第54話 神様………

 病院のベッドで目が覚めた。痛みはある程度軽くなっている。琴音さんが微笑んだ。


「良かった、星七が無事で………少しは痛みが退いた?鎮痛剤が入った点滴をしてるからね」


 僕は琴音さんが手を握っている反対の手を見た。細い管が伸びて液体が入った袋につながっている。


「もう………びっくりしたわよ」


「僕は何の病気なんですか?」


「病気じゃないわよ、成長痛だって」少し笑った。


「点滴が終わったら帰って良いみたいよ」


「そうですか」


「星七はきっと急激に体が成長してるのよ」


「はあ………よく分かんないです………」


 やがて点滴も終わり、タクシーで帰ってきた。


「どう?眠れそう?」琴音さんは優しく僕の頭を撫でている。


「まだ痛みがあって眠れそうにないです」


「じゃあ私のベッドにおいで、足をさすってあげるから」


「すみません………」


 僕は琴音さんのベッドへ横になった。良い香りがして少し落ち着いた。琴音さんは僕の横に座って足を優しくさすっている。天蓋が見える、何故か懐かしい気がした。僕はフワッと眠りに落ちた。


「うっ………」僕は違和感で目がさめる。


 背中に暖かい感触がする。しかも僕のベッドじゃない。何が起きたんだ?しばらく考えた。そうだ、昨日痛みが辛くて琴音さんのベッドで寝たんだった。と言うことは、この背中の暖かさは………そっと振り向く。


「やっぱり………」


 琴音さんは母親のような優しい寝顔で僕に寄り添っている。


「え〜………」


 僕は気づかれないように起きようとした。


「う〜ん………」琴音さんが眠そうに目を開ける。


「大丈夫星七?」


「はい、今はそれほど痛くありません」


「良かった、でも、もう少し横になって方がいいよ」そう言って僕を抱きしめた。


 僕は琴音さんの胸に抱きしめられて眠る状況になっている。ふと琴音さんの言葉が心の中に響く。『神様、星七を助けて、私の命を代わりにあげるから………』僕はそんなに大切に思われていたのかと思うと胸がキューンとなった。そして茉白ちゃんには申し訳ないけど、琴音さんの胸でもうしばらくは眠りたいと思った。


 目が覚めると横に琴音さんはいない。キッチンからコトコト音がしている。僕は起き上がりリビングへ出て来た。


「おはよう星七、もうお昼過ぎだけどね………直ぐにご飯できるわよ」優しく微笑んでいる。


「すみません、僕の仕事なのに………」


「いいの、星七が元気になるまでは私がやるから」


 琴音さんの料理は見た目も美しくとても美味しい。僕の料理は子供のママごとに思えた。


「琴音さんは料理が上手なんですね?」


「料理、も、よ」笑っている。


「僕の料理は一体何だったんでしょう?」


「星七も料理が出来て、女の人の気持ちが分かる人になって欲しかったからね」


「そう言うことですか………確かに料理をやっていたら主婦がどんなに尊敬できるか分かった気がします」


「あら、そう思えたなら私の試みは成功したようね」琴音さんは笑っている。


「僕は本当に子供だったんですね………」


「もう大人になり始めてるわよ」僕の頭を優しく撫でた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る