第2話
「まあ、そのうち来るじゃろうから気にせんでも大丈夫じゃぞ」
「はい、わかりました。ところで……」
「なにかな?」
「昨日おっしゃられていた修行というのは具体的にどのようなものになるんですか?」
「おお、ようやくその気になってくれたか!実はわしがこれから行う試練を乗り越えることができれば、君は【固有技能】を修得することができるようになるはずじゃ」
「本当ですか!?」
「うむ、本当だとも。それでは早速始めるとするかの」
「はい!」
そう言うと師匠はおもむろに立ち上がり、こちらに向かって手招きしてきた。
それに従い近づいていくと、突然腕を引っ張られた。
そのままバランスを失い、思わず尻餅をつくような格好になってしまった。するとその隙を狙っていたかのように今度は足払いをかけられてしまい、勢い良く転んでしまう。
「くっ!」
すぐさま立ち上がろうとするものの既に遅く、気づいた時には背後に回り込まれていた。そのままうつ伏せの状態で地面に押さえつけられてしまうと、「ほれどうした?まだまだ終わりではないぞ?」と声をかけてくると同時に首筋に手刀を叩き込んできたため、俺はそのまま意識を失ってしまった。…………
次に目を覚ますと、そこは見慣れぬ天井があった。
どうやらどこかの部屋の中にいるようだ。
(そうか、俺負けたのか)
それから暫くの間ぼーっとしていたのだが、このままじっとしている訳にもいかないと思い、ベッドから出て立ち上がる。
するとその時、部屋の外から複数の人間の話し合うような声のようなものを聞き取った。
とりあえず外に出てみることにした。
廊下に出てみるとそこには大勢の人が忙しなく行き交っており、まるでお祭り騒ぎのような光景が広がっていた。
「おい、誰かと思えば勇者殿じゃないか!!随分と遅かったじゃねえか!!」
突然後ろから大声で話しかけられ振り返ると、そこには数人の騎士を従えたザックの姿が目に入った。
「久しぶりだね。元気にしてたかい?」
「ああ、おかげさまでな。お前の方こそ調子は良さそうだな。」
「うん、まあ一応そういうことにしておくよ」
「ん、どういう意味だ?」
「いや、こっちの話だよ。それよりも、少し話をしないか?」
「そうだな。ちょうど暇していたところだし構わないぜ」
「よし、決まりだな。それなら場所を変えようか」
そう言いながら歩き出した彼の背中を追うようにしてついていく。
やがて辿り着いた先は城内にある庭園であった。
「ここは僕のお気に入りの場所なんだ。綺麗だろう?」
「ああ。確かに凄いな」
目の前に広がる色とりどりの花々を見て素直な感想を述べる。
「それで話っていうのは何なんだ?」
「ああ、そうだった。実は少し聞きたいことがあるんだ。」
「なんだ?」
「単刀直入に聞くけど、君の方はどこまで進んでいる?」
「何が?」
「何って決まっているじゃないか。勇者としての力を使いこなすための修行のことだよ。」
「悪いが全然駄目だな。今のところは基礎体力作りばかりやっているぞ」「そうなのか……それは少し意外かも……」
「どうしてそう思うんだよ?」
「だって君は既に力を持っているから、すぐにでも強くなるものだと思っていたんだけど……」
そう言って首を傾げる彼に俺はこう告げた。
「別に最初から強い人間なんていないと思うぞ」と。
すると彼は一瞬驚いた表情を浮かべた後、納得したように何度か小さく相槌を打った。
「なるほど、言われてみるとそれも一理あるかもしれない。僕自身、勇者に選ばれてからまだ間もないからあまり実感がないけど、そういえば周りの人達はみんなそんな感じだった気がするな……」
「そういえばお前はどんな風に訓練しているんだよ?」
「僕は主に剣術を中心に行っているよ。」
「へぇ、そうなのか。他には何かやってないのか?」
「他というと……そうだなぁ……あ、確か魔法に関する授業も一緒に受けているよ」
「そっか、やっぱり剣だけじゃなくて魔法の方もあるよな」
「まあ、この国で一番優秀な講師がついているみたいだからね。当然といえば当然なんじゃないかな?」
「そう言えばその先生の名前とか分かるのか?」
「もちろん知っているよ。確か名前は……」
「ちょっと待った。その名前を言っちゃっても大丈夫なのか?」
「ん、どうかしたの?」
「いや、よく考えたら俺達そんなに親しくもないのにいきなり名前を尋ねるのはまずいかと思ってさ。もし迷惑になったりしたら申し訳ないし。それに俺としてはあんまり変なことをして目立つのも嫌だからな。」
「ああ、そういうことか。それについては心配はいらないよ。そもそもあの人は滅多に表舞台には出てこない人らしいし、名前を知ったところで悪用できるような情報でもないからね」
「そ、そうなんですか」
「うん。ちなみにだけど君の名前は教えなくてもいいのかな?」
「あ、そうか。すっかり忘れていた。」
「まあ、今更隠す必要も無いから普通に名乗ることにするわ」
「わかった。じゃあ改めてよろしく頼む」
「おう」
「それともう一つ質問があるんですが……」
「なにかな?」
「貴方は一体何をしようとしているんですか?」
「え、急にどうしたんだ?」
「いえ、ただ単純に気になっただけで特に深い意味はないんですが、もしも差し支えなければ答えてもらえませんかね」
「うーむ、そうじゃのう。簡単に説明するならば、わしは勇者であるお主を強くしてやりたいと思っているんじゃ」
「そうですか。ちなみにですが、それはあくまで個人的な考えですか?それとも王の命令によるものですか?」
「わし個人の考えじゃよ」
「わかりました。では、最後に一つ聞かせてください」
「なにかな?」
「なぜそこまでしてくれるのです?」
「理由が必要か?」
「はい」
「ふむ、お主ならもしかしたら分かってくれるかもしれんな。よかろう。特別に話してやるとするか」
そう言うと師匠は少し間を開けて、ゆっくりと口を開いた。
「実はのう、昔とある約束をしたことがあるのじゃ。その人とな」
「その人の名は?」
「うーん、流石にそれは秘密ということにしておいてもらえるかの?」
「分かりました。無理を言ってすみませんでした」
「よい。ではまた会える日が来ることを楽しみにしているぞ」
「ありがとうございます」
そう言い残し、その場を離れる。
「おい、どこに行っていたんだ?もうすぐ出発するって言っているだろう?」
「悪い、少し知り合いと話し込んでいたんだ」
「まったく、しっかりしてくれよな。」
「ああ、本当にすまなかった」
「それで出発はいつになりそうなんだ?」
「あと1時間ぐらいで出れるようだぞ」
「そうか。なら早速向かわないとな」
それから城を出て馬車に乗り込むと、目的地に向けて出発した。………………
しばらく揺られているうちに眠くなってきたため、目を瞑って仮眠を取ることにしたのだが、突然馬の動きが止まったことで目が覚めてしまった。
(なんだ?)
と思い外の様子を伺っみるとそこには魔物の姿があった。
しかもかなり大きな熊のような見た目をしているうえに、手には棍棒のようなものを持っており、明らかに凶暴そうだ。
さらにこちらの存在にも気づいたようで、そのまま襲いかかってきた。
「危ない!!」
咄嵯の出来事だったため反応が遅れてしまい、避けきれないと思った瞬間、ザックが割って入ってきた。
そして手に持っていた剣で攻撃を受け止めると、もう片方の手で魔法を放った。
「<ファイアボール>!」
次の瞬間、火球が勢い良く飛んでいき直撃すると、爆発を起こして相手を怯ませた。
すかさず追撃をかけるべく駆け出すと、すれ違いざまに相手の首を切り落とした。
「ふう、これでひとまず安心だな。」
「助かったぜ。ありがとよ」
「気にしないでくれ。それよりもさっきの魔獣だが、少し妙だったな。」
「そうなのか?」
「ああ、本来この森は強力な結界が張られていて、中に入ることはできないはずなのにどうしてこんなところにいたんだ?」
「そういえば、そんな話を前聞いたことがあったな。確か何か特別な事情があって、一時的に解かれたとかなんとか……」
「へぇ、そうだったのか。それは知らなかったな。」
「ああ、だからお前が知らないのも仕方ないことだと思うぞ」
「なるほど。そういえば君はこれからどこへ向かうつもりなんだい?」
「とりあえず、近くの街まで行ってみようかと考えている」
「そうか。僕も同行させてくれないか?」
「別に構わないけど、どうしてだ?」
「一人でいるよりは二人でいた方が安全だからだよ」
確かに彼の言う通りかもしれないと感じた俺は素直に従うことにして了承した。
あれからしばらくしてようやく到着した町の名前は『ウルバ』というらしい。
なんでもこの国で最も栄えている場所らしく、様々な人々が行き交っている。
ちなみにここへ来るまでの間に色々な出来事がありすぎて正直疲れた。
なので今日はこの辺りで休むことになった。
「いらっしゃーせー!何か買っていくかい?」
「この辺に美味しいご飯屋さんとかありますかね?」
「それなら、あそこにある店なんてどうだい?安くて量も多いし味も保証するよ」
「じゃあ、そこにしますね」
「まいどー」
店の外に出てから先程のことについて尋ねてみると彼はこう答えてくれた。「いやぁ〜まさかいきなりあんなことになるとは思わなかったね〜」
……やっぱりこいつは馬鹿なんじゃないだろうか?
