第7のネオン ホテルの誘蛾灯

 続いては、ホテルのネオン。

 こちらは商品の宣伝に使われるものとは少々様子が異なり、まさにホテルの屋上に立っている看板である。

 ホテルの名前が大きく書かれ、その左側はシンボルマークである青いイルカ、そして右側には、下方向をさす大きな黄色い矢印の形のネオンが、しきりにチカチカと点滅している。

 矢印の先に目を遣れば、レンガ造りの古びた壁面に蔦が絡む、老舗ホテルの建物があるというわけだ。


 実際、この町を訪れた旅人が、駅の出口でこのネオンを目にして、まるで矢印に導かれるかのようにホテルへとやってくる、そんなことも珍しくなかった。

 誘蛾灯のようにお客を引き寄せる、ネオンにはそんな効果もあるらしかった。


 ただし、誘蛾灯にひきよせられた蛾のように、電撃で焼き殺されるようなわけではないので、どうかご安心を。

 ホテルのドアを入ったきり、二度と外へ出てこなかったお客が実は何人も……などという結末だと、ホラーっぽくて面白いのだが、そんな危険なホテルはすぐに営業許可取り消しになってしまう。そうですね?


 長く続いている老舗だけに、このホテルはなかなかに居心地が良いらしく、みんな満足して帰っていくという話だ。

 朝食のハムエッグが大変おいしいらしいから、一度泊まってみるのも良いだろう。

 大丈夫、ちゃんと出てこられるはずだから。


(明日は第8のネオン「特急電車が走った頃」を紹介します)



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