第19話
(来たか……)
相手が真っ直ぐに向かって来てくれたおかげで、こちらも迎え撃つ準備ができるというものだ。
そして遂に距離が縮まり戦闘が開始される。
先制したのは僕だった。
剣を抜いて相手に斬りかかる。
相手も同じように拳を振り下ろしてきたのでぶつかり合うが、力の差があったせいで僕は吹っ飛ばされてしまう。
「ぐぅ……!!」
地面の上を転がるように吹き飛び、何度か回転してようやく止まることができたが全身が痛む。
(かなりマズイな……)
自分の力を過信していたわけではないのだが予想以上に相手の力が上回っていたので焦りを感じる。
その後も一方的に攻撃を受け続けた。
反撃することもできずただ防御することしかできないのでダメージは蓄積していく一方であった。
何度も立ち上がるが、足取りがおぼつかないほど疲労が溜まっていた。
そしてついに限界がきて膝をつく。
その様子を見て好機と判断したのかとどめを刺すべくゆっくりと近付いてくる。
諦めて死を受け入れるかのように目を閉じた瞬間
ー パキッ!!
と音が鳴ったかと思うと次の瞬間、ドラゴンの首が地面に落ちていてそこから血が噴き出していることに気付く。
首無し死体がドサッと音を立てて倒れる。
「え……?一体なにが……」
突然のことで呆然としていたがすぐに気持ちを切り替えて助けようとしてくれた人の元へと向かう。
その人は倒れて気を失っていたので抱きかかえると安全な場所に移動させた。
「ありがとうございます。危ないところでしたよ……本当に助かりました。私はセリーナ・アスターと申します。どうか助けてくださり感謝致します」
「気にしないで下さい。それより他に怪我をしている人を運んで頂けますか?」
「もちろんお手伝いさせていただきます」
僕たちは急いで他の人たちを助けに向かった。
それからしばらく経つと皆が目を覚まして無事を確認し合った。「皆さんが無事に回復してくれて良かったです」
「あなたのおかげです。助けてくれなかったら私たちは今頃どうなっていたことやら」
心の底からホッとしたように安堵のため息を漏らしながら話す。
「それよりもさっきのアレはなんだったんでしょうか。それにこの世界とはどういう意味なのか教えてもらえませんか?」
「わかりました。私の知っている限りのことを全て話します」
「まず最初に私たちを襲った怪物についてなのですが、あれこそが魔王の手下で名はベヒーモスと言います。他にもケルベロスがいます。両方ともとても強いモンスターです」
「そんな危険な存在がいたなんて……知らなかったです」
「無理もないと思います。何せ奴らは滅多に姿を現さないので。ですが現れてしまった以上倒すしかないです」
「そうなんですか。それでこれからのことについてですけど、王都に戻ってこのことを報告しましょう」
提案するが、彼女の表情は暗いままだった。
それも仕方ないだろう、命の危機に晒されていたのだから……。
そこで一つ思いついたことがあったので言うことにした。
「もし良ければ僕と一緒に行動しませんか?僕は旅をして回っているのですが良い仲間がいないかなと思っていたところだったので」
すると彼女は少し悩んだ素振りを見せた後
「お願いします!」
と言ってくれた。
こうして僕は新たなメンバーを加えて旅に出ることになった。
新しい仲間たちを連れて僕は馬車に乗りながら王国へ向かっていた。
とは言っても急に人数が増えたため荷物が多く、あまりスピードを出すことができない状態になっているのだ。
今は日が暮れかけている時刻であり野宿をすることになっていた。
だがその前にやることがあるのでそちらを優先することにする。
それは亡くなった者たちの墓を作ることだ。
あの場所には魔物の骨が大量に散らばっているのでそれを片付けてから穴を掘ってそこに埋めることにしたのだ。作業を終え、墓の前で手を合わせる。
みんな安らかに眠ってくれ、君たちのことは忘れない。
……そう思った時、後ろから声をかけられた。
「何をされているのですか?」
振り返るとそこには一人の少女が立っていた。
少女といっても僕よりも年上で大人っぽい雰囲気を持っている女性である。
彼女はこちらを見つめたまま動かない。
沈黙に耐えられなくなったのか彼女が先に口を開いた。
「あ、あの、あなたはもしかして英雄のユート様ですか!?」
興奮気味に問いかけてくる。
僕は苦笑を浮かべつつ答える。
「確かにそう呼ばれていますね。一応」
「やっぱり!あの、握手してもらっても良いですか!?」
