第48話 傷口をえぐる!

 卒業式になった、雪村先輩は髪を切ってスッキリしている。在校生代表の送辞は何と佳さんだ。文芸部は毎年送辞を書いて出す。その中から選ばれた人が発表する。佳さんの送辞は感動的で素晴らしかった。雪村先輩は目頭を押さえているのが見えた。


 卒業式も終わり日常が帰ってきた。僕と茉白ちゃんは図書館で作業をしている。やっと作業も終わり帰ろうとしていたら佳さんがやってきた。


「茉白、今日買い物に付き合ってよ」


「いいけど………」


「ヤホー君とのデートは諦めて」早速イジってきた。


「別にデートの約束はしてませんけど?」僕は眉を寄せた。


「茉白、あんなこと言ってるよ、いいの?」


「うん、だって約束してないもん、ねえ」僕を見て頷いた。


「そうですかあ?私はお邪魔かなあなんて思ってさ」ニヤニヤしている。


 僕は面倒くさくなって話を変えようと思った。


「佳さんの卒業式の送辞は、とっても素晴らしかったです、泣いてた卒業生もいっぱいいましたよ」


「そうなの?あれは学校にうけるように書いたからね、本当はもっと傷口をえぐるようなのを書きたかったんだけど、それだと評価が下がると思ってさ」笑っている。


「え………」僕は亜斗夢先輩のような強い才能を感じた。


「もう………また変なこと言い出すんだから」茉白ちゃんは佳さんの背中を推して図書館から出て行こうとしている。


「ヤホー君、ホワイトデーは近いけど大丈夫かな?」


「はあ………」僕は呆気に取られる。


「その反応だと何か考えてるね?」ニヤッとした。


「もう!佳ちゃんやめて!星七君また明日ね」そう言いながら佳さんを強引に押し出した。


「なんだかんだ言っても茉白ちゃんの事を気にかけてるんだよなあ」独り言がこぼれ落ちる。


 僕は帰宅するとすぐに料理を始めた。今夜も茉白ちゃんから教えてもらった一品、3色丼だ。卵にそぼろ、ほうれん草が乗って綺麗だ。味付けは麺つゆを使って簡単に仕上げる。茉白ちゃんから麺つゆの使い方を色々と習った、時間がない時には助かる。おかげで料理を作ることが少し楽になった。


「ただいま〜!」琴音さんが帰ってきた。


「お帰りなさい」


「お、今日も茉白ちゃん伝授のメニューかな?」


「まあ、そうですけど」


「はいこれ」琴音さんは紙袋を手渡した。


 中を見ると飛び出す絵本だ。


「ありがとうございます」


 食事の後、飛び出す絵本を開いてみた、とても綺麗だ。魔法使いと少女の物語で、とても希望が持てる話だった。これなら今の茉白ちゃんでも十分に楽しめると思った。


「玲司さん推薦の一冊はどう?」


「最高です、きっと茉白ちゃんも喜んでくれると思います」


「じゃあ早速包装しよう」琴音さんは綺麗な包装紙を用意してくれた。


「すみません、色々とありがとうございます」僕は深々と頭を下げた。


「いいの、星七の評価が上がるのは私も嬉しいから」


僕を奴隷にするけど大事にもしてくれる琴音さんに感謝した。

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