第20のネオン 妥協の産物

 続いて20番目のネオンは、石油会社のものだ。

 今でもバイパス道路沿いに見かける、ガソリンスタンドを経営している会社だ。


 ネオンの主役は、まるで小動物のように丸っこくデフォルメされた車だ。

 にこやかな表情で、ワインディングロードを軽快に走っていく。

 ところが、しばらく走り続けるうちに、丸々としていたその体が段々と痩せ始め、表情も次第に曇っていく。

 そう、ガソリンがなくなってきたのだ。


 いよいよガス欠か、と車が青ざめはじめたところで、ぎりぎりのタイミングで「あなたの町の給油ステーション」のシンボルマークがクローズアップで近づいてくる。


 給油ホースをつながれて、見る見るうちに元気を取り戻していく車。

 これでまた、楽しくドライブが続けられるだろう。


 めでたしめでたし、で何の問題もない内容なのだが、なぜかここから展開が大きく変わる。


 給油をしてくれた店員は、実は水着姿のダイナマイトボディーお姉ちゃんなのだった。

 急にアップになったお姉ちゃんは、こちらに向かって派手なウインクを決めると、給油ホースなど放り出して、セクシーにダンスを踊り始める。


 主役であったはずのかわいい車は隅っこに追いやられ、何とも言えない表情のままじっとしている。


 セクシーダイナマイトお姉ちゃんが最後のポーズを決めると、再び石油会社のシンボルマークがアップになり、これでフィニッシュ。


 なぜこんなわけのわからないことになったかというと、この石油会社は元々二つの会社が合併してできたものだったのだ。


「子どものいる家庭に人気の、かわいい車のマスコットこそ、わが社の広告の伝統だ」

「いや、水着の女性が踊ってこそ、ドライバーはわが社のスタンドを選んでくれるのだ」

 と、どちらの会社も主張を譲らず、それでこういう珍妙なものが出来上がったというわけだった。


 かわいい車を喜んで見ていた子供が、突然現れてお色気を振りまくお姉ちゃんの異様さに立ちすくむ。今日も通りでは、そんな光景が見られる。

 つまらぬ意地の張り合いにこだわった二つの会社の幹部は、その姿を見てどう思うのだろうか。


(明日は第21のネオン「都市伝説」を紹介します)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る