第17話

ユウトの隣に座っているアイシャがその体を支えるようにしながら話しかける。

「いいですよ。助けに行きましょう!」

「本当かい?」

「もちろんよ。困ったときはお互い様だもん」

「感謝する」

ユウトは笑顔で応えた。

「では、これからのことを話し合いたいと思います」

そう切り出し、今後のことについて話し合った。

「じゃ、行ってくるわね」

あれから数日が経過し、準備を終えた彼女たちは魔王城へと向かうことにした。

「あぁ、気をつけてな」

僕はみんなを見送るため玄関に向かう。

「では行きます」

そう言った彼女は扉を開けると、そのまま外に出て行った。

その様子を見て、つい最近まで当たり前のように過ごしていた日常が無くなってしまったことに今更ながら寂しさを覚える。

その後すぐに、僕は自分の部屋に戻りベットの上に寝転がる。

『ねぇ、本当に良かったの?』

隣にいたクロが心配そうに声をかけてくる。

「仕方ないさ。それよりもお前の方こそよかったのか?せっかく自由に動けるようになったのにまた封印されてしまって」

『うん、まぁ、私は全然構わないんだけど、ちょっと聞きたいことがあるの』

『ん?何が』と言いかけて口をつぐむ。

何故か嫌な雰囲気を感じたからだ。

『私のマスターを殺したやつはどんなやつなのかなって思って!』

ゾクッとした寒気が背中を走るのを感じる。

(ヤバイヤバイヤバイッ!!)

