第3話
「昨日はすまなかったな。急にあんな態度を取ってしまって」
と言われ、何のことだろうと思ったが、おそらく一緒に寝ていたことについて言っているんだろうなと思い、気にしなくていいと答えた。
「そう言ってくれて助かるよ」
「それよりどうして俺はここにいるんだ?」
「ああ、それはだな、君があまりにもぐったりとしていたものだから、心配になって連れてきてしまったんだ」
なるほど、そういうことだったのか。
ウルバの街はかなり繁栄して街である。
そこから南下した場所に位置する
『関所の街レメリア』。
明日から目指す場所はそこである。「もうそろそろいいかしら?」
「うん?どうかしましたか?あ!まさかまだ足りませんか?すみませんでした」
「違うわよ。名前を教えて欲しいと思ってね」
「僕の?僕はユウトだよ」
「よろしくね。それと私のことはユフィと呼んでくれればいいわ」
「わかった」
「あのぉ〜、僕もいるんだけど?」
とここでエルクの声が割り込んできた。
「あら、いたの?」
「ひどい!そんな言い方は無いんじゃないかい?」
「まあまあ、落ち着いてください」
「君のせいだよね?」
「……」
「黙らないでよ!?」
「うるさいわね!いちいち大声で叫ばなくても聞こえるって」
「君はもう少し言葉遣いというものを改めるべきだと思うよ」
「余計なお世話よ」
「はぁ〜、全く。こんな調子だと先が思いやられるよ。あ!そうだ!この際だからはっきりしておくけどね。僕と彼とどっちを選ぶかちゃんと決めておくんだよ」
はい?
こいつは何をほざいているんだろうか?
俺のことを好きだと告白してきた女の子に対して他の男と付き合えとか頭おかしいんじゃないだろうか。
まあいいや。
とりあえず無視しよう。
それよりもこれからどうするかを考えよう。
この二人の会話を聞く限り、今日中に出発しても着くのは次の日の朝になるらしい。
なので今夜は野宿ということになるわけだが、問題はどこで夜を過ごすかということだ。
街の中であれば宿を取ることはできるが当然金がかかる。
しかし、外となると安全の確保が難しい。
そのためできれば避けたいところなのだが……。
考えている間にユウトとエルク二人は口喧嘩を始めて収集がつかなくなってきたので、仕方なく俺の方から提案することにした。
その結果、明日出発するまで三人で過ごすことになったのだが、その際二人の間で何かあったのか知らないが仲が良くなっていた。……一体どんな魔法を使ったのか非常に気になるが、聞くだけ無駄だろうと諦めることにした。
(本当にユウトとエルクに何が?)
次の日の昼過ぎ頃になってようやく目的の街に到着した。
この街もかなり賑やかなようだ。
まず宿を確保してから昼食を食べることにした。
店に入ると店員が駆け寄ってきた。「いらっしゃいませっ、お泊りでしょうか?」
「いえ、食事に来たんですが空いてますかね?」
「はいっ、少々お待ち下さい」
と言って奥に入っていったがすぐに戻ってきた。
「申し訳ありません。満室となってしまいまして、相席でよろしいですか?」
「構いませんよ」
「じゃあ、それでお願いします」
案内された場所には既に先客がおり、俺達が座ったことでようやくこちらに気付いたらしく
笑顔を向けてきた。
「初めまして。私はアリサと言います。あなた達は旅人さんかしら?」
「はい。そうです」
「それなら良かった。私達もお祭りに参加するためにここへ来たのだけれど、一人は体調が悪くなってしまってね。もう一人は今別行動しているんだけれども、私一人で行くには少し不安だったから良かったよ」
確かに見た感じでは元気そうに見えたが
念のために聞いてみたところ案の定病気を患っているようであまり長く歩くことができないとのことだったので、早めに休んでもらうことにした。
夕食を食べ終えた後、今後の予定について話し合うため部屋へと集まった。
「早速だけど、明日からは二人で回ることになりました」
「どうして?」
と聞かれたので、事情を説明することになってしまったが、納得してくれた。
「分かったわ。その代わりというわけではないんだけど、もし良かったらなんだけど……」
何だろうと思っていると
「一緒に行かない?」
と言われたので即答した。
