第10話

魔法をかけるのはいいが、俺は自分のステータスを確認した。

『筋力』:A

『敏捷性』、『持久力』、『回復速度(小)』の上昇率が上がっていることに気づく。

おそらく2人が強くなりたいと思って訓練したことで上がったものだろう。

そのことに喜びつつ、魔法を発動する。

「〈肉体上昇〉」

「うお!体が軽くなった」

「すごい」

身体能力向上系の補助魔法だ。

これで、普通の人よりも素早く動けるようになるはずだ。

ただ、効果時間は3分程しかないし、一度かけると30分ほど再使用ができないという欠点がある。

そのためあまり使い過ぎると、いざって時に使えなくなる恐れがあるから注意が必要だ。

また、かけすぎると逆に弱くなってしまうので加減するのが難しい。

(クロナにはなるべく長持ちするように調整しておく必要があるな)

俺はクロナを見てそう感じ取った。

「よしいくぞ」

「うん」

「はい」

そして俺達の特訓が始まった。

「オラァー!!!」

俺に向かって拳を振り上げる男。

その攻撃をかわし、足払いをする。

男は倒れ、地面に手をつく。

そこに、すかさず背中を踏みつける。

「ぐへ」

「終わりましたね」

俺がそう言うと、審判をしていた男が声を上げる。

「勝者、ユウト様!」

(勝ったな)

10連勝である。

正直、ここまで簡単に勝てるとは思っていなかったので驚いているところはある。というのも相手の男たちが弱かったわけではないのだ。

確かに彼らはCランクの冒険者であるがそれでも弱いわけがないのだ。ただ単に相手が悪すぎただけである。

クロナの戦い方は素早さを活かしたヒットアンドアウェイ。

そして、メルシアとの連携によって戦いを有利に進めていったのだ。ちなみに、メルシアはナイフを使い相手を翻弄していった。こちらも、危なげなく勝利を収めることができた。

最初は、俺が一人で相手をしていたが途中から二人がかりでも大丈夫になった。

それからは俺が一人ひとり相手にしていき、10人ほど倒したところで残りは逃げてしまった。

「やりすぎちゃったかな」

「いや、そんなことはないと思うけど」

「そうだよね」

正直、逃げるほどだとは思ってなかった。だが、相手側からすれば仕方のないことだとも言える。

Cランク冒険者のパーティーを圧倒するような人間なんて普通はいないからだ。それに今回は二人が協力したこともあってかなり楽だったのだ。

それでも逃げ出すということはそれだけ恐れているということなのだろう。

(まあ、無理もない話だよな)

自分で言うのもなんだが悪い噂も広まってるようだし、警戒されるのも当然と言えばそうなのかもしれない。

(このままギルドに戻るのはまずいな)

とりあえず、人気の少ない路地裏に移動する。

そこで、収納空間の中から服を取り出す。

「ほらこれ着て」

「なんでこんなのもってんの?」

「そりゃあ着替えるときもあるだろ?」

「そういう意味じゃないんだけど……」

クロナは呆れたようにこちらを見つめていた。

「それならどういう意味だったんだよ」

「なんでもない」

どうにも釈然としないが、気にせずに服を着替えさせる。

(なんだろうか、この感覚は……娘をもった父親の気持ちに似ている気がするが?)

そんなことを考えながら、彼女の姿を見ていた。

「さて、じゃあいくか」

「ええ」

「はい!」

俺達はクエスト達成の報告のために再びギルドへ向かう。

すると、入り口付近で何か揉め事が起きていた。

「おい、ガキどもここは俺たちの場所だ、失せろ!」

どうにもガラの悪い連中が若い女の子たちを囲むようにして怒鳴りつけていた。

「あの人たちって」

「ああ、あいつらはDランク冒険者だな」

「どうしてわかるの?」

「クエストボードの前で騒いでたら嫌でも目に入るよ」

実際、さっきまでは気づかなかったが騒ぎが起きたことでわかった。

冒険者の中にはマナーが悪く、よく問題を起こす者がいる。

ここにいるアイツもたしかその類のはず

俺と対決中になにやら仕掛けてくるつもりらしい。

俺の背後に回るとそいつは俺の胸を後ろから掴む。

「きゃー!?」

俺は男に胸を掴まれて声を上げてしまう。

すると男は俺が女だとしると

掴むから揉むに変え耳元で

「お前女かよしかも結構あるじゃん」

「このやろ!」

俺はそのままの格好で反動投げを行い相手を投げ飛ばす。

「ぎょえー!?」

見事に決まったため、そいつは頭を打って気絶してしまった。

「あら?」

「今のはいったい……」

突然の出来事に周りの人達は何が起こったのか理解できていなかった。

「お、おまえ」

Dランクの男達が声をあげる。

「俺の彼女に何やってんだ!!」

そっちかよ!

「ふざけんじゃねえ!俺の彼女を寝取りやがったな!」

違うわ!誰がてめーの彼女だごら!

俺は女の子大好きな女の子だんだぞ

男になんて興味ナッシング!!

