第8話 初恋の相手?

 僕はスーパーへ立ち寄り、買い物をしてマンションへ帰ってくる。買い物したレシートを出すとキッチンカウンターの横にある箱へと入れた。箱の中には財布が入っている、中には約10万円程入っていて様々な支払いをこの財布から支払う。そしてレシートや領収書はこの箱に入れることが規則になっている。


 僕はこの財布の中から1万円がお小遣いとして支給される。多いような少ないような微妙な金額だ。親なら『何が欲しい』とねだれるが、琴音さんに物をねだる勇気はないのだ。だから服も買わず、節約して暮らすしかなさそうだ。


 僕はメールを確認する。『今日は6時に帰るよ❤️』「何だ最後のハートは?気持ち悪い」最近独り言が増えた気がする。琴音さんはキッチリ帰りの時間を知らせてくる、しかしそれは6時には食事とお風呂を用意しておけ!と言う命令なのだ。僕には逆らうことも怒らすこともできないのだ。まるで奴隷のようだと思っている。


 後2時間ほどで帰ってくる、夕食を作らなくてはいけない。僕はレタスやキュウリ、トマトなどをぎこちなく切ってサラダを作った。そして今日のチャレンジは親子丼だ。玉ねぎを切り鶏肉を用意する。5時45分になったら一挙に仕上げようと準備した。


 インスタントのお味噌汁やふりかけ、ピクルスなどは、まさかのために常に用意してある。料理が失敗してもご飯にふりかけなどでしのげるようにしているのだ。


 僕は主婦になったような気がした。こうなると世の中の主婦はなんて偉大なんだろうと実感する。


 「おっ、時間だ!」僕は親子丼を何とか完成させる。卵が思ったようにフワフワにはならなかったが、とりあえず食べれそうな気がする。「とりあえず修行中ということで勘弁してもらおう」また独り言が漏れる。


「ただいま〜星七!」琴音さんが元気に帰ってきた。


「ふう〜、疲れた。さてとご飯は出来た?」


「はい、今日は親子丼らしきものを作りました」サラダとインスタントのお味噌汁もテーブルに並べた。


「ありがとう星七」そして琴音さんは僕を抱きしめる。


 僕のほっぺたはまた柔らかな感触を感じる。何とかならないのだろうかこのスキンシップは?しかし僕の心の叫は決して届くことはないのだ。


「おっ、なかなか美味しいよ星七、少しづつ上手になるね」そう言って微笑んでいる。


 僕は少しだけホッとして、少しだけ嬉しくなる、そして自分は何と単純なんだと気が付く。その結果少しだけへこむ。


「ねえ星七、学校はどう?少しは慣れた?」優しそうに聞いてくる。


「はい、少しは慣れました。それから僕は図書委員に任命されて校内図書館の管理をします」図書委員の仕事の内容を説明する。


「それから、同じ1年の女の子の図書委員さんと少し仲良くなりました」


「そう、可愛い子?」少しニヤリとして上目遣いで僕をみてくる。


 しまった、遊木さんの事は言わなければよかった。しかし後悔先に立たずで、僕の知っている遊木さん情報は全て白状させられてしまう。


「そっか、可愛いくて胸も豊かなのか………星七は豊かな胸の人が好きなの?」


「そんな事はありません、サイズは問題じゃないんです」


「じゃあ何処にひかれるの?」横目で覗き込んでくる。


「性格………なんじゃないですか」しどろもどろで答える。


「星七の初恋の人はどんな人?」突然鋭い目つきで聞いてくる。


「初恋なんてしたことはありません」なぜか震えながら答えてしまう。


「そうなの?初恋は私じゃないの?」不満そうな顔だ。


「えっ!………」僕はフリーズする。


「あんなに仲良しだったのになあ………」さらに不満そうな表情になった。


「そうなんですか………」


「お風呂も一緒に入ったんだよ」唇を尖らせている。


「う………覚えてませんから」


「本当に覚えてないの?」さらに覗き込んできた。


「………………」僕は俯くしか出来ない。


 冷たい空気がリビングを支配してしまう。


「そのうちに思い出すかもよ?」そう言って少しさみそうな表情になったが、その後微笑んだ。


「そうかもしれませんね」僕は曖昧に答えその場をやんわりと終わらせる。


 決して琴音さんと遊木さんを比べて遊木さんが圧倒的に優勢に立っていることは口が裂けても言ってはならないことだと思った。琴音さんはプライド高そうだしなあ………

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