第22のネオン 追憶のワイン

 さて、ネオンの紹介も残り3つ。

 22番目のネオンは、お酒のメーカーのものだ。

 お酒と言っても、「清酒 大車輪」みたいなのではなく、いわゆる洋酒というやつだ。


 ワインなのだろう、赤い色のお酒がゆっくりとグラスに注がれる。

 そのグラスを持ち上げるのは、憂い顔の美女。口を付ける前に彼女は、赤く透き通った液体をじっと見つめる。


 赤いワインの向こう側に、一つの情景が浮かび上がる。

 手をつないで並木道を歩いていく、一組の男女。恋人同士なのだろうか。女性のほうは、どうやら彼女自身らしい。

 仲睦まじく話しながら、二人は通りを遠ざかっていく。


 やがてすっかり葉が落ちて、冬枯れの様子へと変わった並木道。空からは、雪が降っている。

 そこに姿を現したのは、今度は女性のほうだけだった。舞い落ちる雪を見上げて、1人で涙を流す彼女。

 きっと、一緒に歩いていたあの大切な人を失ってしまった、そういうことなのだろう。


 そんな自分自身の姿を見つめていた、グラスを手にした美女は、おもむろに目の前のワインを口にした。

 2口、3口……。やがてすべて飲み干して、グラスの中は空になる。じっと目を閉じて、その味わいを確かめる彼女。

 過去の悲しい思い出は、飲み干したワインとともにみんな消えてしまった、そういうことなのだろうか?


 いや、違うはずだ。

 その大切な思い出は、きっとワインと一緒に彼女の中で燃え上がり、その心を温め続けるのだ。


 人生は、無数の追憶によってできている。

――あなたの、長い人生のお供に、このお酒をぜひ。

 このネオンは、そんな風に優しく語りかけているようだった。


(明日は第23のネオン「伸びゆく街」を紹介します)

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