「いいですよ」
こうして新たな同行者ができた。
翌朝、目を覚ますと既に起きていたのか隣に気配を感じた。
「おはよう」
と言うと
「おはようございます」
と返ってきて
続けて質問を投げかけられた。
「今日の夕方くらいからお祭りがあるみたいなのですが、それまでは何をして過ごすのですか?」
「特に何も考えてないな。適当に観光でもしながら時間潰すか」
「そうですね」
そうして朝の支度を終えたところで、街に出ると、そこはとても活気づいていた。
「凄いな。これ全部祭りの準備なのか?」
「多分そうじゃないかしら」
と話をしているところに一人の女性が近付いてきた。
「こんにちは。君たちも参加者かな?」
「はい。そうです」
と答えると
「ならちょうどいいね。君たち名前はなんて言うんだい?」
「僕はユウトって言います」
「俺はカグヤだ」
「そうかいそうかい。あたしの名前はアメリアだよ。君たちとはどこかであったような気がするんだよね〜」
そう言ってジロジロと見てくる。
「すみません。人違いじゃないですか?僕たちは初めて会ったと思いますよ」
「うーん?そうなの?まあ、そういうことにしておくよ。それよりあんた、ちょっと顔色が悪いけど大丈夫?具合悪いんだったら無理しない方がいいよ」
「ありがとう。忠告に従って大人しくしておくことにするよ」
「それが賢い選択だと思うね。まあいいや。とにかく今日は楽しみなさいよ」
「はい。分かりました」
「んじゃね」
そうして立ち去っていった。
「なかなか良い人だったわ」
「そうだな」
それからしばらく街中を見て回っていると、
「そろそろいいか?」
と声をかけられたため振り返ってみると
そこには
あの男が立っていた。
「久しぶりだね」
「お前はあの時の!」
「そんなに警戒してくれなくて結構さ。ただ一つ聞きたいことがあるだけなんだ」
「何を聞きたいというのか?」
「君は何故あんなものを持っているのだい?」
「は?」
「だから君の腰にあるその剣のことを聞いてるんだよ」
「こいつのことを言っているのか?」
「それ以外に誰がいるっていうんだよ。早く答えてくれないか?場合によっては君を殺す必要があるかもしれないからね」
いきなり物騒なことを言い出した。
「これは俺が自分で手に入れたものだ。それに俺が何を使おうと勝手だろう」
「それは違う。君はそれをどうやって入手したか覚えているはずだ。忘れてしまったとは言わせないよ」
「なんの話をしている?俺がそんな得体の知れないものをどこで手にいれたかなど知らないぞ」
「惚けるつもりか?ならば仕方がない。力ずくで聞かせてもらうとするよ」
そういって男は短刀を取り出して構え始めた。それに対してユウトは咄嵯に反応して相手の出方を伺っていた。
(こいつは一体何を考えているんだ?)
と考えていると 突然目の前にいたはずの相手が消えたかと思うと背後から殺気を感じて即座に振り向くとそこに奴がいた。
そして次の瞬間には首元にナイフが迫ってきていたがギリギリの所で避けることに成功した。
(危なかった。あと少し反応が遅れていれば死んでいた)
そこから反撃に転じようとしたのだが、相手の方が一枚上手で攻撃を防がれてしまい逆にダメージを受けることになった。
なんとか態勢を整えて再び攻撃を試みるものの、やはり先程と同じように受け流されカウンターを受けてしまう。
このままではまずいと思ったのか一旦距離を取ることにしたようだ。
しかし、それも読まれていたようで一気に距離を詰められ腹パンを食らうことになった。
「ぐっ!ゲホッゴホ……グッ」
「どうした?もう終わりなのかい?」
「まだ終わらねえよ。こんなもんで終わるわけがないだろうが!!」
「威勢だけは認めよう。だが無意味であることに変わりはない。なぜならこの俺様が貴様に敗北することは決してありえないからだ!!!!」
「うるせえ!!黙れクソ野郎がぁああああっ」
「はっきり言わせてもらえば今の実力じゃあ俺に勝つことはできないだろうよ。いや、それどころか俺の部下にすら負けることは必至。それでも戦うというのか?」
「ああ、当たり前だ。たとえどんなに絶望的な状況だろうと諦めたりはしねぇよ。絶対に勝ってみせる」
