第70話 マシュー!

 また暑い夏がやってきた。僕は土日になるとミコトさんとバイクのイベントへ出かける。会場で取材できそうな女性ライダーを探す。最近は僕の事を知ってくれている人も増えて、声をかけると喜んでくれる人も増えた。おかげで取材が少し楽になっている。ファンだと言う人も増えて一緒に写真を撮って欲しいと頼まれる。断ると印象が悪くなるような気がして、できるだけにこやかに対応している。すると、琴音さんは機嫌が悪くなる。


 SNSのフォロワーも30万人を超えてきた。沢山のコメントが書き込まれるが、原稿を書くのに必死で読む余裕がない。僕が原稿を書いている間、琴音さんが横に座りパッドでコメントを読んでいる。


「何この子、星七に結婚して!とか書いてる………そんなの私が許すわけないじゃん!………あっ、この前のイベントで握手してもらったとか自慢してる!………私なんか、いつもキスしてるもんね〜へへへ………もう、星七のファンが増えすぎ!………」頬を膨らしている。


「何ブツブツ言ってるんですか?」


「だって星七のファンが増え過ぎて、蟻みたいに集って少しずつ星七を持っていかれてるような気がするもん………」


「まだまだミコトさんのファンが圧倒的に多いじゃないですか?」


「それはそうだけど………だって星七と結婚したいとか書いてくるんだもん」口を尖らせている。


「会った事もないのに?」


「そうよね………でも、この子は少しヤバいかも」パッドを僕に見せた。


 コメントに『話したいです』と書いてある、どうやら大量に書き込みしているらしい。しかも同じ高校の1年生らしい。


「この石田美波って子には気を付けてね?本名か分からないけど、ストーカーに成りそうな感じだから」


「うん、気をつけるよ」



 今日は水曜なので図書館に4人揃っている。茉白ちゃんがそいとげのお店から可愛い和菓子を買って来てくれた。奈津美ちゃんや伊里亜ちゃんもまだ帰らずにいてくれたので、お茶会となった。


「星七先輩のSNS凄いですね!フォロワー30万人超えたでしょう?」奈津美ちゃんが瞳を大きくした。


「そうそう、結婚してってメッセージがたくさん来てるよね、茉白先輩は見てないんですか?」伊里亜ちゃんが茉白ちゃんをチラッと見た。


「そうね、星七君には花嫁候補がたくさんいるわね」少し笑った。


「さすが茉白先輩!余裕ですね」頷いている。


「え………僕のSNS見てくれてるの?」茉白ちゃんを見てしまう。


「うん………だって気になるし、それに最近文章が上手になってると思うよ」


「そうなんだ、ありがとうね」


「星七先輩はコメント読んでないんですか?」奈津美ちゃんは少し驚いている。


「僕は原稿を書くのに必死でコメントを読む余裕がないんだよ」頭をかいた。


「そうなんだ〜!」奈津美ちゃんと伊里亜ちゃんは頷いている。


「ただ………少し気になる子がいるけど………同じ1年に石田美波って子がいる?」


「知ってます、誰ともほとんど喋らない子ですけど、どうかしたんですか?」


「うん、星七君と話したいってたくさん書き込んでるし………」


「やだ〜!ストーカーみたいじゃないですか」


「怖〜い!、あの子そんな事書き込んでるんだ、キモ〜!」


「星七先輩、気を付けてくださいね」奈津美ちゃんと伊里亜ちゃんは心配そうに僕を見る。


「うん、大丈夫だよ」僕はニッコリ頷く。



「茉白先輩も大変じゃないですか?」伊里亜ちゃんが覗き込む。


「えっ、何が?」


「だって、靴箱へラブレターが頻繁に入ってるんでしょう?」


「何で知ってるの?」茉白ちゃんは目を大きくして伊里亜ちゃんを見る。


「だって、私のクラスの男子が出したら『好きな人がいますから』って、丁寧に返されたって言ってましたよ、茉白先輩優し過ぎますよ」


「えっ、茉白ちゃん、そんな事になってるの?」僕は慌てて茉白ちゃんを見た。


「え〜!星七先輩は知らなかったんですか?大切な彼女さんに、そんな事でいいんですか」二人は睨んでいる。


「星七先輩!茉白先輩はマシューさんって呼ばれてて、校内で超人気なんですからね!」伊里亜ちゃんが怒っている。


「そうですよ、茉白でマシューってかっこいいよねえ」伊里亜ちゃんがうっとりしている。


僕が茉白ちゃんをみると恥ずかしそうに俯いた。


「星七先輩はもっとマシュー先輩を大切にしてくださいよ」奈津美ちゃんが眉を寄せる。


やがて二人はニコニコと帰って行った。



「茉白ちゃんごめんね、しっかりと見れてなくて」頭を下げた。


「いいの、忙しいのは分かってるし、頑張ってる星七君を応援してるから」優しい眼差しをくれた。


「もっとしっかり茉白ちゃんを見てないといけないなあ………大好きだよマシュー!」


茉白ちゃんは頬を膨らして僕を睨んだ。


「星七君キライ!マッシュポテ子を思い出したんでしょう?」


「違うんだよ、もうポテ子ちゃんを乗り越えて素敵なマシューちゃんになったんだと思って嬉しくなったんだよ」


「笑ってるんじゃないの?」


「大好きな人がみんなから素敵だって思われてるんだよ、僕は自慢したいくらいさ」


「星七君………」


「ヤホーとマシューか、それもいいね」僕は茉白ちゃんを抱きしめて軽くキスをした。

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