第11話

そのことから彼女がとても優しい性格をしていることがわかる。

「ごめんなさい、失礼でしたよね。あなたは本当は女性なのに男のふりをして旅を続けているんですよね」

「まあ、そうなんだけどさ」

ユウトの言葉を聞いてメルシアがまたも笑っている。

(こいつ、マジでいつか泣かす)

「やっぱり、そうですよね」

すると、何かを決意したかのように

「私に考えがあるんです。ちょっとついてきてくれますか」

「はい、いいよ」

俺達は彼女に案内されるままについていくのであった。

俺達を教会まで連れて来たのは彼女なりの考えがあったからであろう。

(一体何をするつもりだ?)

「今すぐにでもあなたを王城に連れていき国王陛下に会わせます」

「いや、それはまずいだろ」

いきなりの爆弾発言である。

そんなことをしたら大変なことになる。

「どうしてですか?」

「どうしてもこうしてもないよ。だって俺はまだ冒険者になったばかりの駆け出しだぞ。そんな奴が国のお偉いさんに会うなんておかしいだろ」

「大丈夫です。私も一緒に行って説明します」

「うーん」

正直、不安でしかないのだがこのままだと話が進まないのでここは折れることにした。

「わかった、そこまで言うなら信じるよ。ただし変なこと言わないように頼むぞ」

「はい!」

こうして彼女の提案通り王様に会いに行くことになったのであった。


***

一方その頃クロナはというと……

『おい』

誰かの声が聞こえたのでそちらの方を見てみる。

そこには白い羽を持った天使のような姿をしている人が立っていた。

しかしその見た目とは裏腹に全身からは禍々しさを感じる。まるで悪魔のような形相をしていた。

『我の姿が見えるようだな。ならば話は早い。我が名はルシファー。魔王軍の幹部だ。そしてお前は選ばれたのだよ、我らが主にな。喜べ、これで世界を手に入れることができるぞ。光栄に思え、お前はこの世界の新たな主になるのだからな!!』

「そうなんだ、私頑張る」

『ほう、随分素直だな』

「だってお姉ちゃんの事が大好きだから頑張ろうってなるんだもん」

『姉がいるのか?』

「本当のお姉ちゃんじゃないよ。普段はね男の子モード全開で女の子ハーレムが好きな女の子なの」

『それってある意味での変態では?』

「そこがいいの!それに全部格好いいから許せるし」

『そ、そんな凄いのか』

「うん!凄いのよルシファーちゃんにも見せてあげたいよ!ユウトお姉ちゃん」

『ほ、ほう』

ユウトに興味が出てきたルシファー。「そうだ、もしよかったら友達になってくれる?」

『もちろんだ。これから仲良くしていこうではないか!』

2人は意気投合するのだった。

「ユウトくん、ここどこだろう?」

「わからないな」

3人の目の前にある建物はかなり大きい。

それこそ東京ドーム何個分といった感じの規模だ。周りには多くの衛兵が警備しており厳重警戒態勢が敷かれているのがわかる。

「まさかこんなことになろうとは」

まさしく絶体絶命の大ピンチ。

俺達の前には門番らしき兵士が2人いる。

(これは突破するのは難しそうだ)

(ユウトさん、どうしようか?強行突破?それとも説得?どちらにせよあまり良くない結果になりそうですね。どうにか穏便に行きたいところだけど)

(ひとまず話しかけるか)

俺は意を決して話し掛けようとする。

「あのすいません。少しよろしいでしょうか?実は俺達この街に着いたばかりで宿をとりたくてきたのですけど」

俺は精一杯下手に出ることにした。

「ん?なんだ?怪しいやつらは早く帰れ」

「この子達は悪い人たちじゃありません。お願いします、中に入れてあげてください」

「ミレー。あんたこの人と知り合いなのか?」

「はい、彼女はユウト様といって私を助けてくれた方なのです」

「なんだ、勇者様なのか?女の子?」「勇者様が女!?」

(あれっ、なんで驚いてるんだ?)

この国ではあまり男女差別はないはずだと思っていたけど違うのか?

