第62話 最高の笑顔
遂にゴールデンウィークがやって来た。朝から琴音さんに髪をいじられている。
「よし、これでいい!」
最後にスプレーをかけられる、僕は消毒されたような気がした。
「行ってらっしゃい、しっかりエスコートするのよ!」
茉白ちゃんとは駅で待ち合わせしている。僕の目に映ったのは茉白ちゃんの『お姉さんが来た!』と言う感じだ。元々可愛いのにメイクして際立っている。しかもメガネはかけていない。髪も少しカールしてオトナっぽくなっている。ふわふわのニットは茉白ちゃんの豊かな胸の価値観を更に高めている気がした。上品なスカートから伸びた足はとても綺麗だ。低めのヒールだがコートを
「ま、茉白ちゃん………」僕は言葉が出て来ない、赤松部長の予告があった事に感謝した。
「星七君待った?」
「ううん、全然待ってない……………そんな事よりとっても綺麗だよ、それに大人の女性みたいでドキドキしちゃったよ」僕は少し焦り気味に答えた。
「ホントに?」
少し恥ずかしそうなのが更に可愛くて、ドキドキが止まらない。
「今日は佳ちゃんに手伝ってもらったの………」
「そうなんだ、とってもいいよ」僕は何度も頷いた。
「星七君も大人っぽくてカッコいいよ、いつもセンスいいね」
「僕は琴音さんのアドバイスで何とかなってるだけだよ」
「星七君は正直だね」
「茉白ちゃんだって佳さんのことを話しちゃってるじゃん」
「そうだね、二人とも馬鹿正直だね」
二人で少し笑った。
東京駅から新幹線に乗った。2階建ての新幹線から眺めた景色はとっても良い、旅をしてる感じが二人を楽しくさせてくれた。
「新幹線ってすごいね」茉白ちゃんは外の景色を見ながら言った。
「そうだね、早いし車内も豪華だし、いつもの電車とは違うね」
「私、楽しみで昨夜よく眠れなかった」恥ずかしそうに言葉を漏らす。
「え………実は僕もそうだった、遠足前の子供みたいだね」
「そうだね」顔を見合わせて微笑んだ。
軽井沢の駅へ到着すると駅前で二人記念撮影をした。近くのショッピングプラザへ立ち寄る。食事がまだだったので二人ともお腹が空いている。
「ねえ星七君、何食べようか?いろんなお店があって迷っちゃう」
「そうだね、茉白ちゃんは何か苦手な物はある?」
「ううん、特にないよ」
「僕はローストビーフかソーセージで迷ってるんだけど………」
「それいいね、どっちも頼んでシェアしない?」
「賛成!」
二人は注文して受け取ると席へついた。
「美味しそう………」僕は子供のような表情になってしまう。
「星七君可愛い」茉白ちゃんがクスクス笑っている。
僕は恥ずかしくなって下を向いた。
茉白ちゃんはナイフで取りやすいように切り分けてくれた。その仕草に僕はドキッとする。茉白ちゃんと一緒に暮らしたらこんな感じだろうか?しかしその瞬間、琴音さんの睨んでいる顔が浮かんでくる。僕は慌ててその画像をかき消した。
「おいしいね」茉白ちゃんはニコニコと食べている。
「うん」僕は目尻が下がってしまった。
食事を済ませショッピングプラザを二人で歩いた。可愛い小物屋さんがあったので立ち寄ってみる。
「これ可愛い………」茉白ちゃんがブレスレットを見ている。
茉白ちゃんは価格を見て大きく目を見開いた。僕も覗き込んで同じように目を見開いた。
「高校生の僕らには、ちょっと無理があるね」
「そうだね」また顔を見合わせて笑った。
店を出て歩いていると小さな女の子が泣いている。
「どうしたの?」茉白ちゃんが優しく声をかけた。
「ママがいなくなったの………」泣きそうになっている。
