第9話

「それと、もう一つ理由がありまして」

「ん?」

「私達は元々スラムに住んでいたのです」

「え?」

「それで、生活も厳しくて……」

「そうか」

俺は二人に同情した。

俺も似たようなものだからよくわかる。

だからこそ、手を差し伸べたくなる。

「俺が君たちを助ける代わりに君たちに頼みたいことがあるんだ」

「え?は、はい」

「なんだ?」

「俺を鍛えてくれないか?」

「え!?」

「は?」

「君たちの力が必要だ!頼む」

俺は頭を下げると二人の慌てふためく声が聞こえてくる。

すると、クロナはため息を吐く。

すると彼女は仕方がないといった感じで了承してくれた。

こうして俺は二人の師匠を手に入れた。

その後、俺達は食事を終えるとそれぞれ自分の部屋に戻っていった。

そして、次の日の朝になると朝食を済ませるとギルドに向かった。

すると、メルシア達が待っていた。

「おはようございます」

「おう」

「よろしく!」

「ああ、早速行くぞ」

「え?」

俺の言葉に対して困惑するメルシアを他所に俺たちは森に向かって行った。

道中は特に会話もなく進んでいくと目的の場所についた。

「よし着いたな」

「ここですか?」

「ここに何しに来たの?」

「お前らの訓練だよ」

「「え?」」

すると、目の前にはゴブリンが現れた。

それを視認すると同時に俺が前に出る。

俺に気付いた一匹が飛びかかってくる。

それを軽々と避けてから回し蹴りを入れると一撃で倒れて動かなくなる。

「さあ、始めようか」

俺がそういうと二人が驚いた顔をしていた。

「ちょ、ちょっと待ってください!」

「え?」

「な、なんですかあの数!」「だってこれくらいできないと困るから」

俺はそう言うと次々と現れていく魔物を倒していく。

その度に驚いているのか口をポカーンとしている二人がいた。

それから少し時間が経ち終わる頃には俺の周りには死体の山ができていた。

(まあ、こんなもんか)

「あのこれ一体何なのですか!?」

「え?訓練と実践」

俺はしれっという。

「そ、それはわかりますが、でも数が多すぎません?」

「う、うん」

「いや、これでも多いほうだろ?」

「「え?」」

それから二人は顔を見合わせて首を傾げてこっちを見た。

(あれ、なんか間違えたか?)

「い、いやまあいいか。じゃあさっきのを踏まえてやってみるか」

俺は気を取り直して二人に指導していく。まずはクロナからだ。

彼女の戦い方は罠を張っておいて敵をおびき寄せてから罠にかけて倒すという方法だ。なので俺は罠を張るところまで行ってから後は放任してみた。

案の定、彼女は引っかかった。

その隙に背後に回り込むと剣を抜いて斬りかかる。

「ッ!!」

しかし、咄嵯に反応した彼女は弓を構えると思い切り弦を引いて矢を放つ。それを避けて後ろに下がる。

だが、そこにはメルシアがいたためにぶつかりそうになるので仕方なく横にずれるとそこから二発目の矢を放ってきたのを見て慌てて避ける。

その光景に感心している場合じゃないなと思った俺はその場から離れるように移動する。

その間に罠を設置し終わった彼女はこちらに向き合うようにして立っていた。

「あ、危ないな」

「ふぅ。まさかバレてしまうとは思いませんでした」

「まあ、経験の差だろうな」

「むー!今度は負けないのです」

どうにも彼女としては気に食わないらしい。

それからも何度か戦うことになったが、どれもいい勝負をしていた。

そして、一時間後ついにクロナの動きが悪くなり始めていた。

肩で息をしている。それに汗だくだ。

一方俺はまだまだ余裕だ。

「はぁ……はあっ……」

「クロナ、一度休憩しよう」

「はい……」

クロナの方に向かう前に彼女の様子を伺いながらゆっくりと近づく。

(よし今なら)

そして後ろから襲いかかろうとした瞬間、気配を感じた彼女が振り向くと弓を構えた。

(クソ!読まれていたか)

そして、そのまま彼女は弓を引き絞るがそこで動きが止まった。

「おやすみなさい」

「うん、お疲れさま」

俺が声を掛けると糸が切れた人形のように倒れてきた。

俺は彼女を優しく抱き抱えるとゆっくり下ろすとその場に寝かせる。

その後、すぐにクロナに近づく。

こちらもかなり疲労しているがそれでも動けるようだった。

ただ、心地よい寝息を立てている。

(この子もよく頑張っているよ)

