第21のネオン 都市伝説

 次なるネオンは、眼鏡屋さんのものだった。

 大きな紅いフレームの眼鏡をかたどったネオンが輝き、そのレンズの真ん中では、青いネオンによる丸い目玉が前方を見ている。

 巨大眼鏡の下には、お店の名前。これだけだ。


 ごくシンプルなデザインなのだが、このネオンにはある噂がずっとささやかれている。

 ご想像の通り、ということになるかも知れないが、どうやら目玉こいつは動くらしいのである。


 ある夜、スクルージ街を通りがかった仕事帰りの女性。その日は雨が降っていて、彼女はお気に入りの傘をさしていた。

 不意に彼女は、誰かが自分を見つめているような視線を感じた。それも、高いところから。

 こわごわと傘を少し上げて、気になる方向を見上げてみると、そこにはあの眼鏡のネオン。いつもと変わらず、きょとんとした目で夜空をまっすぐに見ている。

 なんだ勘違いね、と彼女は笑って、通りを歩み去る。


 そして、また別の雨の日。

 今日の彼女は、お気に入りの傘を忘れてしまい、職場で借りた透明なビニール張りの傘を使っている。

 スクルージ街を通りがかった彼女は、またしても視線を感じた。

 ああ、あのネオンね、ともうそんなに気にもせずに、今度は透明な傘のビニール越しに、彼女はあの眼鏡のネオンに目をやった。

 無数の水滴で歪んで見える、紅い眼鏡。その真ん中にあったはずの目玉が、今はレンズの下の端にいて、彼女のほうをじっと見下ろしていた。背筋が凍り着きそうな、冷たい視線で。


 ざっと、こんなところである。

「ビニールについた水滴のせいで、たまたまそんな感じに見えたんだよ。目の錯覚さ」

 そんな風に笑って見せる人も、雨の日にスクルージ街を歩こうとは決してしないのだった。透明なビニール傘をさしている日なら、なおさらだ。

 怪談話を恐れる人ほど、強がってみせるものなのだ。


(明日は第22のネオン「追憶のワイン」を紹介します)

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