俺は少し疑問に思いながらも話を進めることにする。

「俺のことを女だと思ってくれても構いませんのでどうか入れてもらえませんでしょうか?」

俺は頭を下げ頼み込む。

「しかし……」

兵士の男は悩んでいる様子だ。

それもそのはず俺達が通ろうとした瞬間、突然地面から剣が出現し襲いかかってきたのだ。

おそらく罠の類だと思うがそれをかわすと彼らはすぐに逃げてしまった。

当然といえば当然かもしれない、相手は勇者様なわけだし。

しかもミレーの話によればかなり腕利きらしいので俺達に勝ち目がないことはわかる。

しかし、それでもミレーは諦めない。

なぜならここで自分が食い下がればなんとかなると思っているからだ。

(ユウト君、どうすればいいかな?)

(俺がやるしかなさそうだな)

「おい、そこの兵士のおっさん。よく聞けよ」

「誰がおっさんじゃい!!」

「あんた」

俺が言うと怒り出した。

(わかりやすい性格をしていそうで助かる)

「ふざけんな、まだ20代前半なのに酷いじゃないか!」

思ったより若かったみたいだ。

(でもまあ、それはいいとして)

「そこを何とかなりませんかね」

すると、さっきまで怒ってたはずの彼が急に黙り込んでしまった。

(さすがの彼も俺のことが怖くなったのだろうか?)

「わかった、とりあえずついてこい。国王陛下に話をしてくる」

「本当ですか!」

「ただし条件がある」

「なんだよ?」

「国王陛下に会う前に俺と模擬戦を行ってもらう」

「え?」

いきなりの展開に困惑してしまう。

「おい、そんなの聞いていないぞ」

「言ってなかったからな」

「くそ、仕方がない。それで納得してくれるならやってもいいぞ」

「よし決まりだな。ついてきてくれ」

こうして国王陛下に会うためにまた戦いが始まるのであった。

王城に連れてこられた俺達。

そしていきなり始まったのは模擬戦である。

「ではルールを説明する。相手を戦闘不能にするか降参させる。または武器がなくなるまで続けるのどれかだ」

「わかった」

「わかったぜ!」

「私は審判を務めさせていただきます」

「よろしく頼む」

「頼んだぞ」

メルシアは訓練場の中央に立つと手を高く掲げて叫んだ。

「これより第1回チキチキ☆ユウトVSガイルによるバトルを始めます!!皆さま、準備はよろしいでしょうか?」

「「「うぉおおー!!!」」」

観客は盛り上がりを見せる。

(なんだそのチキチキってのはへえ?おっさんガイルって名前なのね)

(なんか楽しそうだな)

「では早速始めましょう!両者構えて……試合開始です」

「いくぞオラァア」

先手必勝、先に攻撃を仕掛けてきたのはガイルだ。

俺に向かって真っ直ぐ突っ込んできたかと思うとその巨体に似合わぬ速度で殴りかかってきた。

(速い!)

「ハアッッ」

ドカンという音と共に地面にクレーターができる。

「ほう今のを避けるとはなかなかの身体能力を持っているようだな」

「お前こそ、ただ力任せで殴っただけじゃないな」

「フハッ、そこまでわかっているのかよ。これは本気で行かないと勝てないかもな」

「当たり前だろう、俺は勝つつもりでいるからね」

「そうかい、そいつは残念だ」

そういうと今度はこちらから仕掛ける。

先程と同じように一瞬で懐に入り込んだ。そのまま蹴りを入れるがギリギリ反応されガードされる。しかし、攻撃の手を止めずにラッシュを続ける。

「ほうなかなかやるじゃねえか!だが俺には通用しないなぁああ!!!」

さらに勢いを増し反撃してきたがそれを全て受け流す。

「バカナ……」

その後も何度も打ち合ったがお互い決定打を与えられないまま時間だけが過ぎていった。

「ここまでとは予想外だったよ。流石勇者様と言ったところかな?いや勇者だったか?どちらにせよ、これだけの力を持った人間がこの世界にいるなんて驚きだよ。本当に惜しいな、こんなところで終わってしまうなんて。だから……」

そう言った次の瞬間彼は今までで一番のスピードを出し拳を突き出そうとしたが俺はそれを片手で掴み止める。

「もう終わりか?」

「なん、だと……」

(これで終わらせるつもりだったんだろうけどそうはいかないな)

「次は俺の番だな」

俺は全身に魔力を流し身体強化を行った後思いっきり腹パンをした。

するとガイルは5メートルほど吹き飛び壁に激突した。

壁が崩れ砂煙が舞う。

しかしダメージはそれほど大きくないはずだ。

何故なら奴はまだ何か隠し持っているはず。

案の定、すぐに起き上がり向かってくる。

(思った通りだ。まだまだやる気らしいな)

そこから先はまさに死闘といった感じで互いに一歩も譲らず、まるで本物の戦争のような迫力があった。

周りの人たちも息をするのを忘れてしまうほど見入っている。

(あと少しで倒せるんだけどな。このまま続けてるとまずいかもな。早く決めないとミレー達が心配する。こうなったら、あれを使うしかないな。できれば使いたくなかったが仕方がない。俺の持てる全てを今出す時だ!!!)