ただ、体力がないためにこうやって途中でダウンしてしまうのだ。

なので俺は定期的に回復魔法をかけてあげて休ませてあげたのだ。

ちなみに、可愛い女の子だ。

俺の好みの女の子。

「(俺も女の子だけど可愛くて素直だなって思う)」

髪を撫で笑顔で接する。

すると彼女は気持ち良さそうにしている。

(癒されるな~!このままずっと触っていたいけどそろそろ起きないとね)そう思って手を引っ込めると目を覚ました。

(やっぱり早いな)

やはり戦闘系の才能があるみたいである意味羨ましいとも思ったりする。

ただ本人の性格上あまり表には出さずにいるつもりなのかはわからないがこうして訓練をして発散させているようだからよかったと思う。その後しばらく経ってからクロナも目が冷めると二人を連れて帰ることにした。

帰り道で二人を見るとどこか楽しそうな表情を浮かべていたので嬉しかった。

「ほら着いたぞ」

「はい」

「ありがとうございます」

「じゃあ、また明日来るから」

「え?い、いやそれはちょっと困るというか」

「そうだぜ。今日みたいなのはもう勘弁してくれ」

「でも、君たち強くならないと困るんじゃなかったけ?」

「うぐ!」

「うっ!」

「というわけだから覚悟しろ」

「「は、はい……」」

「それとメルシアは明日から一緒に行動してもらうからよろしくな」

「え!?」

「嫌か?」

「い、いえ」

「よろしくお願いします」

「よろしく」

こうして、次の日からも訓練漬けの日々を送ることになる。

朝になると、いつも通り三人の待つギルドへ向かう。

扉を開けると、そこにはすでに二人がいた。

「おはよう」

「「あ、はい」」

二人は昨日のことでまだ緊張しているようだったが構わず話を進めることにした。

「さて、早速始めるか」

「あ、あの!」

「ん?」

「私達は何をすれば?」

「ああ、一緒にお風呂に入ろう」

「え!?ユウトくんとですか!?」

「嫌?」

「いえ男性と入るのは」

「俺女の子だけど……」

「はい!?だってどう見ても」

2人の手を掴んで俺の胸元に当てさせる。

「「え!?」」

「分かった?」

「「微妙です」」

「はあ……これは風呂で一緒に背中流して見てもらうか」

変態行動だと自分でも思うけどこれは俺の本当の性別を理解してもらうのには必要のことなのだ。

いまは風呂場である。

俺は服を脱ぎ始める。

彼女達は俺の服を脱ぐまでは待つらしい。

「「あ」」

服を脱ぎ上半身裸でやっと女の子と理解した。

その後一緒にお風呂で背中を流してガールズラブトークを行う。

「へえ、そんなことがあったんですね」

「うん、あいつムカつくんだよね」

「わかるわー」

俺は愚痴を言いまくった。

クロナは共感してくれるので嬉しい。

一方、メルシアの方はというと顔を真っ赤にしてこちらを見ていた。

「どうしましたか?メルシアさん」

「ひゃう!な、何でもありません」

「そうですか」

「(言えません!ユウトくんがかなりの美人さんで巨乳だから羨ましいなんて)」

メルシアはチラッチラッと見ながら、自分の胸に視線を落とす。

その仕草を見てピンと来た。

「メルシアさん」

「はい何でしょう」

「触ります?」

「え、いいんですか」

俺はコクリとうなづく。

「じゃあ失礼しまーす」

「「ちょ!あんたズルいわよ」」

「いいじゃない!」

アリスちゃんまで風呂場に来たぞ。

彼女も、結構巨乳で眼福である。

「ユウトちゃんまた大きくなってない?お胸」

「え!?また!?」

「よくそこにいるアリスちゃんに揉まれるから大きなったんです」

しれっという。

事実である。

嘘偽りはない。

ギルドに行く時は男の子モードなのである。

ちなみに、俺は女性ホルモンが多く分泌されているおかげで少し大きめのサイズだ。

そのことに気がついたのかクロナがジトーっとこっちを見てくる。

「なんだ?」

「べ、別に何も言ってませんけどぉ〜」

(何かある気がする)

