第64話 ヘルプ!

 琴音さんは一日中まったりと僕にくっついている、結局旅館でのんびり過ごした。夜になりまた二人で貸切風呂に入った。


「星七ちん、こっちにおいで」半ば命令するように僕を座らせ背中を流し始める。


「ずいぶん逞しくなったね、あんなに可愛かったのに………」


僕は抵抗する気になれず、されるがままになった。


「私の背中も流してよ」僕に泡だらけのタオルを渡す。


 僕は琴音さんの背中を流し始める、思ったよりもはるかに華奢きゃしゃで可愛く見えた。恐らく僕が大きくなったからそう見えるのかもしれない。


 結局その夜も僕は同じ布団で抱きしめられながら眠った。心のどこかで茉白ちゃんへ謝った、でも琴音さんはお姉さんのようだ、茉白ちゃんはやっぱり恋人に思える。僕の頭の中にはずっと小数点が繋がる、決して割り切れる事はない気がした。


 帰ってきて日常が動き出す、しかし琴音さんはこれまでと少し変わった。ランデビ琴音さんは週2回ほどの出演となった。そして料理は殆ど琴音さんが作ってくれる、琴音さんが忙しい時だけ僕が作っている。


 最大の変化は寝る時だ。


「星七、今夜はどっちで寝るの?」上目遣いで聞いてくる。


「今日は僕の部屋で寝ます」


「了解!」枕を持って僕の部屋へニコニコとやってくる。


 安心して寝れるので、何となくそうなってしまう。一人で寝たいというと、とても悲しそうな表情になるので言い辛い。僕は赤松部長が喜ぶただれた関係になっている様な気がしている。


「おはよう星七」今朝も琴音さんがおでこにキスしたので目が覚めた。


「さあ、ご飯よ」促されてご飯を食べる。


「今夜は遅くなるかもしれないから、冷蔵庫の作り置きを温めて食べてね」


「はい………」


 僕は奥さんをもらったような気がした。新婚生活ってこんな感じなんだろうかとぼんやり考えるが、ブルブルと頭を振って考えを打ち消した。


 最近そいとげのお店は忙しいらしい、土日以外も夕方から営業しているようだ。茉白ちゃんも手伝っているので図書館の作業は僕一人で頑張っている。茉白ちゃんに会えないのは寂しいが、何処かにホッとしている自分がいる気がする。


 夜になってメールが届く『ヘルプ』琴音さんからだ。僕は急いでマンションの前に来たがタクシーはいない。ふと思い出してGPSで居場所を探してみた。居場所はどうやら新宿のようだ、僕は胸騒ぎがして急いで部屋へ戻り着替えた、財布だけ持って降りてくるとタクシーを止める。運転手さんにスマホの地図を見せるとすぐに場所がわかったらしい。


「すみません、緊急なんです!」焦りながら言った。


「了解!」ニヤリとすると、近道を選んで目的地へ送り届けてくれた。


「恐らくこの辺りのお店だけど………」


 僕は手当たり次第お店のドアを開けて琴音さんを発見した。琴音さんは座ったまま壁に寄りかかり、殆ど身動きしない。その近くにとてもハンサムでカッコいい男の人がニヤニヤしながら琴音さんを見ている。


「そろそろお開きかな?それじゃあ琴音ちゃんは俺が送り届けるから」薄笑いを浮かべた。


 僕はその人がサイモンと言う人だと思った、髪は銀髪で目は青い色をしている。他の大学生らしき人達は琴音さんを助けようとしない、何故なんだろうと思った。男たちはニヤニヤ見ている、女の子は心配そうだが仕方ないと言う表情だ、僕は強い怒りを覚えて、ツカツカと琴音さんのそばへ歩み寄った。


「琴音、迎えに来たよ!」そう言って横にいるサイモンらしき人を睨んだ。


「えっ………」周りの空気がピキッとなった。


 どうやら僕は相当怒りに満ちた表情らしい。


「あなたがサイモンさんですか?」睨みつける。


「う………そうだけど………」


「僕は琴音の家族だけど、あなたのことは話を聞いてますよ」


 その言葉にサイモンはビクッとした。


「貴方はハンサムなのに残念ですね、普通の人ならガッカリされてもそれほど価値は下がらない、でもハンサムだからガッカリされたら普通の人の何倍も価値が下がりそうですね、無駄にハンサムなんですね、もっとハンサムを有効活用したら良いのに」僕は笑って見下した。


 サイモンは口をポカンと開けて僕を見ている。


「琴音、迎えに来たぞ、帰るよ」そう言って琴音さんをお姫様抱っこして店を出た、タクシーを止めて家へと向かった。


 リビングへ辿り着くとバケツを用意する。琴音さんは泣きながらお酒を吐き出した。


 僕は落ち着いた琴音さんを自分のベッドに連れて行き、服を脱がせて寝た。


「星七ちん………御免なさい………もうしないから………」


「約束しましたよ」琴音さんの頭を撫でた。


「もう一度………呼び捨てにして………」子供の様な表情で僕を見る。


「もう、こんな事したらダメだぞ、琴音!」


「う………う………うわ〜………」僕に抱きついて子供のように泣いた。


僕は琴音さんを抱きしめたまま一緒に眠った。

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