「ふむ。そうかい。それじゃあ遠慮なく行かせてもらおうかな。ただし、俺の攻撃を防ぐことはできても、回避することは不可能なのは目に見えてるから、覚悟しろよ?」
「望むところだ。来いよ」
そうして、戦いが再開された。
「ハッハァッ!!!」
と雄叫びを上げながら攻撃を仕掛けてきた。
それに対し、こちらも同じように迎え撃った。
お互いに一歩も譲らず激しい攻防が繰り広げられたが、徐々にユウトが押されている状態になっていた。
「フゥー、中々しぶといな。だがいつまで耐えられるかな?」
「知るかよ。こっちだって好きでやってる訳じゃないんだぜ?」
「嘘をつくなよ。本当は楽しんでいるんだろう?」
「…………」
「図星みたいだな。やっぱり人間は醜い生き物だよな。自分のことしか考えていない、自己中心的な存在なのだから」
「何が言いたい?」
「簡単な話さ。人間には自分より強いものに媚びへつらい、弱い者には暴力を振るう、これが人間の本質だと言っているんだよ」
「そうかもしれんな。でも俺はそうは思わない。少なくともあいつらは違った。だから、お前なんかに好き勝手に言われたくない」
「クカカッ。そうかそうか。君は自分が弱者の立場だと自覚しているということなのか。だから強者に付き従おうとするのだな」
「別にそうじゃない。俺はお前のような人間が大嫌いなだけだ」
「そうかいそうかい。まあいい。どのみち君を殺してしまえば何も問題ないことだ」
「やってみろ。お前如きに殺されるほど弱くはないのでな」
「ほざけ」
と言って斬りかかってきた。それを紙一重で避けたユウトだったが、その隙に蹴り飛ばされてしまったのだった。
(くそっ。こいつの強さは異常すぎる。いくらなんでも強くなりすぎじゃないか?何かあるに違いない)
「ほう。まさかあれを避けるとは思ってはいなかったよ。なかなかやるね。でも、これで終わりにしてあげるよ」
と言い放ち止めを刺そうとしてきた。
(ここまでか……。すまないみんな。約束守れなかったよ。ごめんなカグヤ、美鈴ちゃん、レイナさん、それから……)
「ユウトォオオオオッ!!!」
「な、なんだ!?」
ユウトは驚きながらも意識を手離してしまった。
〜〜sideendユウト(気絶後)〜〜
ユウトは謎の声によって目を覚ましたのだった。
「ここはどこなんだ?確かあの男と戦っていたはずなのに……」
辺りを見渡すと見慣れない風景が広がっていた。するとまた声をかけられた。
『ようやく目覚めたか』
そこには見覚えのある姿があった。
それはかつて倒したはずの敵の姿であった。
しかし今目の前にいるその姿からは禍々しいオーラは一切感じられずむしろ清廉された雰囲気をまとっているように感じられるほどだった。
「なんなんだあんたら?俺を殺しに来たのか?」
と問いかけると、
「いや、違う。我たちはただ汝を守りたいだけなのだ」
「どういうことだ?」
「詳しい話は別の場所でしよう。ついてこい」
「分かった。行くよ」
と素直についていくことにしたようだ。
そしてしばらく歩いて辿り着いた場所は森の奥深くにある開けた場所に到着した。
そこで彼らは突然地面に手をかざし呪文のようなものを唱え始めた。
そうすることで地面が光り輝きだし、魔法陣みたいなものが浮かび上がった。
そうして、光が収まるとそこには巨大な門が現れていた。
「この先に我々の主がおられる。くれぐれも失礼の無いようにするがよいぞ」
「分かりました」
と緊張気味で答えていると、
「そんなに硬くならなくてもいいですよ。あなたに危害を加えるような人ではありませんから安心してください」
と話しかけられた。その人物はユウトは見たことがない人だったのだが、何故か懐かしい感覚に陥ったのである。
ユウトは戸惑いつつも、
「ありがとうございます。ところで貴方のお名前は?」
と聞くと
「私はセフィーリアといいます。よろしくお願いします。それと私達のことは気にしないでください。私たちも似たようなものなので」
と言われてよく見ると確かにどこか似ていた。
そうしてユウトは彼らの主に会うため扉を開いた。
中に入るとそこは玉座の間になっていて、そこに一人の人物が立っていた。
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