第81話 別世界!

「僕は海斗さんの気持ちが少し分かった気がします」


「そうなの?」


「茉白ちゃんの部屋へ行って、こんな感じだったら逃げたくなるかもしれません」


「どうして?」


「どうして?もしかして質問してます?」


「うん、どうしてなの?」


「………………………………」僕は項垂れる。


「教えてくれないの?」


「琴音さんは僕の家へ来た時にどう思いました?」


「ちょっと狭いかなあって」


「正直に言ってください!」僕は睨んだ。


「なかなかいい部屋じゃんって言ったけど………この狭いお家で4年間我慢できるかなあって思った」俯いた。


「ですよねえ………僕も覚えてますよ、いい部屋って言いながら部屋の中は殆ど見なくて外の公園を見てたでしょう?」


「まあ……………そうだね………」少し笑った。


「あまりにも住んでいる環境が違い過ぎるんですよ!正直言って!」


「でも私は直ぐに慣れたよ、だって星七と一緒に居られるんですもの」


「じゃあずっと暮らすなら、ここか僕の家かどっちを選びますか?」


「それはもちろん星七のいる方よ」ニコニコしている。


「僕にそんな価値はありませんよ」呆れ果てる。


「そんな事ないよ、もし星七が望むなら、お家も会社も全部無くしてもいいよ」優しく微笑んだ。


「言ってる意味がわかりません!」眉を寄せた。


「どうして?私にとって星七が一番大切だからよ」


「一番ですか?」


「うん」ニッコリと僕を見て頷いた。



 夜になって食事へ出かける。やはり高級そうな中華レストランだった。当たり前のように個室へ案内される。

丸いテーブルには次々に高級そうな料理が運ばれてくる。こんなに食べられるの?不思議に思った。


「はい、フカヒレのスープよ」琴音さんが僕の前に置いてくれる。


「えっ………フカヒレ?」


 僕は初めて食べた。とても美味しいがどんな味か説明できないけど………

それからも様々な料理を琴音さんが取り分けてくれた。


「琴音、随分世話を焼くのが上手になったね」静御前が微笑む。


「だって毎日やってる事だもの、当然でしょう」


「人に尽くすのは嬉しい事でしょう?」


「相手が星七だからよ、他の人には絶対嫌だわ!」


「そう………すっかり星七ちゃんに懐いているのね、大丈夫?」少し心配そうな表情だ。


「大丈夫よ………多分………」少し眉を寄せた。


 僕は2人の会話がよく理解できない。僕のことなんて気にしなくて良いのにと思った。


 夜は琴音さんの部屋で眠った。いつものように抱きしめられるので、ゆっくり眠れた。


 朝リビングへ行くと朝食が用意してある。たっぷりのサラダと鶏の胸肉、スクランブルエッグなど思ったよりヘルシーだ。しっかり健康が考えられている気がした。無事に美味しい食事が終わる。


「琴音、農園の後は何処へ行くの?」


「うん、その後は芦屋のお家に行くわ………」少し重たい雰囲気だ。


「そう………」静御前が静かだ。


 僕は少し怖くなる。



 地下駐車場へ降りると、高級車が数台並んでいる。


「星七はどの車が好き?」


「え………よくわからないです、琴音さんが運転するんですよね?」


「そうよ」


「だったら、琴音さんが運転し易い車がいいと思いますよ………」


「じゃあ、これにしよう」


 琴音さんの選んだ車は真っ赤で、二人乗りだった。エンジンをかけてスイッチを押すと屋根の部分が自動で開いて後ろへ収まった。オープンカーになっている。雑誌で見たことのあるマークは明らかに高級車ブランドだった。

琴音さんは僕を助手席に座らせると、丹波篠山へ向かって走り出す。天気は薄曇りなので風が気持ちよかった。


 サングラスで髪を靡かせ、鼻歌を歌いながら運転する琴音さんはカッコいいと思った。

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