第16話
それから、すぐにベッドで横になって休み始めるユウトを見て、
「若いうちは無鉄砲なのはしょうがないことかのう」
と思いながらも苦笑いを浮かべた。
(ユウトが目を覚ました時に言おうとしたことがあったのを忘れていたわい)
(あの娘も喜ぶだろう)
(今度こそ幸せになる権利はあるはずだ)
(頑張れ……ユウト……)
と心の中で呟きながら静かに部屋から出て行った。
目を開けた時に見えたのは見慣れない天井だった。
少しの間、ボーっとしていると扉が開かれユリナ達が入ってきた。
「おはようございます。体の調子はいかがでしょうか?」
「おはようございます。体は問題無いです」
そう言って体を起こす。
体の調子を確認してからユリナに尋ねる。
「アイシャの容態を教えてくれないか?」
「はい。彼女はあなたより早くに起きていて、今は治療中です」
「そうか」
ホッと息を吐く。
「ところで、あの時の魔王軍のことについて聞きたいことがあるんですが」
「あ、あ〜その事については後で説明するよ。それよりも先に朝食を食べさせてくれないかな。少し腹が減ってるからね」
そう言うとユリナは笑顔になり
「かしこまりました」
と言って部屋を出て行く。
しばらく待っているとユリナ達が食事を持ってきたので、一緒に食べることにした。
食べ終わる頃にはアイシャがやってきた。
彼女は包帯まみれだったが、命には別状はないらしい。
「大丈夫か?」
「うん。平気」
彼女は明るく返事をする。
「そうか」
「心配してくれてありがとう」
アイシャの言葉を聞いて、ユウトは自分の顔が赤くなるのを感じた。
「べ、べつに……」
そんな二人の様子を他のみんなは微笑ましく見ていた。
「さぁ、食事が終わったなら昨日の続きじゃ!」
ユウトは先程のことを思い出していた。
ユウトは魔王軍の連中に捕まっていた。
そして、ユウトは牢屋に入れられる直前、一人の少女と出会ったのだ。
(俺が出会った子は……)
そこでユウトの思考は遮られる。
なぜなら、ユウトの前にいる人物達によって。彼らは全員、黒ずくめの格好をしていた。
「貴様か……我らの仲間を殺してくれた者は」
「仲間?」
何を言っているのか分からないといった表情をしているユウトに対して、リーダー格と思われる人物が説明を始める。
「我々の目的は、魔王軍の復活にある。そのために、まずはこの世界を手に入れる必要があった。しかし、我々の力では到底不可能なことだということはわかっていた。だから我々は人族を味方につけることにし、その中でももっとも厄介な存在となる勇者に目をつけた。その計画を実行するために我々はこの国で準備を行っていた」
そこまで聞いてようやく自分が狙われている理由を理解した。
「それで?それが俺に何の関係があるんだ?」
「簡単な話だ。その計画の邪魔をされた。ただそれだけのこと」
なるほどな。
つまり、こいつはこう言いたいわけだ。
『大人しく死んでくれ』と。
まぁ……普通は死ぬよな。
だが断る!!
「悪いけど、俺は簡単には死なな……えっ!?」
ユウトは驚いた。
何故ならば突然、体が宙に浮かび上がったからだ。
どうやら、目の前の男はユウトに向けて魔法を放ったようだ。
それを見た周りの者達は驚きつつも、すぐに武器を取り出し構える。
「まさか、今の一撃を受けて生きているとは……」
「ふざ……けん……じゃねぇぞ!!クソ野郎共!!」
ユウトは全力を振り絞り叫ぶ。
「黙れ!!」
再び、男の放った攻撃によりユウトは地面に激突する。
「ガハッ!!」
口から血が流れる。
(このままじゃヤバいな……)
「これで終わりにしてやる」
そう言った男が何かを唱えると、突然、男の後ろに巨大な火の玉が現れる。
「これを喰らえ」
「マズイ!逃げろ!」
誰かの声を聞き、すぐにその場から離れる。
その瞬間、その巨大の火球は放たれ爆発を起こした。
凄まじい爆風と熱波が起こる。
その威力は今までユウトが経験したことがない程であった。
その攻撃をモロに受けてしまったユウトは当然のように全身に大火傷を負い瀕死の状態になっていた。
意識が薄れていく中でユウトは考えていた。
ーなぜこんなことになった?と。
そして、最後に出てきた疑問。
その答えを考えながらユウトは深い眠りについた。
これがユウトに起きた出来事である。
その話を一通り聞いた僕は呆然としてしまった。
「僕が……僕が殺した?魔王軍の奴らを?」
信じられない。
そんな思いを抱きながらも、ユウトさんは真剣に語り続ける。
「僕だって最初は信じられなかった。だけど、あの時の記憶を思い出そうとすればするほど、あいつらが憎くて仕方がない気持ちで溢れてくる。正直、自分でも抑えきれないくらいの殺意を感じている。多分……もうすぐ……」
そう言ってユウトさんの体は小刻み震えていた。
「ユウト、落ち着いてください」
「大丈夫だよ。ユリナちゃん。ありがとう」
ユリナがそっと手を握ると、ユウトの体の揺れは徐々に治っていった。
「すまない……話が逸れたね」
「いえ……それより、ユウトの話を聞いていくつか気になる点があるのですが……」
「なんだい?」
「まずはあなたが出会ったという女の子について教えてください」
ユリナが質問すると、ユウトは少し考え込んだあと口を開いた。
「その子の名前はアリン。髪は金色で目は碧色だった」
「それは間違いなく魔王の娘ですね」「魔王ってことはやっぱり魔王軍は復活してたのか」
「はい。ユウトのおかげでどうにかなったみたいですが、もしあなたがいなかった場合、この国は大変なことになっていたでしょう」
「そうか……。でも、そうなると、魔王軍が狙っているものは一体なんだろう?」
ユウトが不思議そうに呟くと、ユリナは目を細めながら答える。
「おそらく、あなたの考えているものと同じものでしょう」
「僕の?」
「はい。あなたの持つ神器です。あの子たちはそれを欲しています」
「どういうこと?」
「そうか、まだ説明していなかったね。魔王が持っているとされる魔道具の中には人を魔物に変えるものがあるらしいんだ」
「人を?」
「あぁ。それに魔王が使っている魔法の中には空間移動系のものもあるらしい」
「それを使えばこの世界に転移してくることができるということですか?」
「そういうことだね」
「なるほど。しかし、どうしてそんなことを私達に話すんですか?」
「うん。実はそのことで君たちに頼みがあって来たんだ」
ユウトの言う"私たちにお願いしたい事とは何かを聞くと、彼は予想外の言葉を口に出した。
「あの時、魔王軍に捕まっていた人たちを助けたいんだ!」
「魔王軍から人々を助け出す手伝いをしてほしい!?」思わず声をあげてしまう。
「そうだ」
ユウトは力強くうなずいた。
「確かに、あの人たちは可哀想だとは思うけど……」
「無理なお願いなのは分かってる!それでも……頼む」
ユウトは再び頭を下げてきた。
「頭をお上げ下さい」
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