第5話 本が好きなんでしょう?
「さて、夕食はどうしようか?」琴音さんは少し考えているようだ。
僕も一応考えてみる。
「そうだ、スーパーの惣菜を買ってくるのはどうでしょう?」前に両親が忙しい時、買いにいかされた記憶があった。
「そっか、その手があったか、じゃあ早速買いに行こう」そう言って琴音さんは外出着に着替え始める。
「だから自分の部屋で着替えて下さいよ」
「そういう事もできるね」琴音さんは何も気にして無いという感じで笑っている。
「じゃあ、スーパーまで案内します」僕は近所のスーパーへ案内した。
「へ〜、惣菜コーナーって色々あるんだねえ」少しテンションが上がっているようだ。この人はスーパーへ行ったことがないのだろうか?少しだけ不思議になる。
いくつかの惣菜とサラダ、そしてパックに入ったお寿司を買った。
「こういうのを食べるのは初めてだから何だか楽しい」スーパーの袋を下げた琴音さんはニコニコしている。この人は本当に食べたことがないんだ。まじか、これまでどんな生活をしてたんだろう………
部屋へと戻ってきた。食べ始めると琴音さんは「う〜ん」と考えている。
「やっぱりレストランやお寿司屋さんとは違うね………」
「それはそうでしょうね、スーパーの惣菜ですからね」僕は黙々と咀嚼する。
「これが毎日続くのはしんどいかも……」
「そうですね」
「星七もそう思う?」
「まあ、惣菜を毎日食べたことはないですからね。いつも母さんが作ってくれてましたから」
「そうだよね………どうしようかなあ………」
しばらく考えていた琴音さんはニッコリと微笑んで僕を見た。うっ、この笑顔は無理難題を言い出すパターンだ。僕は思わず怯んでしまう。
「星七がご飯作ってよ」怖い笑顔に甘えるような口調で攻めてきた。
やっぱりそんな事か「僕は料理を作ったことがないので出来ません、無理です!」必死に抵抗を試みる。
「じゃあ二人で餓死する?」首を傾げている。
「琴音さんは作れないんですか?」勇気を出して聞いてみる。
「私が出来るわけないでしょう!」当然のように突っぱねてきた。
「そうだ!これからのことを考えてお互いの役割分担を決めようよ、星七は料理とお風呂、私は掃除とお洗濯、それで行こう!」高らかに宣言する。
「僕はまともな料理なんて出来ませんよ………」俯くしかできない。
「大丈夫、不味くても文句言わないから」微笑んでいる。
「そんなあ………………」僕はソファーに崩れ落ちた。
「分かった、じゃあ本が好きな星七くんに料理の本を買ってあげよう」琴音さんは勝ち誇った表情だ。
僕に反論する権利はなく、この無理難題にただ耐えるしかなさそうだ。やっぱり地獄だ………
「僕が作った料理のせいで体を壊しても知りませんよ」ヤケクソでリビングへため息まじりに漏らす。
「花婿修行だと思って頑張ってね、これからの時代は料理ができる男子がモテるのよ」ポンと肩を叩いた。
次の日二人で本屋さんへ出かけると、琴音さんは「これ美味しそう」そう言いながら10冊の料理本を購入した。鬼、悪魔、ランジェリーデビルめ!と心の中でひっそり呟く。
僕は初めての料理で何であるか認識できない宇宙食を完成させた。しかし琴音さんは「すぐに上手になるよ」そう言ってニコニコと食べている。その表情を見ていると、僕は真面目に料理と向き合わなければいけないのだと観念した。
次の日僕はもう一度本屋さんへ行くと、料理の基本という本を買ってきて読んだ。
「ふ〜ん、お米ってこうやって洗うんだ………なるほどダシってこうやって取るのか………」たくさんの発見があった。しかし僕は一体何をやってるんだろう?素朴な疑問も湧いてくる。どうやら僕は奴隷街道をまっしぐらに進んでいる気がした。
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