第18話

「よくぞここまで辿り着いた。まずはその事に敬意を示し褒美をくれてやる」

魔王は指を鳴らす。

それと同時に背後から沢山のモンスターが現れた。

「この者達を倒すことが出来たら次の階層への階段を開けてくれよう。だがもし負けた時は、この城に永遠に閉じこめられる事になる。どちらにせよ死ぬ可能性は高いということだ」

魔王は笑うとまた椅子に座り直す。

「……行くよみんな」

僕の言葉で皆武器を構えた。

襲いかかってくる敵を薙ぎ倒していく。

「ふむ……なかなかの腕前のようだ。ならばこちらも本気で行かせてもらおう」

魔王は立ち上がり両手を広げるとその体から邪悪なオーラが放たれ始める。

魔王の体は巨大化し始めていき、やがてその姿は大きなドラゴンへと変貌を遂げたのだ。

「これが俺の力……魔王としての強さなのだよ!!!」

5メートルはあろうかという巨体が動き回る。

ただそこに居るだけで空気が震えるのを感じた。

「これは厄介ですね」

ユリナの顔から汗が流れる。

その時であった。

突然、地面が大きく揺れ出したのは。

地震は次第に大きくなっていく。

立っていることもままならない状態が続く中、僕らの前に巨大な塔のようなものが出現した。

まるで天に向かってそびえ立つように建っている。

「こいつは何!?」

「こんなものは見覚えが無いわよ!?」

シンシア達が驚いていた。

しかし、一番混乱していたのは、その建物の中に居た一人の少女であった。

少女は慌ただしく部屋をウロチョロとしている。

「あーもう!なんであんなところにあいつがいるの!?」

彼女はイラついた声で呟きながら歩き回っている。

しばらくして落ち着いたのか、深呼吸をして息を整えると何かを考え始めた。

「う〜ん……まぁ、なんとかなるかな?よし、じゃあ、行ってみるかな!」

そう言うと、部屋の中央に大きな魔法陣を出現させる。

それはゆっくりと回転しながら広がっていく。

その光が消えると、そこには美しいドレスを着た一人の女性が立っていた。

「久しぶり……でもないよね?」

女性はニッコリと微笑んだ。

「あ、あなたは!?」

「あはは!そんな驚かなくても大丈夫だよ!私の名前は……って、まぁいっか!とにかくよろしくね!」

「え?どういうこと!?」

「じゃあとりあえず私は先に進んでくるね!頑張って!」

そう言い残すと、再び女性の姿が消えた。

その直後、地面に亀裂が入ると、大きな音を立てて崩壊していった。

「え!?ちょっと!?」

足場が崩れていく中、僕は声を上げるが、既に遅く、なす術もなく落下するしかなかった。

しばらく落ち続けていると、ようやく止まることができたのだが……。

(ここは……?)

真上を見上げるが何も見えない程暗い闇が広がっているだけだ。

すると遠くの方から小さく音が聞こえてきたような気がした。

耳を傾けるとだんだんとそれは大きくなっていき人の叫び声だということがわかったので急いでそちらに向かうことにしたのだった。

走り続けて数分後、小さな灯りが見えた。

どうやら誰かが火をつけているらしい。

僕は少しホッとした。

(これで人に会うことができる)

少しずつ近づいていきその全貌が明らかになる。

どうも牢屋に入れられていたらしく、鉄格子の向こう側に人が何人か固まって倒れ込んでいるのが見える。

(生きているみたいだな……よかった)

「すみません!ちょっといいですか?」

僕は声を掛けてみたが反応がない。

(困ったな)

僕は悩んだ結果、強行突破することにした。

幸いにも見張りはいなかったようで簡単に外に出ることができた。

「おぉ……」

(すげぇ)

思わず感嘆の声を上げてしまうほど綺麗な光景が広がっていた。

空は青く澄んでおり、雲一つない。

太陽からの日差しを反射してキラキラと輝く湖や滝、そして辺り一面に広がる草原や花畑、自然豊かな景色が目に映る。

さらに、どこか懐かしい匂いが鼻をくすぐる。

僕は心を奪われて呆然と眺めていたが、ここで一つ疑問が浮かんだ。

(この世界には電気とか水道とかあるのだろうか……?いや、それ以前に車とか電車とか飛行機とかはあるのかな……って、今はそんな事考えてる場合じゃないな……早くこの人達を助けないと)

僕は気を引き締め直し、行動を開始することにする。

(さてと……)

どうやって助けようか悩んでいると、後ろから大きな物が迫ってくる気配を感じる。

(なんだ……?)