俺は気にしないことにし話を戻す。

「それよりも」

「「「はい」」」

「そろそろいいか」

「うん!もう大丈夫だよ」

「わかりました」

「うんうん」

俺はお湯に浸かると彼女たちに言う。

「それで、クロナの方だが弓が使えないなら違う武器を使った方がいいかもな」

「え?」

「うんうん、確かにそうだね。クロナが使うのはナイフとかだもんね」

「はい」

俺の提案に二人は驚く。

それもそうだろう。

まさか女の子なのに剣を使うと言うのだから。

ただ、俺は女の子でも使えるように魔法付与を施した武器を作ってあげようと思ったのだ。

「クロナが戦いやすい武器で俺と打ち合えるくらいの強さを身につければいいさ」

「そ、それってかなり大変ですよね」「まあ、な」

正直、女の子が俺と対等に渡り合うことはかなり難しいと思う。

ただ、クロナには弓以外の戦闘スタイルも身につけてほしいのだ。

それにはある程度強くなってもらう必要がある。

そのためには厳しくしないとダメなのだ。

「とりあえず、まずは体力作りからだな。今日も朝からランニングをするぞ」

「は、はい」

「わかったよ」

こうして、クロナには新しい戦闘スタイルを身に着けるための基礎づくりを始めることになった。

朝の日課であるトレーニングを終えて、今日はギルドに向かう。

扉を開けると、すでに二人が待っていた。

そして、すぐに声がかかる。

「遅い!」

「ごめんなさい!」

どうやら、今日は待ち合わせをしていたらしい。

「全く、いつもギリギリで来やがる!」

「本当にすみませんでした!」

頭を下げて謝る。

遅刻はまずいので急いできたのだがそれでも間に合わないようだ。

すると後ろでクスリと笑い声が上がる。

振り返るとそこには、メルシアの姿があった。

「フッ、相変わらずですねマスター」

「あ?」

(あれ?なんか怒ってる?)

メルシアは明らかに怒っていた。

しかし、何故なのかわからない。

もしかすると約束の時間に間に合わなかったことで、怒りを買ってしまったのだろうか。

「え、ええと」

「なんでしょうか?」

「あ、いえ、なんでもありません」

これ以上余計なことは言わずに黙っていることにする。

「おい、そこのガキ!」

「私ですか?」

「お前以外に誰がいんねん!」

「はいはい。そうでしたね」

「くぅ!このクソ女がぁ」

「あら、怖いですねぇ」

「うるせぇ!」

どうにも、険悪な雰囲気になってしまったのであった。

俺達はクエストボードの前で張り出されている依頼書を確認していた。

「どれにするの?」

「これにしようかと思います」

メルシアの指さす先にあるのはDランクの魔獣討伐の依頼だった。

場所はここから近く、徒歩で向かえるところだったので俺達は受注することにした。受付を終え、街を出る前に装備を整えていく。

「はいこれ」

「これは、弓ですか」

「ああ、魔力を通して矢の代わりにして射つことができるんだ」

実は昨日の帰り道でこっそり作っておいたのだ。もちろん、彼女にだけ渡したわけではなくアリスちゃんや他の冒険者にも配っていった。

理由は、単純に彼女達が強くなるためだ。

今のままではいくら才能があってもいずれ死んでしまうかもしれない。

俺は彼女達に強くなってほしいと思っているのでできる限りのサポートをしたいと考えていた。

その思いは彼女達に届いたようで、

「ありがとうございます」

「大事に使うわ」

と喜んでくれたので良かった。

「じゃあいこうか」

「はい」

「ええ」

外に出て、目的の場所へと向かう。

歩きながら、ふと疑問に思ったことを口に出す。

「そういえばクロナは武器持ってないのか?」

「はい、私は遠距離タイプなので短刀か弓を扱おうと思っていたのですが……」

「そっか。じゃあこれを使っとけ」

俺は収納空間を開いて、一本の弓を取り出した。

「え?いいんですか」

「うん、まだ試作段階だけど使ってみてくれ」

「はい!大切にします!」

「じゃあそろそろいくわよ」

雑談をしているうちに目的地へとたどり着いたので準備運動を行うことにした。

「じゃあ、二人とも」

「何よ」

「はい」

「身体強化魔法をかけてあげるよ」

「え!?いいんですか!」

「本当!嬉しい」

2人は嬉しそうにしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る