第13のネオン あなたノ人生

 13番目のネオンであるが、実はこれが何だかよく分からない。

「あなたの人生へ……」という例によって余韻の残る文字の下に、「ホウリン」という大きな赤い文字。これだけなのである。点滅もせずに、ただ光っている。


 なんのことやら、これではさっぱりわからない。一体何を、我々の人生に与えてくれるというのか。

 しかも、あちこちのネオン管が古くなっていて、文字がまともに見えないというありさまだ。最後の「ン」など、ほぼ丸ごと消えかけている。


 通りを行く人に、あれが何の看板か分かるかと訊ねてみたところ、

「ああ、『ホウリン』てやつね。なんですかね、あのビルの中にある店とか、そんなのじゃないですか」

 とやっぱり意味を知らない様子だ。

 試しに、ネオンのあるビルの中を調べてみたが、「ホウリン」という店はどこにも見当たらなかった。


「ああ、あのネオン怖いよね……」

 という意見もあった。正体不明なのが怖いのか、と思ったがそうではないらしい。

「あれでしょ、あなたの人生終わり、って。なんであんなネオン作ったのかね」


 何のことだろうかと、改めて見上げて気づく。

 劣化したネオン管があちこちで消えてしまっているために、そのネオンは遠くからはこんな風に見えるのだ。


「あなたノ人生ハ… オワリ」


 夜空に浮かぶ、不吉なメッセージ。広告主も、そんなつもりで作ったわけではないだろう。そもそも、その広告主さえ分からないのだから、真意を確かめることもできないのだが。


 正体不明の不気味なネオンは、今日も通りを照らし続ける。

 終わりつつある世界の、その町の通りを。


(明日は第14のネオン「ハッピー・エンドの下」を紹介します)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る