第34話 お正月ですよね?

 突然、正月という名の地獄が訪れた。琴音さんは新しく発売されたカーレースのゲームを差し出して対戦を申し出てくる。そうだったのか、クリスマス前に買っていたゲームは、お正月にやるためだったのか!僕は認識した。


 カーレースとは言っても新しいゲームは勝手がちがう、琴音さんは密かに研究してたようでグイグイ攻めてくる。互角の戦いが展開される、そしてその時間は伸び続け寝る時間が遠のいていく。


 流石に集中力が切れてきた僕は徐々に負け始める。すると琴音さんはパンツとブラの悪魔に変身してさらに攻めてきた。僕はなす術もなく負け続ける。「この負けず嫌いのランデビめ!」心の中で叫ぶ。


「よし、私の完全勝利ね!」琴音さんはみた事のない嬉しそうな笑顔の花を満開に咲かせた。


「おやすみなさい………」僕はやっと寝れる、そう思って部屋へ退散した。


 翌日いい匂いで目が覚めた。キッチンへ行くと美味しそうなお雑煮が鍋にできている。


「今年も1年健康で頑張ろうね」優しい笑顔でお雑煮を出してくれた。


「はい」


 僕は頷いて食べ始める。とても上品な味で美味しい。琴音さんは料理が上手なの?どういう事?何で僕が料理をやってるの?疑問が湧いてくる、しかし聞く勇気は無いのだ。


 両親からメールが届いた。『おめでとう星七、よかったね琴音さんに気に入られて、今年も頑張って琴音さんに尽くすんだよ』と書いてある。思わず「最低の親だ!」独り言が漏れてリビングに転がる。僕はそれを思い切り踏みつけた。


 琴音さんはソファーに寝そべって背伸びをしている。


「ねえ、星七どん」


「何でごわす琴音はん?」


「マッサージを所望いたす」


「いやでごわす!」


「え〜、何で?いいじゃん、昨日ゲームで疲れたの」甘えるような声を出している。


「いやでごわす!」僕は不当な要求を突っぱねた。


「星七ちん、お願い〜」さらに甘える声になった。


「いやでごわす!」


「………………………………………」琴音さんは唇に力が入った。


「ヤホー!マッサージ!」


「検索ならしてもいいよ」


「検索はいいからマッサージやってってば!」徐々に圧力をかけてくる。


「マッサージは体に触れないといけないから嫌です!」


「えっ、もしかして星七は恥ずかしいの?」


「僕はこれでも一応男ですから」


「大丈夫、オトコ前にイトコだから」薄笑いを浮かべた。


 結局圧力に負けた僕はマッサージをすることになってしまう。


「上に乗っかって肩から腰までね!」


 琴音さんの指示通り奴隷の僕はお尻の上に乗っかり肩から腰まで少しずつ両出で押していく。


「星七、とっても上手よ、気持ちいいわ〜」あまったるい声で言った。


「あ〜ん、気持ちいい〜」琴音さんは少し足をバタバタさせた。


 その反応は僕の下半身を刺激する。思わず下半身に力が入る、う、マズイ………


「ん………ありがとう星七、もういいわよ」琴音さんは起き上がり背伸びしてソファーへ腰を下ろす。


「星七、こっちおいで」ニッコリしている。


ムムム………なんだろう、怖い。


「はい、お年玉よ」封筒を差し出す。


「えっ、お年玉なんて貰えませんよ、バイクだって高価な物をもらい過ぎてるんだから!」


「だから、もらってくれないと困るの!」頬を膨らす。


「お願いです、僕の金銭感覚が崩壊します、だから勘弁してください」両手を合わせて拝んでみる。


「だめ!貰ってくれなきゃキスしちゃうぞ!」ジリジリと近寄ってくる。


「キスもいりません!」僕は後退りしてソファーのすみに追い詰められる。


「はい、中を見て」結局強引に手渡す。


 開けてみると5万円も入っている。


「多すぎます」僕は1万円だけもらって残りを返そうとした。


「明日バイクショップの初売りに行くの、ライダースーツを買うのよ、だから必要なの。冬は寒いから寒さ対策をしっかりしないと体がこわばって事故になりやすいから」


「えっ、バイクショップですか?」僕は固まる。


「本当はもっといいのを買ってあげたいけど、星七はまだ成長の途中だからそれなりのになっちゃうけど、ごめんね」申し訳なさそうにしている。


「僕は期待されても、もう大きくならないかもしれませんよ」不安な顔で琴音さんをみる。


「大丈夫よ、星七パパも高校の後半で一挙に伸びたって言ってから」


「えっ、そうですか?あまり信用しない方がいいと思いますけど………」俯く。


 翌日バイクショップでライダージャケットを買った、そしてレブルに乗ってみる。


「じゃあ近くの公園まで行ってみようよ」琴音さんに促され公園までツーリングしてみる。


「どう、寒くない?」


「大丈夫です」


 僕は初めて自分で運転して外の世界へ出てきた。不思議な充実感が体の中に芽生えてくる。バイクは楽しいかもしれないと心の中で思った。

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