第15話 ワル?
今週は雨の日が多い、もう梅雨に入ったのだろうか?どんよりとした雲を教室から眺める。日常のドタバタを曇り空は和らげてくれるような気がした。少なくともこの空にランデビ琴音は出てこないのだ。
隣の席のそいとげがデザインの基本という本を読んでいる。そいとげが本を読んでる光景は滅多に見ないので少しだけ不思議になった。
「珍しいなあ、そいとげが本を読んでるなんて、しかもデザインの本なんて」
「ああこれ?実は俺デザイン部に入ったんだ、だから少し勉強しようと思ってさ」
「へ〜、なんでデザイン部へ入ったんだよ」思わず聞いてしまう。
「俺ん家の和菓子をもっと綺麗で美味しくしたいんだ!」
「えっ、そんな事考えてたのかよ、ワルを学ぶんじゃなかったっけ?」
「ちょっとワルだけど、優秀な和菓子職人ってカッコいいだろう?」
「いや、そこにワルの要素は必要無い気がするけど……」
「優秀な和菓子職人だけどカッコいい!それが俺の目指す所さ」勝ち誇ったような表情だ。
「ふ〜ん………」僕はなんとなく微妙な返事を返す。
「最近親父の手伝いを始めたんだ、職人の修行は早く始めた方がいいと思ってさ」
「そうなんだ、そいとげって意外にいいヤツじゃん」
「何!今頃わかったのかよ、ずっと俺は良いヤツだったろう?」不満げに睨んできた。
「まああそうだけど、改めて思ったからさ」無難な返事を返す。
「今度俺の作った和菓子を持って来てやるよ、試作品だけどな」
「えっ!いいよ無理しなくて」僕は実験台になるのは嫌だと思った。
「それよりこれを見てみろよ、ハーレーがカッコいいだろう?」そいとげは鞄からバイクの雑誌を引っ張り出した。
「ふ〜ん、バイクの事はよくわかんないよ」僕は何気なく雑誌を見る。
「俺16歳になったらバイクの免許を取ってバイクに乗りたいんだ」
「そうなんだ、でも学校の許可が必要なんじゃないの?」
「俺ん家は大丈夫さ、だって配達の手伝いで申請するからな」
「えっ、和菓子って配達があるのかよ?」
「何言ってんだよ、お彼岸や年末なんてお餅の配達で大変なんだぞ!」
「そうなんだ、知らなかったからさ」
「まあ和菓子屋にも様々な注文がくるからなあ」
「さすが二代目!」
「なんだよ、おちょくってんのか?ちなみに三代目だけどね」少し笑った。
「すごいなあと思ってさ、僕なんか家のことなんて何にも考えてないからさ」
「まあ、それぞれの家庭に色んな事情があるんじゃ無いの?」
僕はそいとげが少しだけ大人に見えた、そして自分の小ささを実感した。
ふとバイク雑誌のページに目が止まった。
「ゲゲっ!ちょっと見せて!」僕はバイク雑誌を覗きこむ。
そこに写っていたのは何と琴音さんだ。一台のバイクの前で微笑んでいる。可愛らしくメイクして雰囲気を変えているが、間違いなく琴音さんだ。
「どうしたんだよ?」そいとげが不思議そうに見た。
「………………………」
「おっ、ヤホーも気に入ったのか?その子可愛いしスタイルいいよなあ、俺と好みが似てるのか?」
そいとげは琴音さんを見て気に入ってるらしい。
「いや、好みじゃ無いけど」
「何だよ、隠さなくてもいいじゃん」肩をドンと押してきた。
「そんなんじゃ無いんだよ」そう言って雨雲に目をそらす。
「俺もうすぐ誕生日だから夏休みに免許を取るんだ」嬉しそう言った。
「そうなんだ」
「ヤホーは誕生日はいつ?」
「もう16歳になってるけど」
「じゃあ一緒にバイクの免許を取ろうぜ」
「無理だよ、僕には申請する理由がないし。そもそもバイクに興味がないし」
「そうかよ………」そいとげは少し残念そうに言った。
授業が始まったので黒板を見る、しかし心の中ではバイク雑誌の琴音さんが気になった。アルバイトってバイク雑誌のモデルなんだろうか?確かに琴音さんならモデルでも不思議は無いけど………。
もし琴音さんに雑誌の事を聞いたら面倒なことになりそうな気がする。当分知らないフリをしておこうと決めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます