勇者道中記
みなと劉
第1話
ある国
王様は嘆き悲しみそして勇者を召喚した。
1章:王都編
「……うーん」
俺はベッドの上で上半身だけを起こし、大きく伸びをした。
窓から差し込む光で室内はかなり明るい。
今日もいい天気だなぁ。
昨日は夜更かししてしまったので少し眠いけど、まあ大丈夫だろう。
「よしっ!」
気合いを入れ直してベッドから降りると、俺はパジャマを脱ぎ捨てて着替えを始めた。
身支度を整えた後、部屋の外に出る前に鏡の前で自分の姿をチェックする。
鏡に映っているのは黒髪黒目の平凡な顔立ちをした男の姿だ。
身長は高くも低くもない平均的なもので、体格は筋肉質という訳でも痩せているわけでもない。
服装はこの世界の標準的な服であり、特別目立つようなものでもない。
俺の名前は高坂京介。
17歳。
どこにでもいるようなごく普通の高校生だ。
趣味は読書とゲーム。
あとはスポーツやカラオケなんかも好きかな?
友達も多い方だと思うし、彼女だってちゃんといたこともある。
……ただ最近は忙しくって全然会えてないんだけどね。
そういえば最近、幼馴染みにも全く連絡が取れていないな……。
元気にしているだろうか?
そんなことを考えながら部屋を出て廊下に出ると、丁度同じタイミングで隣の部屋から出てきた人物がいた。
「あら、おはようございます。キョウスケ様」
彼女はこの城に仕えるメイドさんの一人だ。
年齢は20代前半くらいに見える。
名前は知らないけれど、いつも笑顔を絶やさない優しい女性である。
ちなみに美人だ。
「はい、おはようございます」
「本日のご予定ですが、朝食後すぐに謁見の間へとお越し下さいとのことです」
「分かりました。ありがとうございます」
「いえいえ。それでは私はこれで失礼致します」
一礼をして去っていく彼女の後ろ姿を見送った後、俺は食堂へと向かった。
◆ 食堂に入ると既に何人かの見知った人達が集まっており、皆それぞれ思い思いに食事を取っていた。
「よぉ! 相変わらず遅いじゃねぇか! もう昼前だぜ?」
最初に声を掛けてきたのは赤毛の男だった。
背が高くてガタイが良いその男は、俺と同じ日本からの転生者らしい。
名前は確か……そう、火野竜馬だ。
彼は俺より一つ年上の先輩に当たる人で、今はこうして一緒に行動していることが多い。
「悪いな。ちょっと寝坊しちゃったんだよ」
「まったくお前は、これだから……」
「ハハッ! まあまあ落ち着けって。それより早く飯食おうぜ!」
苦笑しながら席に着くと、給仕係の女性が食事を運んできてくれた。
メニューはパンとスープとサラダといった感じで、味の方もそれなりである。
食べ終えた後は、竜馬と一緒に城の中庭に出て軽く運動することにした。
体を動かし始めてからしばらく経った頃。
突然背後から声をかけられた。
「よう! 精が出るな!」
振り返るとそこには一人の男が立っていた。
見た目は40代後半くらいで、白髪混じりの髪をオールバックにして後ろに流しており、鋭い目つきをしている。
また口元には立派な髭を蓄えており、見るからに只者ではない雰囲気を放っている。
彼こそがこの国の王――つまり俺達の雇い主である国王陛下だ。
「おはようございます」
「ああ、おはよう! ところでどうだい? 少し話でもしないかい?」
「えっと……はい。いいですよ」
「よしきた! なら付いて来てくれ!」
そう言うと国王陛下は踵を返し歩き出した。
俺達は慌ててその後を追いかける。
向かった先は城内にある庭園だった。
「ほら見てみな! 綺麗だろう?」
目の前に広がる景色を見て思わず息を飲む。色とりどりの花々が咲き誇っており、風に揺れる花びらがとても美しい。
「これは凄いな……」
「だろう? 私もこの光景を見る度に心が癒されるよ」
それからしばらくの間、他愛もない雑談をしながら時間を潰すことにした。
「そうだ! 今度二人に頼みたいことがあるんだが聞いてくれるかい?」
「はい。なんでしょうか?」
「実は君達にある場所の調査に行って欲しいと思っていてね」
「調査ですか? それは一体どんな内容のものでしょう?」
「うん。とある遺跡について調べて欲しいんだよ。」
「あそこって昔から不思議な力があるとか言われていてさ。」
「もし本当に何かあるんなら是非とも調査したいと思っているんだよね。まぁ別に何もなくても構わないんだけど。」
「あっ! もちろん報酬はちゃんと出すから安心してくれよ?」
「それに君達が嫌だって言ってくれれば他の人に任せることもできるし」
「そういうことであれば構いませんよ。俺で良ければ引き受けます。ただ、その依頼内容だとあまり長期間になるかもしれないですね。」
「俺達は学生なので長期休暇の時にしか動けないんですけど大丈夫ですか?」
「ああ、問題ない。期限は特に設けていないからね。それと報酬についても心配はいらないよ。ちゃんと用意する。」
「ありがとうございます。それでいつ頃から始めましょうか? なるべく早い方がいいと思うのですが……」
「それについては明日からでもいいかな? 今日中にこちらで準備を整えておくから。」
「分かりました。よろしくお願いします。」
「おう! 任せとけ!」
こうして国王陛下との会談を終えた俺は、竜馬と共に城の部屋に戻った後すぐに眠りについたのであった。
◆ 翌朝。
目が覚めた俺は身支度を整えると、早速出発の準備を始めた。
必要な荷物をまとめている途中でふと思ったのだが、そういえばこの世界に召喚されてからもう一ヶ月近く経つのだということに気付いた。
この異世界に来たばかりの頃のことは今でもよく覚えている。
あの時はいきなり王様から勇者として魔王を倒してこいと言われて、正直戸惑っていたものだ。
だが、今ではこの世界での生活にも慣れてきたし、この世界の人々も良い人達ばかりだ。
最近では元の世界のことが段々と懐かしく思えてきてしまっている自分がいたりして、それが何だか不思議でもある。
まあそんなことを考えていても仕方がない。とりあえず今は目の前のことに集中しよう。
そう考え直した直後、部屋の扉がノックされた音が聞こえてきた。おそらく迎えが来たのだろう。
「失礼します。お二方、そろそろお時間です」
部屋に入ってきたのはメイドさんだった。
彼女の名前は知らないが、いつも笑顔を絶やさない優しい女性だ。
ちなみに美人である。
「分かりました。すぐ行きます」
「お待ちしています」
部屋を出て廊下を歩いている途中、竜馬が話しかけてくる。
「なあ、これから行くところってどこなんだっけか?」
「確か……遺跡の場所までは馬を使って移動するって言ってたような気がするが……。」
「おいおいマジかよ!?」…………..
「うわー! はやいはやい!めっちゃ速いぞこれ!」
(テンション上がりまくりの竜馬)
「ちょっと竜馬!危ねぇからあんまり動くなって!」
「へぇ〜!これが馬車の旅っていうのか!なかなか楽しいもんじゃねぇの!」
「聞けよこら!」
〜数時間後〜
「到着しました」
「やっと着いたみたい……って、ここ何処だよ?」
目の前には巨大な石造りの遺跡らしきものが建っている。
「えっと……確かここは古代都市【イシュタル】と呼ばれていた街らしいな」
「はあ……そうなの……ってお前なんで知ってんだよ?」
「昨日のうちに城の書物を調べておいたんだよ。まぁ、昔の地図なんかもあったから結構大変だったがな」
「なるほどな。まあいい!それより早く行こうぜ!」
「待てよ竜馬!」…………
「あれ? 誰もいないじゃないか」
「おかしいな……」
「すみませ~ん!誰かいませんか?」
呼びかけながらしばらく待っていると、奥の方から一人の老人が現れた。
彼はこの遺跡の管理者であり、代々この場所を受け継いでいるのだという。
「おお、これはこれは。ようこそ、我が国へとおこし下さいました。私はこの遺跡の管理を任されております、セドリック・ノーランドと申します」
「初めまして。私の名前は佐藤勇人といいます。そしてこちらは火野竜馬先輩です」
「どうも! よろしくな爺さん!」
「はい、こちらこそどうぞ宜しくお願い致します。ところで本日のご用件はどのようなものでしょう?」
「実はですね……」
「ほほう、そのような事情がおありだったとは……」
「それで、その場所について教えてもらえませんか?」
「もちろん構いませんよ。それではこちらに付いてきて頂いてもよろしいでしょうか」
「はい、分かりました」
そう言うと、俺達は彼の後に続いて歩き始めた。
それから数分程歩いたところで立ち止まると、目の前の壁に向かって手をかざし始めた。
