第49話 大好き!

 僕は朝からドキドキしている。今日茉白ちゃんに絵本を渡すのだ。喜んでもらえると思っているが、もし反応が薄かったら寂しいと思った。


 突然そいとげが肩を叩く。


「なあヤホー、佳さんへのお返しは何がいいと思う?」


「ん………」


「ヤホーだって義理チョコをもらっただろう?」


「そうだ、忘れてた!」


「明日図書館で渡す約束をしたけど、まだ思いつかないんだよ………」


 かなり不安な表情で考え込んでいる。


「今日の夕方駅ビルへ買いに行かないかヤホー」


「そうだな、図書館の作業が終わったら連絡するよ」


「分かった、連絡待ってるぞ!」少し落ち着いた表情になった。


 ついに放課後がやってきた。僕は緊張しながら図書館へやってくる。茉白ちゃんはすでに来ていて作業を始めている。


「あっ、遅くなってごめんね!」


「ううん、私ホームルームが早く終わったから」優しく微笑んでいる。


 僕も作業を始めた。一通り終わったので僕はココアを2つ買って奥のメンテ室へ入った。茉白ちゃんも入ってきた。


「あのう………茉白ちゃん、これ………」僕は絵本を差し出す。


「えっ、何?」


「チョコのお返しなんだけど………」


「ごめんね、佳ちゃんがあんなこと言ったから無理に用意したんじゃないの?」心配そうな表情だ。


「違うよ、もう用意してたんだ、でも喜んでもらえるか心配だけど………」


「用意してくれてたの?」


「だって、心のこもったチョコをもらったんだよ、だから、色々考えたんだけど………」


「ありがとう星七君、気持ちだけでもう充分嬉しいわ」


「とりあえず開けてみて」


 僕は綺麗に包装された絵本を渡した。


「何だろう?」丁寧に包装を開けている。


「これは絵本?」


「うん、本を好きになったきっかけだと言ってたから………」


「ありがとう、綺麗な表紙だね」嬉しそうにみている。


「中を見ていいよ」


「うん」茉白ちゃんはページをめくる、青春の一ページをめくるように。


フワッと魔法使いの館が飛び出してきた。


「わあ〜凄い、何これ………」


「次のページをめくると、お花畑と少女が浮かび上がる。


 茉白ちゃんは言葉を無くしてページをめくっている。様々な仕掛けがしてあり、綺麗な上驚きもある。茉白ちゃんは眼をキラキラさせながら次々にページをめくった。


読み終わった茉白ちゃんは僕をじっと見つめている。やがて涙が一筋流れて落ちた。


「星七君の………バカ!………こんなことされたら泣いちゃうでしょう?」指先で涙をふいた。


「喜んでもらえた?」僕は顔色を窺う。


「星七君………私どうしたらいいの?………」


「どうって?」


「………キスして………」


「え………」僕はフリーズする。


「もしかして………嫌?」茉白ちゃんは少し不安な表情になった。


「そんなわけ、ないだろう!」僕は唇に力が入る。


「私、大好き、星七君が………」茉白ちゃんはゆっくりと立ち上がった。


僕は茉白ちゃんの前に立った、そして震えながら茉白ちゃんをそっと抱きしめてキスをした。


「………………………………ふう………」


多分10秒くらいだと思ったが、長い時間抱きしめたような気がした。


しばらく沈黙が続いてしまう。


「星七君、なんか話すのが恥ずかしい………」赤くなった頬で俯いた。


「僕もだよ………」同じく赤い頬になっている。


 視線の落ち着き先を見つけられない二人はオロオロしてしまう。


「今日は帰ろうか………」僕はこの場所から逃げたくなっている。


「うん………これ以上いると心臓に悪い気がする、ありがとう星七くん」


「こっちこそありがとう」


「また明日ね」


「うん」


二人は図書館を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る