「えぇ、構いませんよ」
僕は快く承諾して手を出そうとしたが、彼女はなぜか驚いた顔をしている。
「あの、どうかしました?」
恐る恐るという感じで聞いてきたので僕は何か変なことでもしてしまっただろうかと思い不安になる。
彼女は慌てた様子で言った。
「あ、いえ、、男性にしては手が小さいといいますかそれほどごつごつもしてないなと」
「それは俺が女の子だからです」
彼女はさらに驚く。
「え!?それは本当なんですか!?」
「嘘じゃないですよ」
「信じられません」
「うーん、、お風呂に入れば分かりますよね」
「はい?男性とは」
「だーかーら俺は女の子だと言ってます」
今度はちゃんと伝わったようで、驚きすぎて言葉を失っているようだった。
「まぁそういうわけなのでよろしくお願いします」
僕は挨拶を済ませるとその場を離れた。
その後、彼女も遅れてついてきた。
夜になり、焚き火を囲んで食事をすることになったのだが、セリーナさんが作ってきた料理はとても美味しかった。
「すごく良い腕ですね」
「ふふん、ありがとうございます」
「野営だけど風呂は入りたいな……あそうだ、、サーチ……あ……近くに温泉がある」
「温泉があるんです?」
「はいこのすぐ側ですね後で行きましょう」
食事を終えた後はお待ちかねのお楽しみタイムに入る。
温泉の温度を調べ
「これなら入れるな」
2人で服を脱いで互いに女の子同士であることを確認して
温泉に浸かる。
(ふう疲れ飛ぶ)
「女の子だったんですね」
「言った通りでしょ」
「ええ、疑っていたわけではないですが実際に見て確信が持てました」
「それじゃあもう疑いの余地はないでしょう」
「そっちこそ男の子では無いですよね」
「もちろん違います」
しばらく2人きりの空間でゆったりと過ごす。
ただそれだけなのに何故か心が落ち着いて幸せな気分になった。
翌日になると再び出発した。
道中では特に何もなく平和なままで、ようやく王国の門が見えてきて中に入った。
それからすぐに宿屋へ向かいチェックインをした。
部屋に入ってベッドの上に腰かけるとそのまま横になって倒れ込むようにして眠りについた。
朝起きると隣には誰もいなかったのでおそらく先に起きたのだろうと思う。支度を整えてからロビーに行くとちょうど帰ってきたようだ。
話を聞くとどうやら無事に依頼を終わらせることができたらしい。
報酬を受け取った後に別れることになったがまた会う機会もあるかもしれない。
メルシア達と合流し
街へと繰り出す。
まず最初に冒険者ギルドへと向かった。
理由はクエストを受けようと決めたからだ。
早速受付に行き手続きをする。
「すいません、これをお願いします」
そう言って差し出した紙を見た瞬間に職員の顔色が変わった気がした。
「少々、こちらの方へ来ていただけないでしょうか?他の方々もです」
その迫力に気圧されて言われるがままに個室へと向かうことになった。
そしてドアが閉まる音が聞こえると同時に、
「どういうつもりですか!!これは!!!」
ものすごい剣幕で迫られた。
一体何があったのだろうと困惑する。
すると
「Aランク昇格おめでとうございます」
「……は?」
唐突にそんなことを言われた。
「ですから、あなたはA級に昇格されたんですよ。本来であればC級の冒険者が受けるような難易度ではありませんし当然の結果です」
僕は呆然と立ち尽くしていた。まさかそんなことになっているなんて夢にも思わなかった。
だがここで黙っているのはまずいと本能的に察し、咄嵯に口を開く。
「い、いやまだF級のはずだけど……」
「貴方たちの功績ですよこれは」
「僕たち?」
「はい、あなたたちが今までに受けてきた仕事は全てSSS以上に認定されるものばかりです。それもほぼ無傷の状態で成し遂げています。これがどれほど凄いことなのか分かっていますか?」
「全く分からないよ」
「はぁ、、いいですか。そもそも高難度の依頼を受けられるのは実力のある人だけなのです。それに達成率100%なのですよ。これで評価しないわけがないです」
「(あ、ガイルたちと一緒に行ったやつとかあれやこれやか)」
「という訳で、これからも頑張ってください」
「わ、わかったよ」
そうして話が終わり、退室しようとすると扉が開き1人の男が入ってきた。
「お久ぶりですユート様」
「ん?誰だっけ?」
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