第38話 あわいを巡る断章その3(25話)の続き
吉祥と祝福の都――魔都――そこにて発見・発展して来た水魔道のおかげで、その交易圏にあるとても広大な地の人びとが生きていける。それは魔都と各地を結ぶ街道沿いの町も例外ではない。ゆえに、魔都に悪意を抱くはずもなかったが。
ただ、人というのは不思議なもので、その目の当たりにしたものを理解しがたきと直観したとき、自らに引きつけて、そうとみなす。少なからず悪意の無いところにも、噂が生じるゆえんである。
そうして実際のところ、悪意まみれと聞きまごう噂が立った。血まみれの鉄甲騎士団が魔都へと狂奔しておると。
彼らはその住まうところ――街道沿いに残る伝承のままに理解したに過ぎぬ。そう、かつて――といっても、神話とも伝説とも言い得るほどに昔のこと――南方の遊牧勢の騎士団が度々魔都を襲撃したとの。乾燥化が進むこの地にては、そうしたことは絶えて久しく、無論、彼らは見たことさえなかったのであるが。
実際、その内実はといえば、血まみれというほどにおどろおどろしいものではなく、ただ、その身につけておる
ただ不思議なところがまったくない訳ではない。その鉄甲を身につけておる者たちが、血はおろか肉さえ残っておらぬ骸骨どもであったから。しかも馬も人もそろいもそろってであった。
重装騎士団――それは身を堅く守るも、あまりに重いために機動力が大いに劣り、ゆえに後に軽装の騎士に取って代わられる――騎士団は騎士団でも、歴史のとても深い古層に位置する者たちでもあった。
更にいえば、馬の背に乗っておればまだよいが、馬の腹にぶら下がっておる者。全身をずりずりと引きずられておる者もおれば、度々頭を地にぶつけては跳ね返っておる者。何が嬉しいのか、馬と併走しておる者もおれば、馬をかついで走る者までおる。
舞いあげられる土ぼこりの中にそれらを見た人びとは、それでも、これを蜃気楼とは想わず、幻影とも想わず、現実のものとして語り合ったのだ。
ただ、そのひづめに踏みにじられても良いから近付いてみようなどという酔狂な者などおるはずもなければ、その一足一足の度にカタカタと鳴る人馬の歯の大合唱のみは、その噂から洩れた。
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