第9のネオン 今宵はツナ缶で一杯
続いて第9のネオンは、水産会社の缶詰のネオン。いわゆる、ツナ缶というやつだ。
青いネオンの荒波の上を超えて元気に泳ぎ続ける、生きの良いマグロ。
そこに伸びてきたのが、一本釣に用いる頑丈な竿。そう、水産会社の漁船がやってきたのだ。
投げ込まれた餌に食いついたマグロは、たちまちに吊り上げられて、まるで踊るように夜空でその身をくねらせる。
輝くネオンの水しぶきが、はるか下方の歩道めがけて飛び散って通行人を驚かせるが、もちろん体が濡れるようなことはない。
解体の過程を見せることなく、次の瞬間にはもう、マグロはツナ缶の側面におさまっていて、イラストと化した体をまだ未練がましく動かそうとしている。
しかし、窮屈なその場所ではひれをピチピチとやるのが精一杯。二度と大海原に戻ることはないのだ。
そんな哀れな姿を見上げるまばらな通行人たちは、こんなことを思う。
――こいつを肴に一杯やれた頃が懐かしい、どこに行けば買えるんだ……。
――ツナマヨのサンドイッチ、もう一度だけ食べてみたいなあ。
みんな、食べることしか考えていない。かつての味が、忘れられないのだ。
おいしい生き物として生まれてくるというのも、実に辛いことなのだ。世の理とは残酷なものである。
くれぐれも、水族館でお寿司のことを考えたりはしないように心がけたいものである。
(明日は第10のネオン「早回しの現実」を紹介します)
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