本能的に感じ取った危機を回避しようと急いで体を起き上がらせようとするが……遅かった。

「ゴハッ!!」

鳩尾に強烈な衝撃が走る。

「ごめんなさいね。まさか避けないとは思わなかったので」

「えっ!?その口調……ユリナ?」

僕を攻撃した人物は意外な人物だった。

「正解!よく分かりましたね」

「なんだよ」

「女の子なんだからもう少し寝てて欲しいんだけどユウトくんにはまだ傷も治りきってないでしょ」

「う」

「それに!そろそろ生理とかも始まるでしょ!用意はしてるの?」

「してません」

「なら動くとしても今日は私と生理用品買いに行くの!いい?」

「はい……というかそれって遠回しにデートしてって事?」

「あったり!」

「……ふぅ」

僕は深く深呼吸をした。

「……ユリナ」

「どうしたんですか?そんな真面目な顔をして」

「僕と結婚してくれ!!」

そう言いながらユリナに抱きつく。

「はい喜んで」

その言葉を聞き僕は満足そうにして笑みを浮かべると……

「嘘だけど」と言ってユリナから離れた。

ユリナは呆れた表情をしていた。

「まあ分かってましたけどね!女の子同士だし。結婚はわたしとしても別にいいかなって感じですし。いつでもお風呂で一緒できますし」

「そ、そうだね」

「胸だって揉み放題ですから」

「そ、そうだね」

僕は苦笑いをする。

そんな話をしていると、不意にユリナが真剣な顔つきになり問いかけてきた。

「ところで、いつ出発するんですか?」

「え?さっきはあまり動くなと」

「生理用品買いにです!」

「あっ、そっち」

「当たり前でしょ!いつくるかチェックすらしてないユウトくんには丁度いいんです!」

「はい」

そうして、結局、出発予定日までユリナのお説教を受けることとなった。

「さてと、じゃあそろそろいくわね」

アイシャの言葉と共に全員が動き始める。

「あ、待って!最後に確認したい事があるんだ」

「何かしら?」

アイシャが首を傾げる。

「あの時一緒に捕まっていた人達の中に勇者とかはいた?」

「いえ、いませんでしたよ」

「そうか、ありがとう」

「どうしてですか?」

「少し気になることがあってね」

「気になる?」

「あぁ」

アイシャはしばらく考え込んでいたが、やがて諦めたような声で言った。

「分かったわ。私達が魔王を倒して平和になったらゆっくり話しましょ」

「そうしてくれると助かるよ」

「では」

その言葉と同時に僕の体は光に包まれていく。

そして次の瞬間、目の前にあったはずのみんなの姿が見えなくなった。

「転移しましたか」

ユリナが呟く。

その声に反応するように周りから声が聞こえてくる。

「うん、そうみたいだね」

「大丈夫ですか?ユウトは魔王と戦うんですよ?不安じゃないですか」

「そりゃ怖いけど、それよりワクワクするんだよね。こんな感覚久しぶりだから」

「そうですね。私も楽しみですよ。魔王軍がどれだけ強いのか」

「まぁ、いざとなれば逃げるけどね」

「逃げても無駄ですよ。必ず見つけ出しますから」

「だろうと思ったよ」

「フゥーやっと着いた」

アイシャが声を上げる。

僕らが降り立った場所は、どこかの森の中であった。

「ここが目的地?」

シンシアが尋ねる。

「ううん違うよ。ここは多分だけどまだ魔王城がある所よりはだいぶ離れた場所だと思うわ」

「なるほど……」

それからすぐに移動を開始した。

魔王城はここから徒歩で1週間程かかる場所にあるらしい。

「あ、あの……みなさん」

先を進む中、アリンちゃんが小さく手をあげながら口を開く。

「どうしたの?」

「あの、私も戦う事はできるんでしょうか?」

「それはどういう意味?」

「私は、ずっとここに一人でいましたので、あまり戦い方は知らないのです。それに皆さんと違って普通の人間なので、足を引っ張ってしまうかもしれません」

「でも、君はこの前の戦いの時に魔法を使っていたじゃないか」

「あれは……偶然で。もう一度使えるとは思いませんので」

「そう、まぁ、とりあえず私たちに任せてもらえれば問題はないわ」

「はい、よろしくお願いします」

そうして再び歩き始めた。

途中、何度か魔物と遭遇したが、難なく撃退することができた。

「ねぇ、そういえばなんであなた達はそんなに強いの?冒険者なのかしら?」

「いえ、違いますが」

「じゃあ一体どこから来たの?もしかして他の国?見たことがない服だし」

「実は……分からないんです」

「……え?何が」

「自分の記憶がないんです」

「…………はい!?」

アイシャの声が響き渡る。

「ちょっと待って!それ本当!?」

「はい」

「自分が何者かわからない……つまり名前もないの?」

「そういうことになります」

「マジで!?」

「はい、おそらくは……あとはなぜ戦えたのかも分かりません。もしかすると私が本当に伝説の勇者だったりするのかもしれないと、今は思っています」

「伝説って?」

「えっと……私には昔から不思議な力があったんです。人の持つ魔力の流れを見る事ができるんです。それが何なのかまでは分かりませんでしたが、もしかするとそれのおかげで自分は戦えるのかなと思いまして」

「へぇ、凄いわね。ちなみに私のことはどう見えてるの?」

アイシャは興味津々といった様子である。

「アイシャ様……ですか?とても綺麗な方だとは思うんですが……特に何も見えないんです」

その言葉にアイシャはガックリと肩を落とした。

「なんだ……残念……それってもう私には魅力なんて無いっていうこと?」

そんな事を言っていると、今度はシンシアが話に入ってくる。

「そんな事ないわ!貴女は十分魅力的よ!」

「そうなんだ。ならよかったんだけどね〜」

アイシャは何やら含みのある言い方をした。

「……」

僕は二人の様子を見て思った。

(仲いいな)

「ところで、一つ気になってることがあるんですけど」

「なに?」

「皆さんの髪の色、黒っぽいですけど染めているんですか?」

「まぁ、そうだね。元々は僕以外全員銀とか白なんだよ」

「やっぱりそうでしたか。なんかアニメに出てくるキャラみたいでカッコいいなと思ってました」

「ありがと」

そんな話をしていると、ついに大きな森にたどり着いた。

「ここね」

「はい」

そこには禍々しい雰囲気を放つ城が建っている。

「いよいよだね」

僕は拳を強く握った。

「さてと、早速行きましょうか」

アイシャの言葉を聞き、全員が戦闘態勢に入る。

門番を倒し、城の扉を開けると、中には多くの魔族がいた。

全員が黒い肌をしている。

そして、奥にある玉座に座っている一人の男を見て驚いた。

(あの人は……まさかッ!!)

男はこちらを見ると笑みを浮かべた。

「ようこそ勇者殿達。我が城へと。歓迎しよう」

男の身長は高く、体格も良い。

短く切り揃えられた金髪が太陽の光を浴び輝いている。

「お前は誰だ!!」

ユリナが叫ぶと、男は立ち上がった。

「我はこの国の王。魔王と呼ばれているものだ」

「やはり魔王か」

ユリナは刀を構える。

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