俺は一旦距離をとると剣をしまい両手を天に掲げ魔法を発動させた。すると頭上から光が降り注ぎあたり一面が光に包まれたと思ったその時───辺り一帯が消し飛んだ。その光景を見た人々は言葉を失い立ち尽くすしかなかった。

しばらくして光が収まり元に戻ったので確認してみることにする。

(これくらいの強さでいいかな?)

(おい、ミレー)

(ん、どうしましたか?)

(大丈夫なのか?)

(何が?)

(いやだって俺の姿が変わったまま元に戻らないんだよ?)

(はい、それがどうしたというのですか?)

(どうゆうこと?)

(えっ?)

(ん?)

(どうなってんの?)

(ユウト様、どうされたんですか?)

(どうって言われてもな)

(あの、すいません。話についていけないのですが)

(ごめん、ちょっと待ってくれ。とりあえず一度落ち着かせてくれ)

深呼吸をして心を静める。

(よし落ち着いた)

(一体どういうことだ?)

(私にもわからないんですよ。もしかしたらユウト様に強力な能力が備わってしまったのかもしれませんね)

(そんなことがあり得るのか?)

(はい、ごく稀にあるみたいですよ)

(マジで!?でもまあ、別に害はないんだよな?)

(それはもちろん)

(よかった〜それじゃあ改めて状況を整理しよう)

(はい、よろしくお願いします)

「ユウト様、お待たせいたしまし……え?」

「どうかなさいましたか?って、えぇええええええええええええ!!!!」

「ど、どうしたの?」

「ユ、ウ、ト、さ、ま……その姿は?」

「姿?」

「はい、髪が銀になっています」

「あ、これは」

「それは、おそらく聖属性魔法の効果だと思われます」

「メルシアさん、そうなの?」

「はい、間違いありません」

「へーこれがねぇ〜」

確かによく見ると銀色になっている。

ちなみに瞳の色も同じ色だ。

「綺麗です」

「うん、すごく似合ってるよ」

「ありがとう」

2人に褒められて悪い気はしなかった。

(それよりも今はガイルだな)

倒れているガイルに俺は回復魔法を掛ける。

ガイルは気が付き起きる。

「いててあんたやる……な?……あんた髪色が銀色」

「あっ戻った」

よし、ひと安心。

そしてガイルが起き上がったのを確認すると審判をしていたメルシアさんが駆け寄ってきた。

「ガイルさん!大丈夫でしたか!」

「おう、問題ねえよ」

(良かった無事だったようだ)

「ガイルさん!どうしてあんな無茶をしたのですか!もし死んでいたかもしれないのですよ!もう少し自分の体を大事にしてください!それにあなたが死んだら私は……」

「(実はメルシアはこのガイルが好きなんだと思ったんだよな。女の子が男性を意識し好きになるのはわかる)ごめんなガイル俺手加減できなくて」

「いやああんたすげー男だ」

そういうとメルシアが

「何言ってるのです?ユウト様は女性ですよ」

「は!?」

「俺ここ来た時も女の子だっていったのに」

最近は性別に関してはオープンにしている。

最初こそ戸惑っていたものの今では普通に接してくれるようになった。

なので今更隠すことではないと思っている。

(というかこっちに来てから女扱いされたことないぞ!なのになんでここに来ていきなりされるんだ。なんか嫌だな)

そう考えているうちにガイルの顔から汗が大量に流れていたことに気づく。

で俺を力強く抱きしめる

「ひゃ!?が、ガイルなに?」

耳元で

「俺お前のこと好きになった襲いたいくらいに」

「え!?急にそんなこと言われても俺困りますから……俺は女の子だけど女の子大好きな女の子ハーレム好きの女の子だけど」

といつも以上にあたふたすると

ガイルは俺の頭を撫で

「構わないよそれでもユウトちゃんを愛しますから」

と囁く

俺はこの男ガイルに少しだけ興味を持ち接することにした。

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