第5話

「あ、秋山。丁度いい所にいた。」

「私忙しいんで帰りますそれでは。」

「いやいや待てよ。」


放課後、部活へと向かうさっちゃんと別れて廊下を歩いていれば花ちゃんに声をかけられた。


花ちゃんの手にはたくさんのノートが積まれていて。

・・・いや予感しかしない。


「俺これから職員会議でさー。」

「・・・。」

「誰がこのノートを生徒会室に届けてくれる人を探してたわけよ。」

「・・・。」

「いやー、助かった助かった。」


さすが秋山、持ってるよなあ。そう言いながら花ちゃんは笑顔で私に近づいてくる、恐ろしい。


「じゃ、頼んだ。」

「いや!無理です私も忙しいんで!」

「なんかこの後予定あんの?」

「・・・愛犬の散歩に行かなきゃ。」

「お前犬飼ってないだろ。」


なんで知ってるの!?と驚けば、花ちゃんはほんとに飼ってねえのかよ!と私の頭を小突く。

くそう、カマかけられた。私とした事が何たる失態。


そんなこんなで私はノートを生徒会室まで運ぶ事になってしまったのである。




「・・・おっも・・・。」


大量のノートを抱えながら階段を上る。


生徒会室は4階。

なんとか2階まではたどり着いたが、あと2階分も階段を登らなくちゃならない。


積み上げられたノートで視界も悪く、

ゆっくりと注意しながら進む。

今まで何度転びそうになったことか。

・・・花ちゃんめ。


ていうか本当に職員会議はあったのかね。

ただ持ってくのが面倒くさかっただけなのでは・・・いや、それは流石に疑いすぎか。


・・・でも花ちゃんならありえるな。



「・・・ん?」


そんな事を考えながら歩いていれば、急に腕が軽くなって視界が広がる。


誰だろう、と横を向けばそこに立っていた彼は眠そうに欠伸をして。


「大丈夫?すごい怖い顔してたけど。」

「うん、大丈夫。ちょっと花ちゃんの人間性について考えてたの。」

「そっか。それは大変だ。」


大して大変だとは思ってなさそうなトーンで春原くんは頷く。

ありがとう、とノートを持ってくれた彼にお礼をいえば、春原くんはもう一度欠伸する。


「これどこに持ってくの?」

「生徒会室。花ちゃんに頼まれちゃって。」


私の言葉にそっか、と頷いた彼はさらっと私が手に持っていた残りのノートも彼の腕へと移した。


「わっ、春原くんいいよそんな!」

「暇だから手伝うよ。」

「ありがとう。でもちょっとだけでいいよ!」

「あんなフラフラしながら運ばれたら危なっかしくて見てられないって。」

「うっ・・・。いやでも!頼まれたの私だし!」


私の言葉にうーん、と考えた春原くんは

結局2.3冊のノートを私の腕に乗せる。


「これで充分。」


そう言って春原くんは一緒にノート運びを手伝ってくれた。



2人で生徒会室を目指し階段を上る。

ほとんど春原くんが持ってくれているため、さっきよりも全然歩きやすい。


横を見れば、春原くんは重そうな素振りは少しも見せずにすいすいと階段を登っていく。


春原くんの優しさを感じつつ、

細身ですらっとした春原くんのどこにそんな力があると不思議に思う。


「・・・身長はそんなに変わらないのになあ。」

「もう1回言ってみて?」

「ナニモイッテマセン。」


思わず口からこぼれた言葉に春原くんが素早く反応して、私の方を見た。


それはそれは満面の笑みで。

・・・ただ目は全く笑っていない。


春原くんの身長は私よりは高いが、さっちゃんとほとんど同じか少し小さいくらい。

男子としては小さめで。


「身長低くても別に困らないですもんねハハハ。」

「え?誰が身長低いって?」

「・・・ハハハハ。」


フォローするつもりが逆効果。

春原くんに身長の話は禁句なのだ。


・・・どうしよう、春原くんの笑顔が怖い。


その後必死のフォローでなんとか話を逸らせたが、

次口を滑らせたら私の命はないのかもしれない。気をつけよう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る