第12話 一緒に寝るの?
学校生活にも少し慣れ、クラスメートの名前もようやく覚えた。教室の雑踏は快く感じる、リビングに出没するパンツとブラの悪魔から解放された気分になるからだ。
そいとげのせいで僕はやはり『ヤホー』と呼ばれている。そして何だっけ?などと疑問符がつく場合には「検索しないよ」と付け足す、ただ中学の時みたいにいじられている感かくはほとんどない。それだけでも救いだと思っている。
図書部員の仕事も慣れてきて普通にできるようになった。茉白ちゃんとも普通に話ができるようになっている。僕は茉白ちゃんとメールで繋がり、今読んでいる本などを教えあったりしている。こういう関係が自然だよね………そう思っている。しかし琴音さんは常識をすっ飛ばして僕を引き摺り回すのだ、だから茉白ちゃんと話すとホッとする。
5月になりゴールデンウイークに入ったら茉白ちゃんと駅カフェで会った。何気ない日々の話で僕は癒される。後半はスケジュールを開けておくように命令された。一体何が起こるんだろう?不安がよぎる。
その朝琴音さんは少しテンションが高めだった。何だろう、何を考えているんだ?なんか怖い。
「星七ちん、今日から一泊で温泉旅行へ行くから準備して!」
「えっ!温泉旅行ですか?」固まる。
「うん、だから着替えとかリュックに入れて準備してね」
「え、何でリュックなんですか?」
「だってバイクで行くからリュックが都合いいの」
「バイクで?二人乗りして?」
「そうよ、もうすぐ出発よ!」
「そんなあ………」僕は仕方なく慌ただしく準備した。
リュックを背負い、駐車場へ行くと物置のドアが開けられ、ヘルメットを渡された。
「星七ちん、このイヤフォンとマイクをつけて」
「はい」なすがまま、されるがままに準備をする。
ヘルメットを被ると琴音さんの声が響き渡る。どうやら会話ができるようにしているみたいだ。えっ………何も共通の話題は無いと思うんですけど………。また不安がよぎる。
「さあ、出発よ!後ろに乗って私に抱きついて」琴音さんは命令する。
僕は命令に従い琴音さんへ抱きついて蝉になる。バイクは住み慣れた街を抜けてさらに走り続けた。
「ミーン、ミーン………」僕は無心で蝉になり鳴く。そうでないと手に伝わる琴音さんの胸の柔らかさで変な妄想をしてしまいそうだ。
「今度大学のバイク部でツーリングに行くからその練習よ」僕のヘルメットの中に琴音さんの声が響く。
「声でか!」なるほどそういう事か、僕はその練習に付き合わされるんだ。納得するしか無いのだと諦める。
お昼を過ぎた頃、第一目的地へ到着した、有名なバイク弁当を食べるらしい。たくさんのバイクが停車している。僕は促されるままにバイク弁当を食べた、とても美味しかった。弁当の入れ物はバイクのガソリンタンクの形をしていて持って帰れるらしい。
お腹を満たした後つぎの目的地へと向かった。天空の楽校と書かれたカフェへ到着する、ここにも多くのバイクが停まっていた。山の上のあるカフェの景色は絶景だ、琴音さんはスマホでたくさん写真を撮っている。花茶とパイナップルアイスを食べてゆっくりとくつろぐ、景色をみていると日頃の生活が嘘のように感じられた。
次の目的地へとまたバイクを走らせる、到着すると川沿いの温泉旅館だ。どうやらここに今夜は泊まるようだ。和風だけどモダンな感じの部屋へ通された。障子を開けて外を見ると川が流れていて癒される。
夜になると部屋に料理が運ばれてくる。鮎の塩焼きやすき焼きなど、たくさんのご馳走は豪華で美味しかった。この体験で僕は少しだけ大人になったような気がして琴音さんへ少し感謝する。
温泉は思ったよりも熱くてゆっくり入る事は出来なかったが、川を眺めていい感じだ。部屋へ戻ると布団が二つ並べて敷いてある。
「えっ………」僕は固まって立ちつくす。琴音さんと二人でここで寝るの?足がプルプル震えだす。
「あ〜、とってもいいお風呂だったわ、温泉ってやっぱりいいねえ、肌が綺麗になった気がするよ」
浴衣姿の琴音さんはいつもと違った色気を放っている気がした。
「えっ、そうですか?」僕は固まったまま答える。
「運転で疲れたから、もう寝ようか?」
「寝るって、ここで二人寝るんですよねえ………」
「勿論そうでしょう」何も不思議はないという表情だ。
僕は緊張したまま布団へ入った。しばらくすると琴音さんの寝息が聞こえてくる。僕は少しだけ安心した。そうだよ、このまま寝てしまえば何も問題ないのだ。
「グー………………」眠りに落ちようとした瞬間、琴音さんの腕が僕の胸の上にドンとのしかかってくる。
「えっ?」今度は琴音さんの足が僕の足の上に乗せられる。僕は掛け布団のまま琴音さんに抱きしめられてる状況だ。
「何これ?………寝相悪いなあ………」
浴衣から手足が伸びて僕の体に絡みついている。薄暗い部屋の中で白い手と足がうっすらと見えて生々しい。掛け布団から出ている琴音さんは寒くないのだろうか?一瞬心配になったが暖房が効いているので問題なさそうだ。そして僕はうっすらと汗をかいていることに気がついた。僕は布団蒸しにされている状態だ。時間が経過するごとに寝苦しさが倍増していく。
「うっ………暑い、寝苦しい」どうしよう、何か方法はないのか?必死で考える。
「う〜ん………」琴音さんの声がして寝返りと共に僕の体から離れてくれた。
「ふう〜!やっと解放された」僕は掛け布団をはねのけて熱くなった体と緊張感を正常に戻した。
「やっとこれで眠れる」と思った瞬間「う〜ん」という声とともに琴音さんの手足が僕の体にのしかかってくる。掛け布団がないので、素肌で抱きしめられている状態になってしまった。
「ピー!………………」僕の頭から音がして湯気が噴き出す。
「SOS………危険な状態ですう………SOS………ピー!!!」
結局何度も寝返りを打つ琴音さんのせいで僕は一睡もできなかった。
翌朝琴音さんは気持ちよさそうにあくびをして背伸びをしている。
「おはよう星七、よく眠れた?」にっこり微笑んだ。
『そんなわけないだろう!』しかし僕の心の声は届くことはないのだ。
琴音さんはまた露天風呂へ行った。僕は少しだけうたた寝をした。
旅館を出た帰り道に琴音さんは少しさみそうに話し始めた。
「ねえ星七、私今度アルバイトをすることにしたんだ、だから連休とかあってもどこへも連れて行けないかもしれない」
「えっ、そうなんですか?」僕は驚く、そして心配になった。
「もしかして、お金が必要なんですか?」
「お金は心配ないよ、ただ少し社会勉強をしてみようかなあって思ってさ」
「そういうことですか、僕が重荷になっているんじゃないかと思いました」
「星七が重荷に?あははそんな事全くないよ」肩を震わせ笑っている。
「だったらいいんですけど………………」
「休みに出かけられなくなったらごめんね………」
「僕は大丈夫です、心配ないです」琴音さんはやっぱり優しい人なのかもしれないと思った。
旅館でからみつかれて寝れない思いをすることがない方が幸せです。と言いたかったが、僕は本心を飲み込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます