第35話 十二行2

 彼はもうろうのただ中にあった。自らの体もろくに動かせず、分厚い膜越しに外界と接しておる如くであった。確かに、見て聞いておるのだが、それらが何を意味しておるのか理解できなかった。そう、行動に劣らず、思考もままならなかったのである。ゆえに、自らの状況も把握できておらなかった。


 ただ聞こえて来る言葉の中で、次の二つになぜか馴染みをおぼえた。一つは『ネフェルタ』、もう一つは『魔都』。




 そんな中で彼が夢中になっておったもの。というより、これのみがなし得た。しかも、全て頭の中で。


 複雑な形状をした二つのものが、互いに絡まりあっておった。ただ、その両者の向きなり、位置なりをうまいことやれば、分離することができた。なぜか、彼の内にはそれらが無数にあり――しかも、各々異なっておった――いくら、ほどいても終わるということはなかった。




 それを続けていたからだろうか。一つの情景が心に浮かんで来た。そこでは彼は年端も行かない子供となっておった。それが今の彼でないことは分かった。懐かしさを感じたからだ。


 やはり同じくらいの二人の子供――一人は男の子で一人は女の子だった――と、誰が一番早くほどけるかを競っておった。


 男の子は明らかにそれが苦手のようであった。女の子の方は彼と同じくらい、それが得手のようであった。ただ、どちらが勝つというところまで、その情景が進むことはなかった。


 そうして、二つの言葉がやはり懐かしさを伴って心に浮かんだ。アンブロウズ、そしてリアン=ココ。

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