第10話 メイン料理はザリガニ?
日曜日は遅く起きたのですぐにお昼になってしまった。僕は買っておいたフランスパンを焼いてインスタントのポタージュスープを用意する。サラダを作るのは面倒なのでトマトスライスを用意した。パンが焼ける匂いがすると、琴音さんが起きてくる。
「おはよう星七ぴょん」
「飛び跳ねませんよ僕は」何となく答えてしまう。
琴音さんは少し笑うと、僕の頭を撫でながら壁の時計を見ている。
「いっぱい寝たなあ〜、もうお昼だねえ」ソファーに座った。
ソファーに寝そべってくつろいでいる琴音さんはパジャマがわりにジャージを着ている。裕福な家の人なのに何で高校のジャージを大切に着ているんだろう?不思議に思って聞いてみる。
「ジャージを大切に着てるんですね?」
「あっ、これ?」琴音さんは改めて袖を引っ張りじっくりと見ている。
「これには思い出があるからね………」そう言った後、少しさみしそうな表情になった。
ヤバイ!地雷を踏んだかもしれない、僕の体に微電流が流れる。一瞬リビングに冷たい空気が流れる。
どうしよう………心の中で対策を必死に考える。
「そうだ、今日行くお店はここだけど場所はわかる?」琴音さんはにっこり微笑んでスマホの画面を見せた。
僕はホッとしてスマホを覗き込む。表示されたお店を僕は知っている、なぜならそいとげの実家である和菓子屋さんの近くだったからだ。僕は少しだけ嫌な予感がした。
「知ってます、近くに知り合いがいるので」
「そう、じゃあ安心だ。楽しみだなあザリガニ」ニコニコしている。
「えっ、ザリガニを食べるんですか?」何だそれ?小さい頃公園の池で釣った経験があるけど、ザリガニって食べれるの?
「北欧料理のお店で評判がいいみたいよ」
「そうですか?でも近くにロブスターが食べられるお店がありますけどね………」不安になって聞いてみる。
「いいじゃん、ザリガニを食べてみたいの!」琴音さんは頬を膨らした。
う〜ん、可愛くない。そう思ったが心の声が漏れないように唇を噛みしめた。
結局北欧料理のお店へ行き、おすすめコースを食べる事になった。勿論メインはザリガニだ!
2階にあるお店へ階段を上がって入っていくと、とても雰囲気の良いお店だ。なんか大人の世界に入ってきたような錯覚に落ちる。予約の時に二人の誕生日だと知らせてあったらしく、お花やキャンドルなど雰囲気を高めてくれている。とても歓迎されて嬉しくなった。
前菜から始まってとても美味しい料理が次々に運ばれてくる。そしてザリガニはとてもおいしかった。
「さて、星七へのプレゼントよ」そう言って琴音さんはリボンの付いた白い箱を僕に手渡す。
「えっ!僕にプレゼントですか?」
「勿論よ、空けてごらん」優しく微笑んでいる。
僕は恐る恐る箱を空けてみる「えっ!これは………」僕は言葉をなくす。
中に入っていたのは白い綺麗なタブレットPCだった。
「え〜!これって凄く高いんじゃないですか?」思わず目を大きく見開く。
「まあね、でも星七は本が好きだって言ってたでしょう?だけどお小遣いから本を買うのは大変だと思ったのよ、これなら電子書籍が読みやすいかなあって思ってさ」優しい眼差しだ。
「いいんですか?………」僕は固まってしまう。
「気に入った?ヤホー」にっこり首を傾げている。
「はい、検索したいです」深々と頭を下げる。
「よかった、星七が喜んでくれて」とっても優しい笑顔だ。
琴音さんは本当はいい人かもしれない。パンツとブラの悪魔なんて思って悪かったかも………………
「あのう………僕から琴音さんへプレゼントです」必死に恥ずかしさをこらえながら紙袋を差し出す。
「えっ、私にプレゼントを用意してくれたの?」驚いて瞳が大きくなる、美人度がさらに増した。
「大したものは用意できないんですけど………」
「開けていいの?」
「勿論です」
琴音さんは中から出てきたフラワーアレンジを持ち上げて嬉しそうにみている。
しかし、しばらくすると少し考えている。
「ねえ、星七ってこんなに気が利く感じだったっけ?」上目遣いで見てきた。
「いえ………図書館で悩んでいたら茉白ちゃんがアドバイスしてくれました」
「やっぱりそうか、星七っちがこんなに気が利くなんて不思議に思ったからさ」口角を上げた。
僕はビクッと身震いする。
「そうか、茉白ちゃんのアドバイスなんだ、なかなかいい子だねえ。もう名前を呼ぶ関係になったの?今後が楽しみだ」小悪魔フェイスになっている。
「えっ、今後ですか?」
「女の子からアドバイスを受けたのは少し気になるけど、でも私のことを考えて相談してくれたんだもんね、だから許してあげよう」
「えっ、許す、何を?」
「何でもいいの!許すんだから心配しなくていいでしょう」笑っている。
何を言ってるんだこの人は?僕は困惑の波に飲み込まれ溺れていく。
「ねえ星七、女の子は多少強引でもアピールしたほうがいいわよ。デートに誘う時にも『君と一緒にいたいから』って、しっかり目を見て伝えるのよ。その方が効果的だから」
「え〜………何を言ってるんですか?僕は茉白ちゃんをそんなふうに思ってません、それにまだ知り合ったばかりなんですよ」
「あ〜、星七が赤くなってる。わかりやすすぎる〜茉白ちゃん大好きって顔に書いてあるよ」
「そんなことないです!」
やっぱりこの人は悪魔だ、ランデビ琴音だ。でも、僕のことを考えてくれてるんだよなあ………、そう思うと少し心がチクっとした。
お店を出て帰り始めるとそいとげの和菓子屋さんの前を通る。心の中で見られませんようにと願う。
無事に帰宅すると、琴音さんはコーヒーをいれてくれた。
「あのう………パッドありがとうございます」僕は深々と頭を下げる。
「いいよ、そんなに恐縮しなくても。これから二人だけだからいろんな不安や不便もあるだろうけど、仲良くやっていこうね」微笑んでいる。
やっぱりいい人なんだ、天使なんだ、そう思って琴音さんをみる。「うっ!」琴音さんは着替えている。またまぶたの裏に画像が1枚増える、やっぱり悪魔か?
ジャージに着替えた琴音さんはソファーに寝そべり、こっちを見た。優しい眼差しだ。今夜は茉白ちゃんより琴音さんのほうが優勢に思えた。えっ、僕の心は物で買収されてるの?いや、本好きの僕のことを考えてくれたからだよ………多分………。そう思いながら僕はパッドを取り出し設定を始める。ふと気づくと琴音さんが後ろに立って設定をみている。
「ねえ、暗証番号は私の誕生日にして、その方が覚えやすいから」ニッコリと圧力をかけてきた。
「はい………」僕に逆らうことは許されないのだ。やっぱり悪魔だ!心の中で叫ぶ。
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