


「ゆっくりしていってね」優しく微笑んでくれているが、やっぱ怖い。


「琴音、今日はどうするの?」


「うん、今日はここに泊まって、明日パパの所へ行くわ」


「そう、じゃあママの車を使って」


「ありがとう」


「星七ちゃん、今夜は何が食べたい?」ニッコリ微笑む。


「え………何でもいいです、好き嫌いはありません」


「じゃあ、中華でも大丈夫?」


「は、はい!恐らく大丈夫だと思います」


「琴音の好きなあのお店にする?」


「うん、星七を連れて行きたかったからそれがいい」


「じゃあ8時でどう?それならママも合流できるわ」


「分かった、予約しておくよ」


「御免ね星七ちゃん、お仕事が待ってるからまたね」そう言って出て行った。


琴音さんはスマホを出して予約しているようだ。


「星七、私の部屋へくる?」


「はあ………」


「こっちだよ、おいで」僕の手を引っ張った。


 琴音さんの部屋へ入る。「広っ!」うちのリビングよりはるかに広い、しかも部屋の中には更に部屋がある。


 高級そうなテーブルと椅子が置いてあり、そこへ座らされた。キッチンらしきものがあり、コーヒーをいれてくれた。

見回すとシャワールームやトイレもあり、雑誌で見たホテルのスイートルームみたいだと思った。当然ベッドには豪華な天蓋がついている。僕は琴音さんがスーパーの惣菜を食べたことが無かったことを納得した。


 琴音さんはコーヒーを持ってきてくれた、綺麗なカップでいい香りがした。


「琴音さん、この部屋に海斗さんは来た事があるんですか?」


「うん、一回きたけど………それからはあまり来たがらなかった………」


「でしょうね………」僕は頷く。


あまりにも現実離れしたこの状況に、ため息すら出るのを躊躇しているように思えた。

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