「はっはっはー!!お前さん俺の敵な」

ばきごき

「すみませんでした!!」

「謝っても許さないよ」

「ひぃ~!」

「い、命だけは勘弁してくれ」

「じゃあお金をだして」

「え?お金ですか」

「そうおかね」

「金はないです。す、すいません、もうしないのでゆるしてください。お願いします」

土下座までしてきた。

(うぜぇ)

「そうか、それは残念だなぁ。せっかく君たちをボコってやろうと思って来たんだけどなぁ」

俺はわざとらしく落胆するフリをした。

実際はそこまで怒っているわけではないのだがこうすることで彼らの心を折ることができると考えたのだ。

(それにしても弱いな)

思った以上にこいつらが弱すぎて拍子抜けしているのだ。

(なんか期待外れ感があるな)

そんなことを思いながらも彼らを追い詰めていく。

しかし、その瞬間背後から誰かに襲われそうになる。

(おっと、そうくると思った)

すぐに反応をして相手の攻撃をかわし、その腕を掴むと関節技を決める。

「ぎゃあ!」

悲鳴を上げる相手に対して

「だから言ったでしょうが、あなた達程度では俺には勝てないと」

「く、糞がァァァァァァァァァ!!!」

そして思い切り投げ飛ばす。

「ぎょへー!?」

またも壁に激突する彼ら。

その後、ギルドの職員に引き渡したが結局今回の騒動の責任は全て俺に来ることになった。

そして、受付のお姉さんの一言

「ユウト様はCランクに昇格することになりました。」

「Cランク昇格?」

「はい」

「マジですか?」

「まじです」

「Cランクに上がる条件を満たしていたんですか」

「はい、先ほどのDランクの冒険者達との決闘によりその実力が認められ、晴れて合格ということになります」

つまり俺を襲ってきた連中を倒したことにより昇格試験をパスしたというわけか。

「はあ、まあいいか」

正直、ランクアップに興味はなかった。

ただ、Cランクになるとさらに報酬の高い依頼を受けられるようになる。そのため、冒険者としてのランクを上げておいて損はないだろう。

「これからも頑張っていきましょうね」

「ええ頑張りますよ」

クロナは嬉しそうな顔をしていたしメルシアも同じだ。

「帰ったら」

俺が言うと

3人は

「「「帰ったら?」」」

「お風呂で洗いっこだぞ」

「「「やったー」」」

「「・・・」」

((そんなことできるのだろうか))

ギルドで手続きを終えたあと俺達は宿屋に戻って来ていた。

「今日はゆっくり休んで明日出発しよう」

「うん」

「わかりました」

こうして、次の目的地へと向かうのであった。

「ついたぞ、ここがラスター王国の首都だ」

「わあー!」

クロナがはしゃいでいる。

そういや昨日もお風呂で

一際はしゃいでいたような

「ユウトくんの背中流すの」

「やってくれるの?ありがとうクロナちゃん」

「えへへ。私ユウトくんみてるとユウトくん私のお姉ちゃん見たいって思う」

「そうなんだ。お姉ちゃんだと思って接していいよ」

「ほんとうに!?」

「ああ、もちろんだよ」

「じゃあお言葉に甘えて」

「ああ、おい、そこはだめだって、あん、ああ」

「気持ちよかった?」

「胸は揉んだらだめでしょクロナちゃん」

「えへへ怒られちゃった」

(可愛いなぁもう)

あれは本当に最高だった。

ちなみにあの後は普通に寝た。

変なことはしていない。

されてもいないと思う。

多分……きっと。

おそらく。

恐らく……。

それからしばらくして、街の中心へとやってきた。

ここには大きな教会がありこの街の象徴でもある。

なんでも初代聖女が女神様に祈った場所なんだとか。

「すごい人だな」

教会は人でいっぱいだ。中には入れなさそうだ。

「とりあえず宿をとらないとな」

「あっちに泊まるところあるよ」

「よく知ってるな」

実はこういうことは何度かあったため慣れているのだろう。

「ふふん」

ドヤ顔がかわいい。

「それでは行きましょうか」

俺達が行こうとすると一人の女の子が声をかけてきた。

「待ってください!」

振り返るとそこには一人の少女がいた。

身長は低く幼さが残りどこか庇護欲を感じさせる可愛らしい子だ。

「ん?君はだれかな」

「私は教会のシスターをしております。リリアと言います。少しよろしいでしょうか」

「俺はかまわないけど」

俺の答えを聞くと彼女は笑顔になりこちらを見つめてくる。

「それで用事とはなんだい」

「はい、あなた達が勇者様なのではないかと噂になっているのですが本当ですか」

「いや、俺は普通の人間だけど」

「そうですか……」

俺は嘘をついてしまった。

神人なので人間ではないのだ。

俺は嘘をついてしまった。

神人なので人間ではないのだ。

しかし、それをこの子に言っても信じてもらえない気がしたしそもそも俺自身も自分がどういった存在なのかまだ理解しきれていない。

ただ、なんとなくだが今の自分は前の自分とは違う存在であるということはわかる。

「ところで、君の名前は?」

「あっ!申し訳ありません。わたしはミレーといいます」

「俺は佐藤優斗だよろしくな」

「はい。ユウト様ですね」

「ミレーちゃんはここでシスターしてるわけです?」

「そうです。ユウト様は凛々しい男性との噂ですが」

「へ?俺一応女だけど」

「女の子!?見えません」

「ショック!!」

ユウトはショックを受けているがこれは仕方ないことだ。

確かに背は高い方だし男物の服を着ているためパッと見は男の子に見える。

しかし、それでも心は乙女なのだ!! そこだけはわかってほしい。

「君には俺がどんな風にみえてるのか知りたいよ」

俺がそういうとメルシアが突然吹き出した。

(くそ、こいつは絶対俺のこと馬鹿にしてるな)

ミレーはユウトが嘘をついていないことを理解した。

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