振り向くとそこには体長5メートルほどの大きな熊のような怪物がいた。

しかもそれが三匹もいるのだ。

僕の存在に気付いたのかこちらにゆっくり向かってきた。

「まずいな」

3対1では勝てる自信がなかったし、何より怪我をしている人もいるので逃げるわけにもいかないだろうと思ったので戦うことを決意すると腰にある剣に手を伸ばすがそこで手が止まった。

何故なら相手はまだ完全に姿を現していないからだ。

このまま斬りかかったとしても避けられるか反撃を食らう恐れがあるので慎重に相手の出方を見る。

(来るかッ!!)

その瞬間一気に距離を詰めてきて、先頭にいた一匹目掛けて殴りかかってくる。

「グォオオオッ!!」

鋭い爪を向けながらこちらに襲いかかってきた。

だがそれをギリギリまで引き付けて回避をする。

攻撃を避けられたことによって隙ができたところを見逃さず腹部を切り裂いた。

血を吹き出しながらもすぐに体勢を立て直すと今度は二方向から同時に襲ってくる。

僕は片方の攻撃をしゃがみ込んで避け、もう片方の攻撃は横に跳んで避ける。

そのまま横から薙ぎ払うように攻撃を仕掛けたが、後ろに下がることで避けられてしまった。

だがそれで十分だった。

僕の狙いは相手を怯ませることだったのだ。

今のうちに全員を救出するべく、他の二人を抱え込むようにして走る。

先ほどの場所から離れて茂みに隠れてから様子を見る。

三人の容態を確認するが、命に関わる状態ではなかった。

ひと安心した後、僕は立ち上がり目の前にいる化け物に目をやる。

その姿を見て驚愕した。

なぜならそいつは普通の動物ではなくモンスターだったのだ。

「これは……なんてことだ」

僕の口から絶望に満ちた言葉が出る。

その姿はドラゴンのような形をしており、背中からは黒い翼のようなものが生えている。

体の大きさは通常の倍以上あり、その巨体は見るものを恐怖へと誘うものだった。

僕はこんな生物は見たことがなかったし、図鑑でもこんな奴が載っていたこともなかった。

そもそもこんな生き物が存在するのかということから驚きを隠せない。

ドラゴンは獲物を探すように周りをキョロキョロしている。

(こいつはヤバそうだ……逃げ切れるのか?)

最悪の状況である。

その時、腕の中で震えていた女性が意識を取り戻したようだ。

「……こ……ここは?」

「目が覚めましたか?ここは危険です。もう少しだけ待っていてください」

そう言って彼女を下ろすとまた立ち上がった。

「あいつは何なんですか!?」

「あれはこの世界の敵、魔王の手下みたいなものです」

「ま、まさかあの伝説の!?」

「はい」

彼女は怯えた様子だったが、覚悟を決めたような顔になり言った。

「お願いします!私達をここから逃がしてください!」

「それはできません」

「どうして!?」

僕は首を振って否定する。

「あなたを逃がすことはできるでしょう……しかし、その後あなた達は確実に殺されます」

「それは……そうかもしれませんけど」

彼女は言葉を詰まらせる。

「あなたもわかっているはずですよね?ここにいる人を助けることはほぼ不可能だと」

「…………」

沈黙する。

当然だ。

彼女だって頭の中では理解できているはずだから。

「私一人でなんとかしてみるしかないですね」

そう言うと僕は一歩踏み出した。

「ちょっと!?どこに行くんですか!?」

彼女が慌てて止める。

それを無視して歩き続ける。

すると、向こうから近づいてきていることに気づいた。

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