第9話 デート?
食事が終わると琴音さんはお風呂へ向かう。
「一緒にはいる?」
「そんな訳ないでしょう!」僕は強く拒絶する。
薄笑いを浮かべて僕をもてあそぶのだ。もし「はい、一緒に入りましょう」なんて言ったらどうなるんだろう?ふと考えて身震いした。
お風呂から鼻歌が聞こえる、まったくいい気なもんだ。やがて髪を拭きながら、パンツとブラでリビングへ出てきた。
「だから、お風呂場で服を着てからリビングに来てくださいよ!」必死にお願いする。そうでないとまぶたの裏が画像でいっぱいになってしまう。そうなったら僕は変態になってしまうかもしれない、恐怖がよぎる。
「だから慣れてって言ってるでしょう、それより冷たいお茶を頂戴!」琴音さんは何も気にしていない。いや僕のことなんか気にかけてくれないのだ。
最近夜になると琴音さんはコーヒーを淹れる。僕にも淹れてくれるので牛乳を加えて飲む。少し大人の世界に入って行くような気がした。たかがコーヒー一杯飲んだくらいで、なんで大人になっていくような気がするんだろう?琴音さんの下着姿を見た方が大人への近道のような気がしたがその考えを必死に掻き消す。
「ねえ、星七の誕生日はいつなの?」
「僕は4月25日です」
「そうなの、私は4月20日だよ、凄く近いんだねえ」何度も瞬きしている。
「そうですか………」
「じゃあふたり合同の誕生パーティーをしようよ」力強く頷く。
「えっ………」またじわっと不安が襲ってくる。
「じゃあ23日が日曜日だから何処かで食事しようよ、星七は予定を空けといてね」
「えっ………はい………」また何か起こりそうで怖い。
「星七は何か欲しい物がある?」
「いえ、特別ないです」
「そう、私は………まあ良いか」何か言いかけて言葉を飲み込んだ気がした。
次の日休み時間に琴音さんが飲み込んだ言葉が気になって考えてみる。僕にプレゼントを聞いた後のことだからきっと琴音さんの欲しい物を言いかけたんだと思う。しかし僕のお小遣いから何か買わせるのは可哀想だと思ったのではないかという結論に達した。
もし何かプレゼントをもらったら僕はどうしたら良いんだろう?何も用意してないのは困るかもしれない。琴音さんは何が欲しかったんだろう?。しかし僕にその答えを出すのは不可能に思えた。
「う〜、授業が始まったのに全く集中できない」教室の床に独り言が漏れて転がる。
そのまま放課後になり、図書館へ向かう。ボーっと考えながら作業をしていたら遊木さんが声をかけてくれた。
「どうしたの星七くん?何か悩み事?」
「えっ」振り向くと遊木さんは優しそうな眼差しで僕を見ている。可愛い!思わず心の中で叫ぶ。
「実はお世話になっているイトコのお姉さんが誕生日なので、何かプレゼントを用意したいと思ったんですけど、全く思いつかなくて」頭をポリポリとかく。
「そうなんだ、いくつくらいの人なの?」
「大学の一年生です」
「そう………」遊木さんは眉を寄せて考えている。
う〜、考える表情も可愛い!また心の中で呟く。
「そうだ!やっぱりシンプルにお花とかが良いんじゃない?そんなに高価な物じゃなんくても喜んでくれる気がするよ」
「そっか、お花なら僕のお小遣いでも買えそうだ、でもどんな花がいいんだろう?」
「じゃあ帰りに駅ビルを一緒にのぞいてみる?」
「え〜、いいんですか?」
「うん、協力してあげるよ」遊木さんはニッコリ微笑んだ。
うを〜!まるで天使の微笑みだ、そう思った瞬間パンツとブラの悪魔が脳裏をよぎる。うっ!息が詰まりそうになり慌てて画像をかき消した。
放課後になり遊木さんと駅ビルへやってきた。二人で花屋さんをのぞいてみる。
「これ可愛いね」遊木さんはそう言ってディスプレイを見ながら歩いている。
いえ、遊木さんの方がもっと可愛いです!また心の中で呟く。もしかしてこの状況はデートに近いのでは?そう思うと少し足が震えて背中に汗をかく。
遊木さんの見立てで、小さいお花のアレンジギフトを買った。
「ありがとう助かったよ、まし………いや遊木さん」しまった思わず心の声が漏れそうになった。
「ん………」遊木さんは一瞬考えている。
「そうだね、これから一緒にいることが増えるし、
「えっ………」何を言いかけたかバレてる。僕は一瞬で体温が上がり、頬は信号機のように赤色点滅になる。
「ごめんね………」項垂れるしかできない。
「大丈夫だよ星七くん、私だって名前で呼んでるし」微笑んでくれた。
「ありがとう」僕は照れ隠しに笑った。
「そうだ、お礼に何かおごるよ、スイーツとかどう?」
「えっ、いいの?」何度も瞬きしている。
「勿論です、本当に困ってたので助かりました。だから遠慮なくどうぞ」
「ありがとう星七くん」茉白ちゃんは可愛くペコリと頭を下げた。
駅ビルにあるカフェでふたり、ホットケーキを食べて幸せな時間を過ごした。ホットケーキってこんなに甘かったっけ?何となく思ってしまう。そして僕は青春期に入ったような実感を覚えた。
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