第16話 相方、親友?

 放課後になり図書館で作業している。茉白ちゃんも本の整理をしていた。一通り作業を終えた僕はお茶を買ってきて茉白ちゃんへ差し出す。


「お疲れ様、これ良かったら」


「えっ、いいの?」茉白ちゃんは溢れるような笑顔で見てくる。ああ、この溢れる笑顔を僕の両手で拾い上げたい、癒されるなあ………。やすらぎの時間を楽しんでいると突然後ろから声がする。


「ヤホー!」


 うっ、この声は………僕はゆっくりと振り返る。何とそいとげがニコニコと手を振りながら近づいてきた。


「ヤホー?」茉白ちゃんが首を傾げて僕をみる。


 何で来たんだコイツ、僕の大切な時間をぶち壊しやがって。しかもヤツは僕の横へ強引に座ってきた。茉白ちゃんは目をパチパチと音が出るくらい瞬きしている。


「ヤホー!こんな可愛い人と仲良くなって羨ましいな、紹介してくれよ」にっこり茉白ちゃんを見ている。


「コイツは中学の頃からの腐れ縁でそいとげっていうんだ」仕方なく紹介する。


「初めまして、俺コイツの相方です」ニコニコと握手しようとしている。」


 何だそれ、僕は茉白ちゃんの手に触れたこともないのに!


「初めまして、図書部員の遊木茉白です」茉白ちゃんはにっこり握手した。


「ねえヤホーって?」茉白ちゃんが聞いてくる。


「コイツ名字がコダマだから中学の頃はヤホーって呼ばれてたんです」そいとげは僕の肩をポンポンと叩く。


「そうなんだ」茉白ちゃんはゆっくりと頷いた。


「なあヤホー、あの運命を作曲した有名な作曲家って誰だっけ」嫌なフリをしてきた。


「検索しないよ」僕は冷たく返す。


「ん?」茉白ちゃんは一瞬考えたが「プッ」っと吹き出し、手で口を塞いで肩を揺らしている。しばらくして落ち着いた茉白ちゃんは「そいとげくんは何で?」可愛く首を横にした。僕は仕方なくそいとげの由来を説明した。


「そうなんだ」茉白ちゃんは納得したようだ。


「ヤホーって軽いよな?」またそいとげがフリをする。


「そいとげって重いよな」と返す。


「ここで遊木さんが、ちょうどいいのはいないの?と聞いてくれると、二人でいないいないとオチがつくんだ」そう言ってそいとげは笑った。


茉白ちゃんはまたクスクスと肩をゆらした。


「ヤホーくんとそいとげくんは仲がいいんだね」微笑んでいる。


「笑顔がかわいいっすね」そいとげは茉白ちゃんを見ている。


「そんなことないよ」恥ずかしそうに俯く。


「何しに来たんだよ」僕は少しイラついてそいとげをにらむ。


「うん、分かりやすいデザインの本が無いかと思ってさ、ヤホーもいるし聞いてみようと思って来たのさ」


「そうなんだ、デザイン系の本はあそこのGグループの奥にあると思うよ」面倒くさそうに言った。


「ありがとう、探してみるよ。今度遊木さんとヤホーに和菓子の差し入れをするよ」そう言って手を振り本を探しに行った。


「楽しい人だね」茉白ちゃんはポツリと漏らす。


そいとげは一冊の本を借りて帰った。


夕方になり僕は茉白ちゃんと駅カフェに来ている。


「星七くんて親友がいて羨ましいなあ」ポツリと一言。


「えっ、そいとげは親友なんかじゃ無いよ!」僕は否定した。


「そうなの?でもとっても仲が良さそうだよ?」不思議そうにしている。


「実は………………」中学の頃みんなからいじられていたことを白状した。


「そうなんだ、でも星七くんが気にするほど周りのみんなは思っていなかったんじゃ無いかなあ、だって二人の仲良い感じは悪い印象じゃないもの」


「そうなのかなあ………」


「そうだよ、だからそんなに気にしなくてもいいと思うよ」柔らかい微笑みを僕にくれた。


茉白ちゃんはやっぱりいい子だ、僕のトラウマを一瞬で思い出に変えてくれた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る