すると壁の一部が光を放ち始める。そのまま暫く見ていると次第に光が収まっていき、最終的にそこには地下に続く階段が出現した。
「どうぞこちらに。足元に気をつけて降りてください」
言われた通りゆっくりと慎重に進んでいくと、やがて広い空間に出た。
その中心にはかなり大きな魔法陣が描かれている。
「こちらが目的の場所になります」
「えっと、具体的にはここで何をすればいいんですかね?」
「はい。この魔方陣に血を一滴垂らすことで、この先にある道への鍵が開かれる仕組みになっております」
「なるほど。分かりました」
「それじゃあ早速やってみるか」
そう言いつつ俺達はそれぞれの指先に針で傷をつけ、出てきた血液をそれぞれ指定された場所に一滴ずつ垂らしていった。
「これでよし。さあ、いよいよだ」
次の瞬間、俺達の目の前で信じられないことが起こった。
突如として地面が激しく揺れ始め、その振動によって立っていることすらままならない状態に陥ってしまったのだ。
「ぐっ、一体何が起こってるんだ!?」
必死に耐えながらも周囲の様子を伺っていると、突然視界が真っ白に染まった。
あまりの眩しさにより目を開けていられなくなり、慌てて瞼を閉じると同時に意識が遠のいていく。
そんな中、俺は最後に何かの声のようなものを聞いた気がした。
「汝よ。選ばれし勇者達よ。どうかこの世界を救ってくれることを願っておるぞ………………」………………
「……ト。ユウ……!おい、起きろってば!!」
「……うぅ……ん」
「おっ、やっと起きたか。まったく、心配させやがって」
「すまない。少し眠っていたようだ。それで、ここはいったいどこなんだ?」
「それがよ、まだ目がチカチカしててよく見えねえんだけど、とりあえず近くには何もないっぽいぜ。」
「ということはつまり、あの時現れた謎の白い閃光のせいでここに飛ばされたというわけか。」
「ああ、多分そういうことだと思う」
「それにしても本当に何も無いところだな。」
周囲を見渡してみてもそれらしきものは見当たらない。
仕方なくしばらくの間そこで待機していることにした。
「しかし、こうやって二人で話してるとあの時のことを思い出してきちまったな。」
「あの時って、まさか……」
「そう。お前が勇者だって分かったときのことだ。」
「あれは正直かなり驚いたぞ。何せいきなり国王陛下がやってきて、お前が勇者だなんて言ってきたからな。」
「そういえば、お前はあのときのことをよく覚えていないとか言ってたよな?」
「あ、あぁ……まあそうだな」
「まあ、仕方がないといえばそれまでだが、それでもちゃんと受け止めるべきだったと思うぜ。」
「確かにそれは否定できないな。今となっては反省するばかりだ」
「そうか。ならもう同じ過ちを繰り返すんじゃねぇぞ。」
「勿論だ。二度とあんな思いはごめんだよ」
「分かってんならいいけどよ。……それよりそろそろ帰ろうぜ。こんな何もねぇところに長居するのは御免だからな」
「それもそうだな。」
こうして再び地上に戻った後、セドリックさんの元まで戻ると遺跡の扉が開かれた状態でそこに立っていた。
「お帰りなさいませ。無事に目的を果たすことができたようでなによりです」
「はい、ありがとうございます。ところで、ここから元の場所に戻るにはどうしたらいいですかね?」
「それならばこちらをお使いください」
そう言うと彼はポケットから一つの指輪を取り出してきた。
なんでもこれは遺跡の中にある転移装置を使うために必要なアイテムらしい。
それを受け取ってから礼を言い、改めて別れを告げる。
そして、俺達は王都に向けて出発した。
その後、特に問題もなく無事に帰還した俺達は城へと戻り、今日一日の疲れを癒すべく早々に就寝することにした。
ちなみに竜馬とは一旦別れた後、明日の昼頃に待ち合わせをすることになっている。
そんなことを考えているうちに眠りについた俺は、翌朝いつも通りの時間に起床した後、朝食を済ませた後に訓練場へと向かった。
〜〜〜
「ふむ、やはり君が一番乗りのようじゃのう」
「ええ、他の皆さんはまだ来られてないようですね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます