第16のネオン 妄想推理ゲーム
16番目のネオンは、おしゃれな美容室のものだ。
青く光る海をバックに、たたずむ女性の後ろ姿。スレンダーな彼女の長い髪が、潮風になびく。
すでにカットは終わっていて、こんなにステキな髪型になりました、そういうことなのだろう。
彼女の傍らには、丸っこい形をした小さな黄色い車。美容室を出た彼女は、そのしゃれた車に乗って、この海辺までやってきたのだろう。
そして、独りで風を浴びながら、海を眺めている。どんな思いがあるのか、そこまでは分からないが。
絵柄としては美しい。しかしながら、そこには大きな問題があった。
こんなにまともに潮風を浴び続ければ、髪はベトベトになってすっかり傷んでしまう。せっかくの美容室の後に、そんな無謀な行動をとるほど彼女は愚かなのだろうか?
いや、そんなはずはない。そんな愚かな女性を、おしゃれ美容室がネオンのモデルとして使うはずなどないからだ。
そこから推理できるのは、彼女の佇んでいるのは、実は海辺ではないということだ。
そう、そこは淡水の湖、たとえば琵琶湖や霞ケ浦の畔であるに違いない。それなら、いくら風に吹かれようが、塩分が髪を傷めることはない。
湖なら潮の香りはせず、時期や場合にもよるが藻やアオコの放つ、一種かび臭いような匂いが漂っているだろう。あれは何ともわびしいものだが、彼女はそんなことを気にしている様子はない。
恐らく、彼女はその匂いに慣れ親しんでいるのだ。なぜなら、彼女の実家はフナやマスの漁を生業としていた漁師だったからだ。
懐かしい、子供の頃を思い出しながら、彼女は湖からの風に吹かれているのに違いない。
こんな単純な構図で、これだけの物語を我々に伝えてくれる。
ネオン広告とは、まったく大したものなのである。
(明日は第17のネオン「遠い温泉」を紹介します)
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