さっちゃんの落とし物
第3話
その日の一時間目の授業は数学だった。
比較的ゆるい授業でお馴染みのおじいさん先生の授業だ。
先生は教室に入ってきて出席をとってから
目を閉じる彼を見て、顔のシワを更に深くさせて苦笑いをする。
「春原くん。」
「・・・。」
「なんでもう寝てるんですかね。」
隣を見ればいつも通り彼は夢の中。
ただやっぱり突っ伏してはいない。謎のポリシーは譲れないらしい。ほんと意味わかんない。
先生はため息をついた後私の方に目を向けて、起こして、と春原くんを指さす。
「春原くん。起きて。」
「・・・。」
「先生、起きません」
「秋山さんもうちょっと頑張って下さい。」
1回で諦めた私に先生が再度声をかける。
仕方なく今度は肩を揺すってみたけれど起きる気配はゼロ。先生も仕方ないですねえ、とため息をつく。
そこは流石ゆるい授業でお馴染みの先生。
寝ている春原くんを放置して授業を開始した。
「次移動教室だっけ?」
「そう、めんどくさいな〜。」
休み時間、席でさっちゃんにそう聞けばだるそうな返事が返ってくる。
春原くんは頭を揺らしながら寝たままで、その前の席に座った塚原くんは笑いながら春原くんの手にマジックで落書きをしている。小学生かよ。
私とさっちゃんの冷たい視線に気づいたのか、塚原くんはマジックを引っ込めてからそういえば、とさっちゃんの方へ向き直った。
「シャーペン見つかった?」
「いや全然。・・・ていうか下敷きもなくなってた。」
「まじかよ!それ大丈夫なの?」
さっちゃんの言葉に塚田くんは眉を寄せる。
私も思わず顔を顰めてしまった。
そう、実は最近小さな事件が発生している。
事の発端は2週間ほど前。
さっちゃんが愛用している緑色の細長くて足と腕が生えててでも体はなくて⋯まあよく分からないさっちゃんお気に入りのキャラクターが印刷された
シャーペンが無くなってしまったのだ。
落としたのかもしれない、と色んな場所を探してみたのだが見つからず。
かなり落ち込んでしまったさっちゃんだが、その時はただ不注意で無くしてしまったと思い諦めた、のだけれど。
それから今日までの間に更に英語のノートが無くなり、そして本日新たに下敷きが無くなってしまったというのだ。
これは偶然ではないだろう。
「先生とかにさあ、言った方がいいんじゃない?」
「いやでも自分で無くしただけだったら恥ずかしいし。それにお金とかが無くなった訳じゃないしさ。」
「そうだけどさー!」
ふくれっ面をする私の頭をさっちゃんがポンポン、と叩く。
確かに高価なものではないかもしれないけど、さっちゃんの私物を本当に誰かが盗んでいたとしたら、それはれっきとした犯罪だろう。
「また何か盗まれたの?」
「わっ!びっくりした・・・。春原くん、おはよう。」
隣から急に声が聞こえてつい大声を出してしまった。そんな事を気にする素振りもなく、春原くんはおはよう、と返事をしてから大きくあくびをする。
「そう、下敷きが無くなった。」
「それは困るね。誰かに盗まれたんじゃない?」
「そんな物好きいないでしょ。」
「「いやいるな。」」
塚田くんと見事にハモってしまった。
さっちゃんは不思議そうな顔をする。春原くんは2度目の大きなあくび。
本人に自覚はないが、陸上部のエースで運動神経抜群。そして女子とは思えない(失礼)サバサバとした性格もあり彼女は男女問わず人気が高い。
・・・いやむしろ、女子からの方が人気かもしれない。
そんなさっちゃんのファンは多くいるのだが、本人はその事に全然気づいていなくて。
この盗難事件(?)の事も大して気に留めることもなく、話題は他の事へと逸れていくのだった。
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