第5のネオン ニヒルな横顔

 次なるネオンは、有名なタバコ公社のものだ。

 テンガロンハットをかぶる男の、ニヒルな横顔。ワイルドなあごひげが、まるでたてがみのようだ。

 くわえタバコの紫煙を、パープルのネオン管の点滅によってくゆらせた男が、その鋭い目で見つめる先には、一体何があるのだろうか。


 添えられた文字は銘柄の名前だけ、男の正体は決して分からない。旧世紀のカウボーイなのか、大泥棒の相棒をつとめる凄腕のガンマンなのか。

 通りを行く人々は、その姿を見上げては、男の正体をさまざまに想像するのだった。


 公にはされていないが、実はその男には実在のモデルがいた。タバコ公社の広報担当者が、たまたま自分の友人を撮影した写真をヒントに、この構図を考えたのだ。


 実際のその男は、「俺はまだ全力を出してないからヨシ」が口癖のニートで、あごひげはただの無精ひげだった。彼が鋭い目で見つめる先では、明日の食費を全部注ぎこんだ、スロットマシーンのリールが回転している。


 場末のカジノで、男が見事に大当たりを出すことができたかどうか、それは分からない。

 一つだけ言えるのは、知らないほうが良い事実もあるということだ。現実の世の中は、それほどドラマチックに面白いものではないらしい。


(明日は第6のネオン「働き者のおじさん」を紹介します)

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