第55話 所有物?

 そいとげの喫茶コーナーは無事に営業を始めている。佳さんは青い浴衣にかわいい帯でニコニコ働いている。茉白ちゃんはランチタイムだけ手伝っている、同じ浴衣と帯だ。僕はそれを見て可愛いなあと目尻を下げた。


 美人二人が対応してくれるので男性のお客もじわっと増えているようだ。そいとげは嬉しそうに厨房で働いている。


 ランチタイムが終わると茉白ちゃんは自由になるので、着替えて僕と二人でお客になった。僕はジェラシーセットを食べてみる。とても美味しく出来ていて徐々に人気商品となっているようだ。


 暖かくなって来たので、バイクで出かけることが楽しくなった。バイクの振動は心地良い。そして今まで行けなかった所へも思いついたら行けるのだ、そう思うと少し冒険したくなっている。


 体も少しづつ変わって来ている。大きかったバイクはそれ程大きく感じなくなった、どうやら身長が伸びているみたいだ。鏡を見ると幼さが少し減っている気がした。


 僕はゴールデンウィークにツーリングへ行きたいと思い始めている。


 最近は琴音さんが頻繁に料理を作ってくれる、しかし新たな問題が発生した。ランデビ琴音さんがそのままエプロンをして料理するので、まるで裸にエプロンをしているように見えてしまう。それは大人しか見てはいけないものだ。ますます変態に導かれているような気がする。琴音さんへジャージにエプロンをするようお願いしてみたが、『ジャージを汚したくない』と拒絶された。


 スキンシップの時、琴音さんの胸が目の前だった。今は琴音さんの顔が目の前にある。これはこれですごく恥ずかしい。


「星七、随分身長が伸びたんじゃないの?」


「そうかな?」僕は横に立ってみる。


「ほら、もう変わんないじゃん、それに可愛かった星七が少し男っぽくなってる」


「心はちっとも大人になってませんけどね」


 ランデビ琴音さんに振り回されている自分が少しおかしくなった。


「もう直ぐ誕生日だね、星七は何か欲しいものがある?」


「欲しいものは………………琴音さんの愛!です!!」


「うぷ!何を言い出すの?」固まっている。


 僕はただニヤニヤしている。


「こらっ!星七ちん、私をからかったでしょう」ジロッと睨んでいる。


「すみません………僕も少しづつ大人になって行くんで………」


「私をからかうなんて10年、いや一生早い!」


「御免なさい」素直に謝った。


 琴音さんは改めて僕を上から下までじっくりと見ている。


「僕は琴音さんに感謝してるんです。クリスマスにバイクをプレゼントされました、誕生日にパッドも貰っています。ある日思ったんです、僕はパッドを持ってバイクでどこへでも自由に行けるんです。パッドは持ち運べる図書館にもなります。知らない所へバイクで図書館を持って行けるんです。それって凄いことだと思いませんか?パッドで調べて行ってもいいし、行った場所で疑問が湧いたらパッドで検索できるんです。そう思ったら楽しくなってどこかへ冒険に行きたくなったんです」


「星七はカッコよくなってきたね」優しい眼差しだ。


「そうですか?」


「うん、素敵な男性になって行きそうよ、茉白ちゃんにあげるのは勿体ない気がしてきたなあ」


「僕は物じゃないし」


「何言ってるの?元々星七は私の物だったんだからね!」


「僕は琴音さんの所有物だったんですか?」


「そうよ、使用権を茉白ちゃんに貸しただけなんだから」唇を尖らせた。


「うわ〜、僕はお気に入りのぬいぐるみみたいですね………」


「そうね、可愛いお気に入りのぬいぐるみだったけど、最近は徐々に可愛く無くなって来てるわ」


「ごめんなさい………」


「いいの………いつかは………………何でもない………………」

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