第33話 願い事は?

 大晦日になり僕は琴音さんと初詣へ出かける。近くの神社は多くの人と出店で賑わっていた。


「人が多いね、迷子にならないように手を繋ごう」琴音さんは手を差し出す。


「はい」僕は素直に指示へ従う。


 不思議だ、茉白ちゃんと手を繋いだ時はあんなにドキドキしたのに、琴音さんと手を繋いでもドキドキしない。イトコだからかなあ………それとも奴隷だからかなあ………様々な考えが浮かんでは消える。


 集まった人達からカウントダウンの声が響く、あちこちで「おめでとう」の声が聞こえた。


「星七、新年おめでとう、今年もよろしくね」琴音さんが微笑む。


「おめでとうございます、今年もよろしくお願いします」ペコリと会釈した。


 並んだ行列は少しずつ進み僕らの番になった。お賽銭を投げ入れ、鈴を鳴らし願い事をする。


 帰り道で琴音さんはニヤニヤと僕を見ながら言った。


「茉白ちゃんとのことをしっかりお願いした?」首を傾げる。


「そんなことないです!」図星だったので思わず頬が赤くなった。


「星七はすぐ顔に出るからバレバレだねえ」笑っている。


「他には何もお願いしなかったの?」さらに白状させようとしてくる。


「あとは………琴音さんのアレルギーが治りますように………と………」


「えっ、そんなことお願いしてくれたの?」立ち止まって僕を見つめる。


「ありがとう星七!」琴音さんはまた僕を抱きしめた。


 コートを着ているので胸の柔らかさは感じない、少しホッとする。


「え〜!!!うそだろう!」突然背後から声が聞こえた。


振り返ると、そいとげが固まってボーゼンとしている。


「ヤホー!何それ、どういう事!」近づいてくる。


「ん?」琴音さんはゆっくりと僕の体から離れた。


「あれ?そいとげ、何してんの?」僕は何気なく聞いてみた。


「初詣に決まってるだろう!そんな事より何でミコトちゃんと抱き合ってるだよ!」顔から怒りが滲み出ている。


「あれ、もしかしてお友達のそいとげくん?」琴音さんはニッコリそいとげを見た。


「えっ、あ………あのう昨日までヤホーの親友だったそいとげです」鼻息も荒く答えた。


「そうなんだ、星七は私のアレルギーが治るようにお願いしてくれたから嬉しくて思わず抱きしめちゃったけど、なんか変?イトコだから変じゃないよね」琴音さんはやんわりと抱きしめた事への誤解を解いてくてているようだ。それを聞いたそいとげはぴこぴこと頷いた。


「そうですよね、なんか勘違いしたみたいで恥ずかしいです」頭をかきながら照れている。


 何で照れるのか不思議に思ったが、面倒くさいのでどうでもいいやと思った。


「そういえば、クリスマスの和菓子とっても美味しかったよ、そいとげくん」


 琴音さんの一言でそいとげの顔は1000Wの輝きになった。全身から嬉しいオーラを惜しげも無く出している。やっぱりこいつはアホだと改めて思った。


「ミコトちゃん、いやミコトさん!ウチは出店もしてるんです、是非新年をウチの和菓子で祝ってください!」そう言って出店へ手招きした。僕と琴音さんはそいとげについて行く。


 出店には松竹梅の縁起の良さそうな生和菓子とお饅頭やお餅などが並べられている。


「ふ〜ん、和菓子って綺麗だねえ」そう言って指をさして「これと、これと………それに、これも」大量に買おうとしている。


「えっ!そんなに買ってもらえるんですか?」そいとげは引きつっている。


「だって、星七の親友なんでしょう?そいとげくんは」琴音さんは微笑む。


「はい、大親友です」嬉しそうに頷いている。


 結局琴音さんは1万円ほど買ってしまった。


「ありがとうございます、ミコトさんは天使です」涙を流して喜んでいる。


 そこへそいとげのお父さんが帰ってくる。そいとげから話を聞くといくつかの箱を出して優しく保存の方法を教えてくれた。


「そいとげくんのお父さんはとってもいい人だね」琴音さんはポツリともらす。


 全身からハートマークが溢れ出しているそいとげに手を振ってその場を離れた。


「帰ったらこのお餅でお雑煮を作ろうか」琴音さんは優しい笑顔だ。


「僕は作った事ないです………」少し俯く。


「大丈夫よ、私が作れるから」琴音さんは星を見上げながら言った。

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