僕は辺りを見渡した、近くにトイレがある、恐らくそこだと思って茉白ちゃんに視線を送った。茉白ちゃんは少し頷く。
「もう少しお姉ちゃんと待ってみようか、きっと戻ってくるよ」茉白ちゃんは優しく微笑んだ。
「うん………」女の子はゆっくり頷いた。
ママは予想通り戻ってきた。
「ママ!」女の子は嬉しそうに抱きついた。
「ママ、このお姉ちゃんが一緒に待ってくれたの」
女の子のママは状況を把握したようだ。
「どうもありがとうございます」深々と頭を下げた。
「なんかお礼したいけど………」考えている。
「お礼なんて………そんな大した事はしてないので大丈夫です」茉白ちゃんは手を横に振った。
「でも………」
「すみません、じゃあ二人の写真をこのスマホで撮って頂けませんか?」僕はスマホを出した。
「はい、喜んで」女の子のママは表情が明るくなった。
僕と茉白ちゃんは恥ずかしそうにふたり並んだ。
「もっと二人くっついて………そうだ、彼女さんは彼の腕に抱きついて微笑んで?」
「えっ………」茉白ちゃんは驚いて僕を見た。
僕は腕を少し上げて茉白ちゃんの腕が入りやすくした。茉白ちゃんは恥ずかしそうに腕を組んで寄り添った。
「佳ちゃん、チーズって大きな声で言って!」ママは女の子に指示した。
僕と茉白ちゃんは顔を見合わせた、思わず吹き出しそうになっている。
「はい、チーズ!」女の子の声が響く。
僕と茉白ちゃんは信じられないくらいの笑顔でスマホに記録された。女の子とママは嬉しそうに手を振った。茉白ちゃんに耳打ちして離れていく。
「何か言われたの?」
「うん、素敵な彼氏さんだって」嬉しそうに言葉を漏らす。
僕は固まって返す言葉が思いつかない。
その後旧軽銀座へ行った。オシャレなカフェやお店が立ち並んでいる。僕は一軒のカフェへ茉白ちゃんを誘った、少し疲れているように感じたからだ。蜂蜜ゆず茶を注文して席へついた。テラス風の席は眺めも良くて良い感じだ。
「茉白ちゃん大丈夫?」
「え………バレちゃったの?」
「少し疲れた?」
「私………慣れないコンタクトとヒールで………」俯いた。
「メガネは持ってないの?」
「メガネに戻ってもいいの?」
「そんなの良いに決まってるよ、メガネのない茉白ちゃんとメガネっ子の茉白ちゃん両方見れるなんて超ラッキーだよ」僕は嬉しそうに口角を上げる。
「星七君ってやっぱり優しいなあ………それに泣いてる女の子の対応も素敵だった。私なんかが彼女で良いのかなあなんて思っちゃったよ」
「茉白ちゃん、それは僕の方が言いたい事だよ」
「ありがとう」茉白ちゃんはバッグから眼鏡を出してコンタクトを外し、眼鏡をかける。
「うん、可愛い、なんかいつもの茉白ちゃんみたいで落ち着くよ」僕は頷いた。
茉白ちゃんもホッとしたようだ。
「さっき女の子の名前を聞いた時吹き出しそうになっちゃったよ、こんなところまで赤松部長が出て来るなんて」
「私も吹き出しそうだった、でも吹き出したら女の子に悪いと思って必死に堪えたよ」肩を揺らせた。
僕はスマホを出して画像を表示させてみる。
「私にも見せてよ」茉白ちゃんが覗き込む。
軽井沢の素敵な風景の中で最高の笑顔の二人が写っていた。
「すっごく幸せそうだね」思わず漏らしてしまう。
「そうだね、この画像をプリントして写真立てに入れたいなあ」茉白ちゃんは嬉しそうだ。
「そうだね、僕もそうしたい」
日帰りの旅はとても楽しい1日となった。
帰りの新幹線で茉白ちゃんは僕の肩に寄りかかり少し眠った。僕はその寝顔といい香りにうっとりした。
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