まあいいや。
さてと次はどこに行こうかな?
と考えながら歩いていると誰かにぶつかってしまった。
急いで謝ろうとすると相手の方が先に謝罪の言葉を口にしてきた。
「ごめんなさいね。怪我はないかしら?」
と聞かれたので
「はい」
と答えると彼女はホッとした様子を見せた後笑顔になり
「よかったわ。貴方は見たところ旅をしているみたいだけど、どこかに向かう予定でもあるのかしら?」
「いえ、特に決めてはいないですね」
「あらそうなの。それなら私の家で休んでいかないかしら?宿代の代わりに食事を用意するけれどどうかしら?もちろんお詫びと言ってはなんだけど、それなりにいいものを出すと思うのだけれども」
「えっと、せっかくのお誘いなんですが遠慮させてもらいます」
「そう」
彼女は悲しい顔になった。
これはまずいと思い
「お断りしてなんですが今更ながら好意を受けたいと思います」
「本当!?」
そう言った彼女の表情はとても明るくなっていた。
それから彼女に案内されて家に着いた。
そこで彼女と話しているとどうやら彼女は貴族の娘であり、今回の旅行はその領地内で開かれる祭りに参加するために訪れたということがわかって、それならば是非とも参加して欲しいと言われた。
俺としても特に断る理由もなかったこともあり、参加することに決めた。
それから少しして夕食の時間になった。
メニューはビーフシチューでとても美味しかった。
食後のデザートとして出てきたクッキーも絶品だった。
そして現在入浴中である。
体を洗って湯船に浸かっているのだが、これがまた最高に気持ちが良い。
しばらくすると突然風呂場の扉が開かれ、一人の女性が入ってきた。
その女性はバスタオルを巻いているものの、体のラインがはっきりと分かるため、どうしても視線がそちらに向いてしまう。
「ねえ、私と一緒に入らない?」
「それはちょっと無理です」
即答である。
だってしょうがないじゃないか。理性を保つ自信が無いんだもん。
「じゃあ、背中を流すくらいはしてくれる?」
「それなら大丈夫ですよ」
ということで一緒に入る羽目になってしまった。
「痒いとこはないですか?」
「はいっ、丁度良い感じよ」
その後、無事に洗い終えることができたのだが……
彼女が突然後ろから抱きついてきた。
「ちょっ!」
「うふふ、可愛い反応をするのねぇ」そのまま押し倒されてしまい、さらに強く抱きしめられた挙句耳元で囁かれてしまった。
「私はあなたに一目惚れしてしまったみたいなの」
こうしてまた一人新たな犠牲者が生まれたのであった……
翌朝、目が覚めると隣には見知らぬ女性がいた。
(……誰?)
と思っていると向こうも目を覚ましたようでこちらを見ると驚いた顔をした後、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おはよう。よく眠れたかしら?」
そう言いつつこちらを見つめてくる。
それに対して俺は
「はい……」
と答えると続けて質問を投げかけようとしたところで、
「おい!起きろ!」
という声が聞こえたため慌ててベッドから抜け出すと、そのまま部屋を出て行った。
「朝から騒がしくしてすまないな」
と申し訳なさそうに言われてしまった。
「別に気にしていないから問題ない」
「なら良かった。朝食ができているが食べていくか?」
「そうさせて貰おう」
そう言ってテーブルに着くと、パンとスープが出された。
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